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ウィーン・名古屋まんぷく日記 57-60/369

 日本にいる間も書こうと思ったんだけど忙しくて全然書けなかった……。

 ベルリンから帰ってきて、二日間は名古屋の研究会の準備。同僚(兼、計量の師匠)と集めた調査データを分析してみる。インタビューもわりとそういう側面があるかもしれないけど、SPSSの使い方って長くいじってないとすぐ忘れる(毎年、後期の講義でしか使っていないので前期に入ってしばらく経つとすぐ忘れる)。面白い発見が出てきたけど、本当にこのまま報告していいか分からないので、LINEで師匠に聞きながらよちよち分析を進める。同時並行で、研究科の人に日本のおみやげは何がいいか聞いて回るが、文房具も日本グッズも、さすが日本学科という感じのチョイスで驚いた。伊勢丹とか世界堂にあるといいのだが。

 いつもウィーンを発つときは、朝出て翌日朝に関空に到着するアムステルダムorパリ経由の便に乗る。なぜなら安いから!機内でも名古屋の研究会の準備をするけれど、新聞のポップ欄の寄稿締切がせまっているので、何か面白い映画とか音楽はないかと漁っていたら、映画『The Hate U Give』がとても良かった。しかし、どうも日本では公開されていないらしい。
 白人の多い、表面的にはリベラルな高校で「良い子」として振る舞い、「怒る」ことを封じられた黒人の女の子が主人公の映画なんだけど、学校での友達とのコミュニケーションや「地元」でのやりとりの些細な間がとてもいい。この年頃の主人公が感じそうな、社会運動への違和感を言葉にしているのもすごくいい。
 「黒人も白人も関係ない。大事なのは人間性だ」という友達に対する「肌の色を無視すれば見ないのと同じ」という主人公の言葉が印象に残る。

 翌朝関空について、京都で途中下車して師匠に指導を仰いだのだが、今回はインタビュー調査も使うから単純集計だけでいいんじゃない?そんな凝ったことしても……という話になった。確かに、面白い発見があってもストーリーがわけわかんなくなるのならあんまり意味ないのはそうだなあ。師匠と別れて名古屋に行き、レジュメを作成する。
 研究会でいただいた質問の中で印象深かったのは、社会運動らしさ(先行研究だとActivist Identityとかいったりする)が集合的アイデンティティや連帯の基盤に当然なるわけで、どちらかというとそれに圧し潰される側面を強調している、それは富永が組織でなく個人を検討しているからではないか(これは質問の視角こそ違えど、週末のNPO学会の質問にも繋がるところ)というもの。その「らしさ」にポジティブに向かおうとする側面は、以前論文で検討したような気がするけど、実態だけであまり理由は書いてないから、結局「それでも、なぜ、社会運動らしい社会運動を志向するのか」ということを組織性というか連帯の部分から、先行研究に対する批判も含め(わりとトラディショナルな社会運動論の視点から)問わなきゃいけない。同時に、自分のような個人に対するまなざしを少なくない欧州の研究者が共有しているのも、考えてみればすごく不思議だ。ドイツの社会運動研究の先生からのコメントもありがたかった。過ごしてきた地域によらず世代の影響なのかもしれないけど、そういうことも6月のカンファレンスで聞ければいい。今回はこの会合と週末の学会のために来たんだけど、このコメントだけでもう目的を十分果たした感じ。もっと書きたいけど、このへんの話は読んでてもあまりおもしろくないと思うのでここまでに……。

 翌日はゼミの卒業生と友達とご飯を食べて、その後同年代の研究者の方(ウソです。若い人もいた。若い人を同年代扱いするのは悪いクセ!)とお話したが、都内で打ち合わせがあって、すぐ出なきゃいけないのは残念だった。社会学者の研究の「おもしろさ」と「通じなさ」の話や、なぜか「ガクトがマリスミゼルを脱退した理由」みたいな懐かしトークをした。もっとじっくりお話したかったが、東京で打ち合わせがあるので早々に退散してしまった。

 都内に戻って、テレビ収録の打ち合わせ。お話を聞かせてもらって、いろいろな制約の中で、決して力のある組織やひとの意向通りではない主張を行っていく難しさという意味では、こうした世界に学ぶことはいくらでもあるとしみじみ感じた。番組の主題がそういうものだから余計そう感じたのかもしれないが……。
 これから一週間、私はずっと「なんで研究者がメディアで発言するのか?」という質問を、色んな人にすることになる。答えは本当に色々だし、自分とは違うと思うこともあったけど、すべての答えに納得した。ただ、この日の答えは、それが記者さんであれディレクターさんであれ編集者さんであれ、作り手の方の真剣さにあるのかと思った。こういう時代にあってなお言葉を届けようとする人の真剣さは、社会運動をしている人のそれにすごく似ているからだと思う。そして、社会運動の講座で講師をしたり、すこしではあるけど寄付や署名をしたりするように、何か自分にできる範囲で力になりたいと感じたんだと思う。

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