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Vtuberにこそ知ってほしい著作権

Vtuberに限らず動画での表現には多数の他人が作った制作物を使うことになる。Vtuberの場合はその自身の肉体そのものが自分で制作したわけではないことも多々あり、このあたりの権利関係のトラブルが後を絶たない。

元々何かしらの表現者であることが少なくないVtuberの場合、イラストレーターや作曲家などの違う畑に居たものが動画作成という新たな成果物を作るために、これまで触ってきていなかったものを初めて導入するといったケースが多いことだと思う。

動画製作者は紛れもなくクリエイターである。そこで、動画を制作するために他のクリエイターの作品を使用するにあたって、また自分の制作物を他のクリエイターに使ってもらうにあたって、気をつけたいポイント、制作物ごとのライセンス等を紹介してみたい。

よくわからない著作権絡みの話

詳しい法的な内容は各々調べてもらうとして、基本的に全ての人工物にはその製作者が居て、どこかの誰かに著作権があり、勝手に使ってはいけない…というのはなんとなくみんなわかっていると思う。この使ってはいけないという部分を著作者が他人の著作の制作のために条件付きで緩和しているのがいわゆる素材である。しかしその条件がよくわからないケースが多く、使って良いのか悪いのかわからずに使えない。使えないならまだしも悲しいかな無視して使うケースも稀によく見る。いくつかぶちあたりがちな条件や用語と内容を挙げていく。

著作者名表示

「使用するときにはわたしの名前を入れてください」あるいは「使用するときにはわたしの名前を入れないでください」というもの。これは著作者人格権の中の氏名表示権の行使にあたる。製作者の売名行為として受け取られがちで、自分の作品の中に他人の名前を出したりしたくないなどの理由で避けられがちな条件のひとつ。
ただ、これに関しては考え方の一つとして「その制作物を作ったのは誰か」を明らかにする事ができる…とも考えられる。
例えば、写真家や漫画家が写真や漫画を条件付きで掲載、それをどこかの誰かが無断で無条件再配布としてばら撒いたものをあなたが掴んで使用したとして、その写真家から直接クレームが来た場合に対応ができるだろうか。おそらく、いちいちどこからダウンロードしたのかなんて覚えていない上、写真家の権利を侵害しているのは間違いないのだから利用料支払いに応じる以外はないだろう。登録型フリー画像サイトからならまだしも、Twitterや画像掲示板で拾った画像ならなおさら言い逃れできない。
また、例えばあなたがイラストレーターで、風俗店などのえちえちな依頼を受けたとして、イラストレーターとして名前を出されては困る場合などにも使うことが出来る。

商用利用

実は商用という言葉に定義はない。権利者側も何が非商用でどこからが商用なのかの線引が一定ではないし、そもそも想定していなければ決まっていないことだってある。
非商用利用しか認めていなくても個人制作Youtube動画に使っても良いものもあれば、企業案内動画などでもOKだが名刺に使うのはアウト、ソフトウェアなどでは個人PCはOKだが会社のPCではダメ…など、ものすごい幅がある。
例えばVMware Playerなどは「非営利のみ利用可能」だが、企業のPCに入れることもできるし、インストール済みPCを持参させて受講セミナーなども出来たりする。要は貸与や譲渡で利益を得なければ非営利という考え方。
Youtubeにアップする動画に使用する素材にあるものとしては、広告を付けなければOK、そもそも広告がつけられるYoutubeにアップするのは利益出てようが出てまいが不可…などといろいろ解釈があるので、可でも不可でも用途を説明して許可を取るのが無難だし、第三者が口を挟むことではない。

逆に言えば、クリエイター側としてはどういうケースを商用として想定しているかというのを自サイトにでもケースユースで明記するのがベターである。広告付き動画のBGMはOKだけど勝手にオムニバス・アルバムにまとめて販売しちゃダメとか、同じ販売でも企業はダメだが同人はOKなケースもよく見る。イラストなら200px四方、印刷時2cm四方までなら企業パンフレットに使ってもいいよとかだろうか。ちなみに某いらすとやは20点までなら法人の商用利用でも使えるそうだ。こうしたルール決めなども一考したい所。

