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音MAD界隈におけるディレクター業務って何?

音MAD作者は本来音MADを作る

音MAD界隈において音MAD作者は音MADを制作することが本業です。なので本来ディレクター業務は通る道ではないでしょう。

REAPERやAviutl、Adobe製品などのソフトの使い方や技術的な手法は、有難いことに先人の作者らが音MAD制作向けに様々な情報を残してくれています。反対に企画におけるディレクター業務というのはかなり特殊なため少なくとも自分が見た限りでは、音MAD界隈向けのディレクター業務の情報を見たことはありません。

しかし、昨今の合作の大規模化やイベントの多様化でこのディレクター業務はますます求められる能力になりつつあります。そこで『音MDM天』や『音MAD作者格付けチェック』などで企画立ち上げや台本制作を中心としたディレクター業務を何度か経験しており、またマスコミ業界や学生制作でも実際にディレクターやPM業を経験したことがある私が少しでも、企画におけるディレクター業の立ち回りを共有できるように、過去の経験を基にした所感を以下にまとめましたので興味があれば一読していただけたら幸いです。 

各企画によるディレクター業

ディレクターとは、企画の理念を元に、放送・収録当日の流れを関係者に理解してもらえるよう、台本や資料などの制作をする。その台本・資料を基に円滑に進行するために当日の指揮も取る。また必要に応じて企画に必要なロケ地や情報などの裏どりや許可取りなどの対応を率先して行い、企画全体の信用も担保する。

自分で考えました

『音MDM天』では有難いことに制作進行という専属の運営がいました(1時さん、26Kさん、きっかんさん、たいうおさん、ともしげさん)。この制作進行とはいわゆるデスクという役職に当たるのですが、規模が小さな制作だとディレクターが兼任することも多く、『格付けチェック』のような今までの音MADイベントであれば自身が担当していたものになります。しかし、『音MDM天』はあまりに規模が大きいため、在局テレビ番組と同じように制作進行を専属で設定したのは自然な対処でした。

制作進行は、企画全体や界隈の動向を俯瞰的にチェックし、各スタッフや視聴者に対してのアナウンスや状況把握と共有を積極的にやる役職だと思います。これは最前線に立つ各制作物の実作業をする方とは別にした方がいいし、各担当についた音MAD作者は実作業に回ることが多いので、どちらかというと制作進行は音MAD見る専や音MAD界隈、音MAD作者が好きとか俯瞰に見られる人の方が向いていると個人的には思います。

自分は音MAD作者のことについて他の運営に比べると知識は乏しいと思っていて、企画や台本を作るのは長けていましたが、こういった演出をしたいってなったときにじゃあ誰を呼ぶかってなった際に、俯瞰に界隈のことを見ている制作進行の方が結構アイディアを出していただけることが多かった記憶があります。

ただ制作進行のアイディアが先行して放送ディレクターの演出の意図を翻すことがあると、放送ディレクターとしての立場がないので、そこのパワーバランスは上手く調整する必要があると思います。いただいたアイディアは有難くいただくが、ちゃんと演出の意図やこうでないといけないということは自信を持って言いましょう。じゃないと信用がなくなります。

今回『音MDM天』では、放送ディレクターと制作進行は分業になっていましたが、後続の音MADイベントは規模感的に恐らく兼業になることが多いでしょう。そのため、上記のような"調整"が自己完結することになると思いますが、そうだったとしても運営は複数人になることは多くなると思いますので、もしディレクターの担当になった際は演出の意図をしっかり説明できるようにしましょう。また余裕があれば参加者の意見も取り入れることでより企画にコクが出ますので心がけてください。

『音MDM天』は企画の規模が大きかったのでディレクター業務をより細分化しました。今回放送当日の大きな要素として①OP ②配信当日用の画面設計 ③画面切り替え時のトランジション ④BGMやSEなどのサウンド関係 ⑤コンビ作品放映前の紹介VTR ⑥ED と6つありました。以上全部を1人のディレクターすべて管理するのは無謀に等しいので、それぞれ細分化したグループにまた別のディレクターを設けました。①OPはさはらさんとMizkoKTさん、②画面設計と③トランジションは1時さん、④サウンドは26Kさん、⑤紹介VTRは那須ピーマンさん、⑥のEDについては1時さんと26Kさんが中心となってディレクションをお願いしました。

