宇宙速度

発想力は暗記力の2乗に比例か?

新著を踏まえた講演やトークショーなどで、ありがちな通念、「丸暗記が得意な奴は発想力はいまいちだろう」、逆に「アイディアマンは忘れっぽく無責任だろう」というのに疑念を表明しています。

 本当に使えるアイディアをタイムリーに出し、リーダーシップを発揮して実証できる人って、記憶力、抜群に良くないですか? 私が出会った人は例外なくそうでした。なぜでしょうか?

 その理由は本に書いたように、高速に思考するためには、論理を進めるのに必要な素材データ、情報(CUIでコンピュータ使う人はコマンドの右側に引数が複数並んでいるのをイメージしてください)を遅滞なく、コンマ何秒で参照できる必要があるからです。いちいち外部(ネットや他人の頭脳)にアクセスしてては、「あれ?さっき何考えてたっけ?」という感じになり、すぐに100倍、1000倍、スローダウンしてしまいます。

 コンピュータの頭脳=CPUの仕組みをご存知の方は、「データはCPU内部のキャッシュメモリに入っていれば劇的に高速に処理が進む」と理解されています。暗記力、特に短期記憶が優れた人は、大容量のキャッシュメモリをもっているわけです。長期記憶から短期記憶に情報を引っ張り出す速度も速いはず。それを構造化したり、新たに外部から認知した対象を既知のモデルに当てはめ、理解し、思考の素材に取り入れる。このような処理のスピードも、いわゆる「暗記力」と強い相関があると思います。

 上の図は、地球の周回軌道に乗ったり、引力圏を脱するのに必要な宇宙速度(第一、第二、第三など、段階があります)のイメージを描いたものです。地球の引力圏を脱するには初速で秒速11キロ(時速約4万キロ)。音速が時速1200km なので、マッハにして約33.3 。とてつもない速度が必要です。

 この事実に喩えて、次の三段論法を示します:

■大前提:(人類初の)新アイディアを生み出すには猛スピードの思考が必要

■小前提:猛スピードで思考するにはその素材が脳内短期記憶(キャッシュメモリ)に収まり高速に出し入れ出来る(=暗記力が高い)必要がある

■結論:故に暗記力が高い人ほど新アイディアを生み出し易く創造力が高い

 色眼鏡を捨てて、身の回りの優秀な人を眺めたり、様々な分野で偉大な業績を挙げた人と対談したり、講演録などを読んでみてください。彼らの大半が広大な記憶容量、関連ある様々な数字や重要情報、さらには、それらを解釈するのに必要な知識を猛スピードで脳内から取り出して駆使してるのではないでしょうか?

 常識に反するかもしれませんが、断言します:

 創造力溢れる人の殆どは、記憶力も優れています。

標題は未検証です。暗記力が計量できているわけではありませんが、1つの思考ステップを進めるのに、2つ、3つと素材(引数)が必要ならば、それぞれをもたもた外部に取りに行っているのに対し全部頭に入っていれば、少なくとも「2乗」、平均的に数百倍の速さで論理的に思考できてもおかしくないように思います。

 常識、従来の通念に囚われない思考が出来る人は、物事を素直にありのままに、虚心で眺め(王様の耳はロバの耳!と言える子供のような)、決して忖度しない、という特徴も持っていそうです。しかし、そこで、フワッとしたことしか考えない、印象でしか語れない人は、やはり新アイディアに辿り着くことはないように思います。

 アインシュタインが特殊相対性理論を思い付いたとき、光速度一定を仮定したら、時間、空間が曲がるしかないという論理の帰結を見出したように、徹底した論理的思考能力(深層学習AIには完全に欠落した能力です) がなければ、新アイディアの創出は難しいと思います。

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