Vtuberとして考えたい商用利用に当たりそうなケース
(イラスト)
・投稿者に収入の入る広告付き動画あるいは広告掲載可能な動画サイトでの使用
・上記動画への流入を目的としたTwitterでの宣伝画像
・Vtuber自身あるいはサブキャラクターの活動用モデルとしての使用
・アクリルフィギュアなどの物販への展開
(音楽)
・投稿者に収入の入る広告付き動画あるいは広告掲載可能な動画サイトでのBGMとして使用
・上記動画をまとめたDVDなどの販売、また販売会現地での音楽再生
・カラオケとしての利用
・演奏してみた、歌ってみたなどの利用(演奏権なども絡む)
(3DCG)
・投稿者に収入の入る広告付き動画あるいは広告掲載可能な動画サイトでの置物として使用
・Vtuber自身あるいはサブキャラクターの活動用モデルとしての使用
・販売を前提としたゲームや映像作品への利用
・3Dプリント等物理的立体物への出力
(映像)
・投稿者に収入の入る広告付き動画あるいは広告掲載可能な動画サイトでのOPやED、エフェクト、紹介として使用
・上記動画をまとめたDVDなどの販売、また販売会現地での映像再生
・スクリーンショットなどを雑誌やブログ記事で掲載

上に行くほどゆるいとかそういうのはないし他にもあると思う。
権利者側としては可否だけでも良いし、あるいは売上の10%で許可するとか、今年の8月末尾までOKとか様々な条件付が考えられる。

改変

著作権-翻案権と著作者人格権-同一性保持権。改変によって著作物に対するイメージが損なわれることから守られる権利。卒業式の定番である大地讃頌がジャズアレンジによって訴えられたり、ときメモのクラックセーブデータ販売でストーリーが捻じ曲げられたなどの訴えが有ったりとそれなりにちょいちょい名を残す侵害が発生している。
これもまた、どこまでがOKでどこからかダメかと言うのは著作者、著作物によって変わってくる。音楽であれば替え歌やアレンジ演奏(これはこれで編曲権というのも絡んでくる)、画像であれば拡大縮小からトリミング、背景透過、色調変更、ぼかし、変形、ありがちなのは写真の人物に吹き出しで何か喋らせる等々…某現代アート集団によって芸術の名のもとにイラスト等を八つ裂きされた者もいるだろう。記憶にあたらしいのは、Twitter上でRTされたときのトリミングや、アイコンにしたときの丸くされるのが同一性保持権の侵害でアウトになったケース。実際html上ではトリミングではなくて描写範囲を制限したマスキングなのだがそれでもダメ。
また、私的改変…つまり自分の手元でお楽しみになるのも止めることが出来るし、改変するためのツールの販売自体も止めることが出来る。実際デッドラ2のキャラを全裸にするツールがこれでテクモにメッされた。そのぐらい改変というのはセンシティブで超強力なお話。
特に二次創作界隈にどっぷり浸っている人はちんちんサクッと生やすくらい当たり前に見ているので麻痺しているが、イラストや音楽のような現物ではないキャラクターにもしっかりあてはまる。ちんちん生やすのは権利侵害です

直近でVtuber絡みであったものでは、版権キャラクターの二次創作3Dモデルが改変可能となっていて、髪色を変えて元のキャラクターとは別のキャラクターとしてVtuberデビューしたというもの。
3Dモデルの改変自体は許可されていても、版権キャラクター自体の改変は許可されていないというのがポイントで、3Dモデル作者の想定していた改変というのはあくまで元々の版権キャラクターがそのキャラであることを維持した状態での改変…せいぜい服を着替えるとか髪型を変えるとかそのぐらいだったのではないかなと想像する。まさか別人として活動するとは…。ただ、この辺はモデル作者にしかわからないことだし、そもそも今はVtuber側も正して新たに3Dモデルを作るとのことなのでこれからに期待したい。
ともかくとして3Dモデルも改変というものが可能で、どこまで可能かというのはもちろん製作者によって異なる。
改変可能モデルをかき集めて首跳ね飛ばして並べても法的には改変可否については問題ないなどと言い出す輩も出てこないでもないので、モデル提供者側としても公共良俗やアダルトの可否などをセットにして、後で活用してるところを見かけて不快にならないように予め明記しておこう。

