【レガシー×TECH】スタートアップがレガシー産業に切り込むときの10個の留意点

バリューチェーン・イノベーションに対するニーズ

こんにちは。グロービス・キャピタル・パートナーズの野本です。

日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向2018」の国内企業アンケートによれば、デジタル化に成功している企業はベンチャー企業・スタートアップ企業との連携に積極的であり、また、ITを活用したビジネスイノベーションへの取組みの状況は、

 「新しい商品、サービスの創出」、「データ分析の高度化による情報活用」、「集客・売上向上のための仕組みづくり」等、新たなビジネスの創造や顧客の獲得に対する仕組みが増加傾向。昨年度まで減少傾向にあった「オペレーションのプロセス改革」や「サプライチェーンのプロセス改革」は、今年度調査では伸びている。

とのことです。日本の各産業のバリューチェーンにはまだまだ非効率が残されており、ITによるイノベーション実現への期待値・ニーズは依然高い状態です。人口減少トレンドの中でGDPを維持・向上するため、バリューチェーン・イノベーションを通じた生産性革命が求められています

日本でもSaaS、RPA、iPaaS、BIソフトウェア、B2Bマーケットプレイス、CRMなど、B向けのITソリューションが次々ローンチされています。

ソリューションが対象とする業界や機能によって戦い方が異なるのは当たり前なのですが、それでも領域を問わず共通するノウハウもあります。以下では、レガシー産業に対して、スタートアップとしてバリューチェーン・イノベーションを仕掛けるときの最大公約数的な留意点を整理しました。なお、バリューチェーンを自社として構築し、本業としてレガシー産業に切り込むパターンもありますが、これについてはまた別の機会に整理したいと思います。

1.バリューチェーン・工程の全体像を理解する

当たり前ですが、各工程を含むバリューチェーン全体に対する理解が必要です。これがないと、クライアント企業の生産性にインパクトを与えることができず、結局はソリューションが導入されない・普及しないことになってしまいますし、また、スタートアップとしての事業拡大の方向性もあやふやになってしまいます。

バリューチェーンにおける非効率性は、工程と工程の間で生じるのが一般的です。工程の間隙のどこにタイムラグや非効率があるのか、そこで何が起きているのか(情報が共有されておらず待ち時間が発生してしまっている、情報の受け渡しが人的・アナログな手段に頼っている、そもそも手作業になっているなど)を具体的に特定しなければなりません。

なお、バリューチェーンにおけるプロセスや工程を所与のものとせず、IT化・デジタル化によって特定のプロセスが不要となる可能性もあることには注意しなければなりません。

2.全体最適を見据える

クライアント企業の生産性にインパクトを与えるためには、上記のとおりバリューチェーンや工程全体に対する理解を深めたうえで、全体最適を見据えたソリューション提供が求められます。より具体的には、将来的にこのビジネス・バリュエーションはどう変わっていくか(どうあるべきか) という点をゼロベースで考えるということです。「デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略」では以下のように指摘されています。

新しいビジネスモデルでは、企業の根幹(コア)部分も変える必要がある。どのように開発、製造、購買、メンテナンスなどを行なうのか(オペレーショナルプロセス)、どのように顧客や消費者にアプローチし、商品・サービス・付加価値を提供していくのか(コマーシャルプロセス) 、それを支える業務部門はどうあるべきか(バックオフィスプロセス)といった全てを再構築しなければならないのだ。

ゼロベースで考えた場合、前述のように、不要となるプロセスや工程が出現する可能性もあります。部分的なカイゼンでは済まないのです。そのため、ソリューションの開発・導入にあたっては、クライアント(候補)の部門長ではなく、経営レベルとのコミュニケーションが求められることが多くなります。

一方で、レガシー産業で戦ってきた企業には、極めて強力なアセット(歴史・地盤・デジタル化されていないデータ・独占的知財)があることが少なくありません。スタートアップの立場からゼロベースで考える際、そういったアセットの存在を見落としがちなので、注意が必要です。

