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AIでも「すぐには役立たない」基礎研究もすべきなのですが。。

 NHK「人間って何?」シリーズ1,2のどこかでインタビューされたヒントン教授も強調していたように(訳出されなかった音声)、人間の(幼児の)学習能力は凄いです。あるカテゴリの写真1,2枚だけ初めて見ただけで、類推により、数千枚の異なる個体の違うアングルの同一カテゴリを認識出来るという驚異的能力です。目下のところ、深層学習とは比べ物にならないならないほど賢いのです。
 かつて私もWordNetで貢献した、ImageNetイメージネットの開発リーダ、スタンフォード大AI研究所長フェイフェイ・リーがTed Talkで「深層学習が3歳児並みになった」と語ったのは、残念ながら根本的に間違っていると言わざるをえません。2011年まで車のtailを認識する精度が最高で70%程度だったのが、2015年末には深層学習のおかげで97%に達した驚異をアピールしたい気持ちは技術者として痛いほどわかりますが、人間の能力、柔軟さや洗練された学習方法はまだまだ、遥か彼方であるともいえます。

 今年3月末にメタデータ社プレスリリースに載せた病理診断でも、外光が入って色温度が変わっただけで、精度90%台が10%台に急降下したりするのです。現場の人は、今の深層学習が、人間のパターン認識、判断とは似ても似つかぬ特性持ってることを肌で実感しているのです。専用AI、個別AIの開発、チューニングには大きなコストがかかるので、AI開発を行う企業を買い叩かないでください(笑)

 今後の進化についても、知識量の増大が、「リソースを食い尽くしてすぐに止まる」指数関数的変化となることはあり得ないこと(「ターミネーター」などのSF映画を鵜呑みにしないこと)などの前提を押さえつつ、シンギュラリティ論者に反論しています:

 人間のような柔軟性を備えたAGI=汎用AIの追求は、人間と同じ機械を作ろうとする「強いAI」よりは緩い、広い概念ですが、そう簡単に実現するものではありません。「群盲、象を撫ぜる」かのように様々なアプローチで、地道な基礎研究を(VCが関わるような産業応用とはきっちり区別して)数10年単位で進めていくべきものであります。そんな一部として、Aibo2の犬の振る舞いの模倣(シミュレーション)より遥かに難しいとされる猫的な振舞いを支える知能にしても、鳥類、爬虫類、魚類、昆虫(Rod Brooks博士!)の知能にしても、様々なヒントを与えてくれることでしょう。

 基礎研究といってもお金はかかる面もあります。優秀な頭脳を沢山集める人件費と、時代の先を行く超高速計算機や、大量のデータを集めるしかない局面では、ばく大な研究費がかかります。しかも、直接は、産業上の利益を生まない、次世代のための基礎研究であり、月面を目指したRocket Science とか、Moon Shot研究と同様。基礎研究を推進する会社は、当面の売り上げ、利益は諦めるべし、となれば、これくらい体力のある会社にしか務まらないかもしれない:

 日本が国策として対抗すべし、という決断があれば、東大を中心にいくつかの大学と、PFNさん、それにメタデータ社なんかも加わって文殊の知恵、村山斉さんが創始して、大栗博司博士が引き継いだ数物連携宇宙開発機構のようにして、かつての通産省の第五世代プロジェクトと違って、世界中の知恵(特に英語圏、中国語圏)を全部踏み台にその上をいくアイディアを毎日だし続けられるよう、自由に研究させるようにするのも有り、かもしれません。かつては、「いだてん」で描かれたスポーツ振興のように、腹をくくって、そんな決断をした政治家や侍官僚がおられたわけですが、時代が違う、というコメントがいかにも聞こえてきそうであります。



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