各グループが動く前に、放送全体のディレクションとして、どれぐらいの工数があってどのくらいの制作物があってなぜそれを制作するのかの簡単な説明を一番最初に放送全体を管轄しており演出も担当する自分から説明する必要がありました。でないと各ディレクター放送全体の流れまではすべて把握しているわけではなく、逆に把握しているのは放送ディレクターの自分くらいだったので、それは必ず最初に丁寧に説明する必要がありました

なので、各グループが制作を進められるよう、台本作成前に簡単な香盤表を作成し、制作物の把握と制作の意図を各ディレクターに説明しました。それ以降の細かいディテールなどについては逆に各ディレクターの仕事になるため、こちらから細かい指示は逆に出さないようにします。出さないということは進捗が上がってくるまでは各グループでそれぞれ勝手に放送ディレクターの見えないところで制作を進めるということになるので、放送ディレクターからの指示があってから何か月後に進捗が上がって、演出の意図と違うものが来てしまうと取り返しのつかないことになります。なので、1番最初に綿密にディレクター同士で打合せやテキストのやり取りをすることが重要です。ただ小さな修正や都度の確認は必ずあるため、その返答や確認はできるだけするようにしましょう。

企画の規模が大きくなるほどディレクターは自身の実作業が少なくなるという反比例の法則が適用されると個人的には考えています。これは、ディレクターが実作業をすればするほど各スタッフがディレクターからもらう指示を受けづらくなることにつながるためチームでのパフォーマンスが自ずと下がってしまいます。極力管理側にいるディレクターは実作業を他の方に任せた方がいいでしょう。ただ今回の『音MDM天』とは対照的に『格付けチェック』では、まだ企画の規模が比較的小さかったのでディレクターである私も当日の収録画面やVTR、システム面などの実作業を行いました。逆に言うとそれで回ってしまうということなんですが、企画の規模が大きくなればなるほど目が届きづらくなるため、ディレクターは持つ仕事は他の方に任せた方がいいでしょう。

ディレクターは決して偉くない

『音MDM天』では、イラストやOPにおけるCG制作、さらにグッズやWEBサイト制作などやりすぎっていうぐらい多岐にわたることをしてきました。極力、ディレクターはそういった専門知識を元にした制作経験があった方が、理解の元指示を出せるので制作側も納得できます。しかし、今回あまりにも自分の制作能力を超えた企画がポコポコ展開されていたので、もし自分が逆に実作業をやれって言われるとできない範疇のものが多かったです。ただそれで指示を出せないとディレクターとして務まらないので、そこはわからないのであれば人に聞いたり、上記の様にディレクター業を細分化して、よりその分野に長けた人に任せた方が手っ取り早いと思います。

今回は『音MDM天』においては私は放送ディレクターという役職だったので、上記のような多様な企画に対してそこまで関与することはなかったのですが、企画全体での連携を取る際にやはり少しでも把握する必要がありました。逆にその分、放送ディレクターとしての業務は全うしないと、「この人手は動かしてないのに口だけ大きいな・・・」と反感を買ってしまい、誰も言うことを聞いてくれないのでそこらへんの立ち回りは見誤ないようにしましょう。またわからないことがあれば恥じず専門知識のある方へどんどん聞いちゃいましょう。自分のスキルアップにもなりますし、その分情報提供してくれた方に対してディレクターとして出来ることも進んでやりましょう。