3.特定の課題・プロセスにフォーカスする

上記のとおり、最終の絵姿としての全体最適をイメージするのはとても大事ですが、とはいえ、バリューチェーン全体をいきなり抜本的に変革することはできません。そもそも、ソリューションの開発力も追いつきません。まずは深い課題を抱えるプロセスにフォーカスし、現場が納得・熱望するソリューションを提供して、風穴を開ける必要があります。

そもそも、これまで各企業が社内システムについて自前主義を貫いてきたため(あるいはシステム化をしてこなかったため)、バリューチェーンのシステム規格・フローはバラバラなことが多いです。スタートアップとしては、まずは特定のプロセスにフォーカスしないと、複数クライアントに汎用的に提供できるソリューションを作り上げるのは難しいでしょう。各社のプロセス全体に対してソリューションを提供しようとすれば、SIerのように動かざるを得なくなってしまいます。

また、レガシーな企業が複数のプロセスを横断して、ブランドや信用に乏しいスタートアップが提供するソリューションを採用することは考えにくいです。特定の課題・プロセスにフォーカスすることで、導入の敷居を下げることが重要です。

4.既存の業務システムと馴染ませる

特定の課題・プロセスに対して提供するソリューションは、既存のシステムと「馴染ませる」必要があります。既存のシステムとは、オペレーションプロセスそのものやソフトウェアに加えて、従業員やそのノウハウやワークスタイルも含まれます。

伝統的企業ほど、長年築き上げてきたオペレーション、チャネルのネットワーク、業務システム、ノウハウなどの資産を抱えています。こういったシステムとのつなぎこみができない限り、ソリューションがクライアントに定着することはありません。言い換えれば、経営レベルの納得を獲得しつつも、現場サイドでも納得できるソリューションとして提示しなければならない、ということです。逆に、現場が使い慣れたシステムと融合するソリューションが提供できれば、強固なロックインが実現します。

また、ソリューションの提供によりこれまでの経験が活かされなくなり、自分の価値が喪失すると考える社員も出てくるかもしれません。一方で、日本企業は終身雇用が前提とされています。そのため、彼らの新しい存在価値が見出されるような形でソリューションの提案(例えば、空いた時間での「新しい付加価値業務」の提案)までしなければならないかもしれません。

加えて(スタートアップからすれば言うまでもありませんが)、スマホやタブレットなど、安価なデバイスを用いて既存のシステムと連携することで、導入のハードルを下げるのもポイントとなります。

5.業界のオピニオンリーダーを押さえる

スタートアップがB向けのソリューションを提供する場合、キャズムを超えるには狙っている業界のオピニオンリーダーを押さえる(=導入してもらう)ことは絶対に避けて通れません。狙っている業界がレガシーであればあるほど、「業界リーダーに倣え」というカルチャーがあります。導入実績を作るのはもちろんですし、一緒にプロモーションまで出来ればなお良しです。

6.業界出身者の人材を確保する

ところで、1~5の項目を実行するためには、「業界自体に入り込む」必要があり、これが割と大変だったりします。

1.バリューチェーン・工程の全体像を理解する
2.全体最適を見据える
3.特定の課題・プロセスにフォーカスする
4.既存の業務システムと馴染ませる
5.業界のオピニオンリーダーを押さえる

業界出身者ではない人でも工夫次第で入り込むことはできますが、業界出身者のほうが、その業界特有の慣習、政治、人脈構造を理解していたり、話を聞いてもらいやすかったりするので、間違いなく有利です。ファウンダー自身が業界出身者でなくても、中核メンバーとして業界出身者を引き入れることが、最終的に事業をスケールさせるうえでのポイントとなることが多いでしょう。

