見出し画像

悪魔が牙を向く。

DAZNでF1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)を見た後、続けてF2=F1直下の下位カテゴリのレース1の決勝を見た。
F2はまず金曜日に予選が行われ、土曜日にレース1の決勝が行われる。
日曜日にはレース1決勝結果を元にグリッド順が決まり、レース2の決勝が行われる。

そのF2ベルギーGP・レース1の決勝、2周目。
非常に重大な事故が起きた。
FIA(国際自動車連盟)は

2019年の8月31日の17時7分(日本時間9月1日0時7分)に事故が発生し(中略)アンソニー・ユベールが負傷し、18時35分(日本時間9月1日1時35分)に亡くなった。
参照:https://www.fia.com/news/statement-incident-during-fia-formula-2-feature-race-spa-francorchamps

と公式発表した。

事故の簡単な概要としては

1)ジュリアーノ・アレジがオールージュで単独スピン
2)アンソニー・ユベールはアレジを避ける形でコースオフをしてタイアバリアに激突、反動でコースに戻る
3)後方のファン-マヌエル・コレアがこれを避けきれず、Tボーンクラッシュ
4)アンソニー・ユベールの車体はカーボンモノコックやエンジンなどが粉砕される
5)ファン-マヌエル・コレアは追突した後、車体がひっくり返る

というものだ。

事後が起きたターンについて説明をする。

このコース図では3〜5のターンだ。
ターン1のラソースを抜けるとターン3のオールージュまでは急激な下り坂になる。
オールージュは下り坂の終点で左に曲がり、ターン4〜5にかけてのラディオンまでの高低差は80mもある。
この高低差はビルの20階以上に相当する。
また緩いS字コーナーになっている。
そのためオールージュからの上り坂は崖に近く、また左・右・左と細かく曲がるため全くのブラインドコーナーとも言える。
ビルの1階から20階相当まで一気に登るのだから当然ではあるが。

F1ではターン3からターン5の区間を300km/hオーバーで走る。
F2でも270km/h程度の高速で通過していくのだ。

こう書くと「非常に危険なコーナー」と思われるが、どのカテゴリに限らずスパ・フランコルシャンを走るレーサーはこのオールージュからラディオンまでを一気に駆け抜けることに喜びを得ている。
数あるF1サーキットの中でも最もエキサイティングなコーナーだ。
ここを速く走れないとタイムが出ない。

このオールージュからラディオンにかけては1985年の世界耐久選手権、スパ1000kmでステファン・ベロフがコースアウトしウォールに激突し、命を落としている。
その後、ランオフエリア(コースからウォールまでのエリア)を広げ、重大事故は起きていなかった。

今回の事故は1)から5)までが280km/h以上の一瞬の出来事であり、残念ながら避けようができないものだった。
映像を見る限り、アンソニー・ユベールの車体が別の方向に跳ね返らない限り回避は不可能だった。
レース2周目でもあり団子状態であったことも不運だった。
まさに「悪魔が牙を向いた」と言う他ない。

また、Tボーンクラッシュになってしまったことも致命的だ。
フォーミュラカーに限らず、例え普通乗用車でもTボーンクラッシュは重大な結果を招くことが多い。
自動車の構造はほぼ縦に長い。
エンジンやミッション、後部座席などがあるため前後の衝撃には比較的強い。
フォーミュラカーでは昨今HALOと呼ばれる「前方から発生したデブリ、脱落したタイアなど」から頭部を護るパーツを取り付けている。
しかし左右には構造物は乗用車ならドア、頭部を保護するプロテクターしか無い。
いくらクルマの安全性が高まっても「横方向からの衝撃」は相対的に弱くなる。

この事故を受け、FIAはすぐさまレース1決勝とレース2の中止を発表した。

F1の決勝は今の情報によると行われる見通しだが、フリー走行3や予選でもマシントラブルやクラッシュが相次いだ。

このnoteの写真はmotorsport.comから引用しました。

参照:
https://jp.motorsport.com/fia-f2/news/f2-driver-hubert-killed-in-spa-francorchamps-crash/4526184/

https://jp.motorsport.com/fia-f2/news/f2-2019-belgian-race1-report/4526011/

亡くなったアンソニー・ユベールは22歳のフランス人レーサー。
新進気鋭なドライバーでルノーの育成ドライバーでもあり、将来はF1のシートを獲得することも考えられていた。
若い才能がこういう形で失われるのは非常に悲しく、やりきれない気持ちになる。

この度の事故で、アンソニー・ユベール選手への哀悼の意を表します。