ちなみに、テセウスの船ではないが、元の物が残らないほど改変を繰り返した場合、新たな著作として認められて同一性保持権の侵害は消滅する…とされている。

再配布

著作者ではない者が第三者に著作物を譲渡する行為のことで、有償無償は関係ない。再配布は著作権が放棄されているものかライセンスや著作者が許可をした場合を除いて、著作権複製権侵害で違法行為となりこれを海賊版と呼ぶ。素材として提供されたものを使用して作成した映像などにその素材が映り込むことは再配布とは言わないので注意。

一方で一発ネタ画像やリプ用画像などを作成して広く使ってほしい場合には、明示的に再配布の許可を出すといい。出さなくても使われるけど後出しで通報できるリスクを考えて手が止まる人もいるかも。

ママ

Vtuberとして活動するにあたって自身でモデルを制作できない場合は、その制作を誰かに発注するのだが、この製作者が往々にしてママと呼ばれている。著作権はこのママに自動的に帰属するが、Vtuber自身に譲渡することも出来る。著作権を譲渡してもらえれば、複製や販売などの権限をVtuberの裁量で行使することが出来る。
例えば、アクキーの販売、二次創作の許可(ファンアートとか描いてもOKな権利とかR18はダメだって言える権利…ただし改変の都合次第ではマママター)など。

ただし!

ただし、著作者人格権は譲渡が出来ない。これは譲渡の出来る著作権が財産なのに対して、著作者人格権は人格を守るもの…つまりVtuber自身の活動によってママが被害を受けることのないようにするためのものである。
著作権を譲渡してもママに残る著作者人格権は次のようなもの。
(公表権)未発表作品を勝手に公開されない権利
(氏名表示権)Vtuberにママの名前を出させたり、絶対に出させない権利 上記の著作者名表示の部分を参照。
(同一性保持権)上記改変の権利。
(名誉声望保持権)Vtuber側が悪さをしすぎてママの評判まで悪くなるのを防ぐ権利

ママという呼称を気持ち悪がる声もあるが、こうしてキャラクターの著作権自体が譲渡された後もしっかりと関係性が生きていることを考えると、個人的には迷惑をかけづらいブレーキ的な呼称にもなってるなぁと感心するばかり。

閑話休題

ここまでは許諾関係の話でした。
権利者は著作物の使い方について何をどこまで許可して何を要求するか全部決めていい。わたしが以前見かけたのは、「一つ売れる度に酒を奢れ」という日本酒ウェアやビールウェア、変なものだと「住んでるところの絵葉書をおくれ」というポストカードウェアなんてのもあった。許可範囲と要求内容が自由ということは、つまり、権利者に問い合わせしないといくらでどこまで使えるのかさっぱりわからないということでもあったりする。

一方でそれを管理するのも大変だし、せめて許諾ルールや売買は決められたフォーマットでやりたい…ってことでここからは素材売買サイトやライセンスで見かける話

フリー素材

謎。
明確な定義はなく、無料だったり無制限だったり別にそんなことはなかったりするししない。

これ、冗談ではなくマジな話でして、さもお手軽に使える風の検索対策引っ掛けワードぐらいに思っておいた方が良い。ちゃんとした企業がやってるフリー素材サイトなら利用規約がしっかり書いてあるのでそれに従って契約の上利用をしよう。

ロイヤリティーフリー

無料のことではない。事前の契約をして購入をしたら後は自由に使えるということ。ちなみに自由と言っても使用回数や用途などに制限があったりするので実質自由ではないが50万表示だのそのままマグカップに貼り付けんななどなので普通に使う分には実質自由。もちろん買った人しか使用権限はなく、譲渡などは不可。認識として一番近いのはケータイのカケホーダイとかかなぁ。要するに使用権がフリー
一部これをフリー素材と謳うサイトも有る。