7.受託化しないように注意する

前述のとおり、既存のシステムとソリューションを「馴染ませる」必要があるのは間違いありません。また、業務に深くかかわるソリューションであればあるほど、インプリメンテーションやオンボーディングを徹底する必要があります。

一方で、個々のクライアントの、その個別課題について100%満足させることを目指してはいけません。これを目指して恒常的にカスタマイズを繰り返すと、個社最適の実現を目指すSIer的な業務体制になってしまい、受託開発会社化してしまいます。ソリューションの汎用性・スケーラビリティも失われてしまいかねません(もちろん、受託を中心とした事業もいいのですが、スタートアップ的とはいえません)。逆に、フォーカスした課題については100%解決してファンを作る必要があることは言うまでもありません。

8.コンプラ・ITガバナンスに対応する

すべてのビジネスに共通することですが、コンプライアンスへの対応は必須です。スタートアップ同士であれば、効率性を優先したソリューション導入もあり得ますが、相手がレガシー産業の企業であれば、どれだけ優れたソリューションでもコンプライアンス対応ができていなければ採用されないでしょう。ここでいうコンプライアンスとは、形式的に法令等の文言に違反しないというレベルを超えて、法令が守ろうとしている法益(例えば、個人情報保護法における「個人の情報コントロール権」など。)が実質的にも保護されている状態を実現するのが理想です。

また、IT部門から、全社的なセキュリティやITガバナンスの観点から、既存のシステムと接続できない、あるいはソリューションを導入することすらできないと拒絶されてしまうこともあります。特に、オペレーションの根幹に関わるソリューションの導入は、セキュリティやITガバナンスを統括するIT部門の協力なしに進めることはできないので、早い段階で商談に巻き込んでおくことが重要になります。もちろん、高い要求水準を満たすセキュリティを構築する必要があることは言うまでもありません。

9.投資対効果を明確に説明する

オペレーションの効率化を含むバリューチェーンのイノベーションに対する投資は、投資対効果に基づき判断されるのが一般的です。とりわけ、投資額が大きい場合や、ソリューションを導入することにより業務フロー変更のコストが発生する場合などにおいては、効果を定量的に説明することが強く求められます

投資対効果の説明に当たっては、効率化(例えば、人手を省くことによるコスト圧縮)を定量的に説明すること加えて、付加価値(例えば、リードタイム圧縮、データの蓄積、売上増など)についても訴求するべきです。

シード期においては難しいと思いますが、事業をスケールさせていくフェーズにおいては、上記のような説明をしっかり用意しておくことが重要です。シード期のうちから、ソリューションがどれだけの効果をもたらすことが出来ているのかをトラッキングしておくことで、いざというときの説明材料を確保しておきましょう。

10.業界を良くするという熱い想い

佐々木さんにコメントいただいて追記しました。業界をよくするという熱い想い。スタートアップとしては、これが大前提で一番大事ですね。

この記事は、筆者の実務経験、起業家ヒアリングと、以下の書籍を参考にしています。書籍はいずれも、どちらかというとレガシー企業を対象とした「デジタルトランスフォーメーション」系のものですが、本記事はスタートアップが外部からバリューチェーン・イノベーションを仕掛ける場合の視点に置き換えて記述しています。  
ユルゲン・メフェルト「デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略」
ベイカレント・コンサルティング「3ステップで実現する デジタルトランスフォーメーションの実際」
プレジデント社 企画編集部・経営企画研究会「Why Digital Matters?――“なぜ”デジタルなのか」

最後までお読みいただきありがとうございます。何かご相談があればお気軽にご連絡ください。引き続きよろしくお願いいたします。

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野本遼平/GLOBIS CAPITAL PARTNERS

GLOBIS CAPITAL PARTNERSキャピタリスト←Supership(KDDIグループ)経営戦略室長/子会社役員←弁護士←東京大学大学院←慶應義塾大学/得意領域はBizDev、戦略提携、政策企画、M&A、PMI/「アプリビジネス成功への法務戦略」著者

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