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単純労働から高度な仕事へのシフトの先導者もGAFAか

 人間を、出来損ないの機械のように従順に働くよう教育をし続けたら日本はAI導入先進国からさらに取り残されて破滅に向かう。だから、子供の好奇心を大きく育み、「なぜ?」を問うて、お手本ゼロの新課題を発見し解決できる人材へと、多くの人材をシフトさせなければならない。このメッセージは、日経ビジネスに2014年から隔週で26回の連載を書いていたころから繰り返し発信してまいりました。「人工知能が変える仕事の未来」、「最強のAI活用術」そして、人間に光を当てた「AIに勝つ!」はもちろん、2018年1月の朝日放送「正義のミカタ」にAIの先生として生出演した際にも、「今世紀中は大丈夫。でも、仕事の仕方が変わる」と手書きのパネルを用意して、平明に説明させていただきました。

 7月4日の日経「経済教室」欄で、労働経済学の山本勲先生が、AIの活用に伴うタスクの高度化を指摘し、「AIに勝つ!」と同様GRITの重要性についても触れています。上記見解は決して私の独り善がりの主張ではありません。

 4月4日、AIエキスポ会場で、TV大阪のディレクタさんから携帯に電話が入りました。その日の夕方の「やさしいニュース」への緊急パネル出演のための電話取材です。経緯は下記にまとめています:

「アマゾンのロボット配送センターが大阪に出来るというニュースをきっかけに、視聴者が、「AI,ロボットのせいでいずれ自分も失業するのでは?」との不安にかられそうなところへ、なんとかしなければ、と。そこで、AIの限界を都度明言してきた野村先生に締めの言葉をいただきたいという趣旨だったようです。」

 この「やさしいニュース」は、小学生にもわかるように、物事の本質を平易に説明する語り口が特徴です。今日のAIの本質として大きく2点、「まったく学習していない新事態で問題を解決したり、お手本があるにはあってもたった1つしかない正解データ(例:画像)からカテゴリを類推して真実を突き止めるなどはまだまだ人間にしかできない」、そして、「森羅万象の常識、とくに人間社会のことを実体験に基づいて本当の意味で理解し、関係者間の認識などを正確に類推しながら的確にコミュニケーションをはかることも人間にしかできない」と電話口で回答しました。前者はそのまま採用されて「ゼロから何かを作ること」となりましたが、後者を10文字以下にするのに、大幅に簡略化されて「思いやりのある会話」(私の口調から人間愛を感じてそれを「思いやり」という言葉に変換されたのかもしれません)となりました。

 さて、この4月4日のニュースで前半に放送された、アマゾンのロボット配送センターで、かつて働いていた人間たちはどこへ行くのか?どんな仕事をするようになるのか。その回答がTech Crunchのサイトに掲載されました:

当面米国での話のようですが、労働のシフト先を具体的にみてみましょう:

「その具体的な新しい職場は、会社のオフィスやテクノロジーハブ、フルフィルメントセンター、リテールストア、輸送ネットワークなどだ。それによる同社の目標は、2025年までに米国の同社従業員10万名をスキルアップ」

 これらの労働拠点で彼らは何をすることになるのでしょうか:

「Amazonが特に欲しいのはデータマッピングのスペシャリストやデータサイエンティスト、ソリューションアーキテクト、ビジネスアナリスト、さらにロジスティクスコーディネーター、工程改善マネージャー、そして輸送運送(トランスポーテーション)のスペシャリストだ。同社のワークフォースと米国の雇用の現況を見るかぎり、これらは過去5年間の雇用増加率の最も高い、そして高度なスキルの職種だ。」

 まさに、AI導入に伴って誕生した、もしくは需要が激増した新しい仕事群です。同社全米社員の1/3 、10万人をこれらに投入する必要に迫られており、その正否がAmazon社の未来を左右するわけです。「AIに勝つ!」の第6 章 「新たに生まれる仕事群を楽しむ」の次の節に書いた通りのことが起こっています:
1 新しい道具の登場は多くの新しい仕事を生む
4 人間はAIを使いこなし、高度な判断、発想を担う仕事にシフト

「全世界では従業員数63万名となる。この再教育投資は、ワーカー1人あたり約7000ドル(約76万円)となり、企業の社員再教育事業としてはこれまでで最大」

同社が全世界で上記シフトのための再教育を実施すれば、4788億円という教育投資となります。これは必ず、大きくペイすることでしょう。

「資金は既存の事業と新しい教育事業の両方に分散され、また技術的学歴経験のある者とない者の両方に等しく注力していく。新しい社員再教育事業としては、まずAmazon Technical Academyが非技術系のAmazon社員にスキルを付けてソフトウェアとエンジニアリングのキャリアへ移行させる。Associate2Tech事業はフルフィルメントセンターの学卒者を技術職へ移動する。そしてMachine Learning Universityは技術的経験学歴のある者を機械学習へ向けていく。」

 自社のテクノロジー、そして、その商品版サービスが再教育にも活用されます。そして適性を見極めつつ、少しでも高度な職種に割り当てていく。まさにGAFAだからこそできる大規模な人材シフトということができるでしょう。日本企業を含む他社も、彼らのサービスを効率よく使うとともに、自社版の教育コンテンツを開発し、こんなタイプの既存人材には、こんな教育を施せば、こんな職種にシフト可能、という事例を蓄積し、ベストプラクティスを積み重ねていく努力が必要なのではないでしょうか。
 

 日本語では「後略」となった部分の原文には、同社が2012年から再教育プログラムの体制や予算措置を講じ始めていたこと、そして、最低賃金から時給15ドルまでの底辺ワーカーのためには、昨年2018年に既に基礎教育を施す投資を行っていたことが語られています。

 AI導入で遅れをとっていると、「その後」のための人材教育、そのための教育制度の大転換でも遅れをとることになり、どんどんその差は拡大していくことと思われます。海外のものであろうと、ベストプラクティスを研究し、その良いところを一早く取り入れていく必要があるでしょう。そのことに気が付いていて対策を立てようとする政党に投票したいのですが、果たしてどの政党、政治家が耳を傾けてくれるでしょうか。

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