ライツマネージド

ロイヤリティーフリーと対比して置かれることの多いライツマネージドは、ロイヤリティーフリーのカケホーダイ的なプランとは違ってここ一発で使う単発契約型の素材のことを指す。使用回数や使用期間に制限があったりして権利的にガチガチだが、よそと絶対にかぶらない独占契約が出来るのでロイヤリティーフリーでありがちな競合他社との画像かぶりが起きない。大企業が駅広告なんかで使う。超高い。
こういう契約があると知ってるとロイヤリティーフリーが何がフリーなのかってのがわかりやすいね。

パブリックドメイン

公共物。完全無欠のフリー素材。ただ国によって微妙に解釈が異なってるのが現状なので、明示的な著作権放棄モノを求めるならCC0から探す。
要は著作者が何かしらの理由で存在しておらず誰にも帰属していない状態の著作物のこと。例えば、日本では著作者の死後50年(もしくは70年)経過したもの、死後承継人が居ないものなどがこれに当たる。あとサルの自撮り
FBIが撮影した容疑者の写真とかもパブリックドメイン。出会い系サイトで使われまくり。やばい。

で、これで問題になってるのが、上に書いたCC0…万国共通の著作権放棄。
他人の作品を無断でCC0でバラ撒いてる輩がちょいちょい居るので、利用する前にはその作品が本当にパブリックドメインなのかを確認したい。どう確認するのかはわからない。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

さんざん許可関係の話をしてきたが、いちいち許可取るのも許可出すのも大変というのでこういったライセンス宣言というものがある。ライセンスを予め宣言しておけば、その範囲が権利者と利用者の間でサクッとわかる。

さてクリエイティブ・コモンズは「CC」で始まる明示的なライセンスで全世界共通で著作物全般に使える。出来ることは、氏名の表示(BY)と継承(SA)非営利(NC)と改変不可(ND)の4種類。BYは絶対に必要であとは選択式で6つのパターンが有る。継承というのは「これを使って作った作品もクリエイティブ・コモンズの同じルールを宣言すること」というルール。元の素材が非営利ならそれを使って作ったものも非営利にしてねということ。
youtubeにアップした動画もこのクリエイティブ・コモンズ(CC BY)を適用させることが出来る。自分の動画をクレジット付きを条件に自由に使ってもらえる。

他にもライセンスはいっぱいある

ソフトウェアだとプラグイン絡みのソースコード共有のためにライセンスで融通するのはかなり昔から有って、GPLとかBSDとかMITとかめっちゃいっぱいあるけど、Vtuberでこの辺扱ってる人はわたしなんかより遥かに詳しいので割愛。

最後に

自分の作品に人の作品と名前を入れること。これは恥ずかしいことでも何でも無いし隠すことでも何でも無い。自分はこの人のこの曲が好きなんだとかイラストが好きなんだとか、そういった感想はいくらでもTwitterで出来るのに動画作品内だと別っていうのはちょっとおかしいと思う。

「許諾を取る」というと手続きみたいで堅苦しいが、「あなたの作品をうちの作品の中でぜひ使いたいんだ」と言われて嫌な顔をするクリエイターはよほど人間的な問題がどちらかにない限りはまず居ない。

以前にも書いたが、動画作品というのはイラスト、音楽、編集、声、企画などのエンターテイメントが詰まった集合体で、実際これを一人でこなすのは超大変。これまで一つの畑の中で切磋琢磨してきたクリエイターが、Vtuberとして他の畑の連中と肩を並べてぜんぜん違う畑に手を出したら、「こいつすげぇな」「あいつもやべぇな」なんて毎日思う。

そうした憧れと感謝を伝えるついでに、自分はこういうことがしたいんだ。だから協力してくれないか。と言うだけのこと。あこがれの人との距離は縮まるし、その世界の一端を見ることが出来る。なんと素晴らしいことか。

自分の作品に使いたい!っていう製作者を見つけたら、ぜひ、交流のつもりで話しかけてみて欲しい

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