また、実際に手を動かしてる方が数千倍偉いので、ディレクター業は役割上偉そうに指示を出しますが、ヒエラルキー的には下だと思った方がいいです。なので、制作側が作業に集中できるように台本や資料の作成、打合せはもちろんこと、制作において発生するインシデントや都合などいろいろがあると思いますが嫌な顔をせず柔軟に対応するようにしましょう。その対策として、実際に台本作成はWordなどの文章作成ソフトではなく、Googleスプレッドシートで制作しました。各制作物において必ず当初の打合せ内容と違ったり工数が若干ズレたりすることはある前提で考えた方がいいです。それに対応できるように制作物関連が入るものにはすべて関数で紐づけし、もし変更があった際にはすぐに対応できるような骨組みを作りました。そうすることで、Wordだといちいち上から読み上げて目で探して一個ずつ対処すると負担になるので、絶対にスプレッドシートで台本を書いた方がいいです。

スプレッドシートで一括管理することで、各ディレクターへの共有はもちろんのこと、制作物の管理が一目瞭然なので工数が大きく足らないという最悪の事態は避けることはできます。特に、今回『音MDM天』は本放送関連だけでも膨大な制作物があったので、それをすべて把握するのはかなり厳しく、他の人にお願いするのも難しいところがあるため、放送ディレクター1人で管理する必要があります。となると、もし放送ディレクターが失念してしまうと誰も対処できない重大事故につながるので、それを避けるためにも企画当初からスプレッドシートで管理表を作成した上でチェックボックスを用意し、ファイル名もシーケンス番号を用いて貰ったデータと比較して過不足が無いかを確認できるように、ファイル管理とスプレッドシートとの紐づけはできるようにしましょう。そこまでやっても、結局すり合わせができていなかったりインシデントが発生すると、制作物が無いってのは全然あり得ますので、そうなった場合は放送ディレクター自身が制作するハメになると腹をくくった方がいいです。その余裕を担保するためにも上の反比例の法則をうまく利用して、そういった事態にも柔軟に対応できるよう事前に手を打っておきましょう。それもディレクターのれっきとしたお仕事です

ただ今回は制作補助として咲崎(♂)さんとこまりさんが運営に参加していました。そのためそういったインシデントが発生した場合も対処できる余地を今回『音MDM天』では設定していました。偉い。

一部にはなりますが以下の様にファイル管理と台本制作を進めました。細かいので画像を別で開いてご覧ください。

ファイル管理用のタブを用意しました。ここでは各制作物を一括で管理し、制作が完了すればチェックボックスでチェックを入れ工数に過不足が無いか確認をします。また、ファイル名にシーケンス番号を入れることで、データ確認として照合する際にミスが無いようにしています。
今回生放送ということでOBSでのシーン管理を別タブでまとめました。そのシーン内のファイルは先ほどのファイル管理から関数で参照することで、シーン内のファイル管理を実現しています。
最後に、ファイル管理とシーン管理を関数で参照し台本に組み込みます。もし名前の変更や工数の増減があった際も、上記のファイル管理とシーン管理を変更することで台本は関数で紐づいているため一括で変更することができます。

企画ってどうやって参加するのか

今後企画をやる人は、作者経験が浅い方や見る専の方などを呼んで一緒にやった方がいいと思います。今回『音MDM天』では自ずと運営陣がおじいちゃんばっかりだったのが勿体ないと思いました。『音MDM天』というイベントが大規模すぎるので、後続の合作やイベントで必要以上のスキルを経験できるのは過言ではないのですが、そこまで大きいイベントでなくてもいいので、経験豊富な作者がディレクターとすれば作者経験が浅い方をアシスタントディレクターとして一緒に作業すると、アシスタントディレクターとして経験したことが今後の企画を立ち上げた際のヒントを得られると思います。すると若い作者による企画が多く開催され、また次の作者がアシスタントとして参加すればよい循環になるでしょう。

『音MDM天』ではそれが直接的に出来なかったことが悔やまれますが、今後企画を考えるときに運営メンバーに経験豊富な作者と若い作者をニコイチハッピーセットにした方がいいでしょう。逆に若い作者が企画を立ち上げる際は、経験豊富な作者を入れてみるっていうのもいいかもしれません。そこでいいヒントが貰えるかもしれません。ただ歴に差があるとお互い萎縮したり天狗になったりと動きづらくなってしまう可能性があると思いますので、そこはそれぞれの役職をしっかり設定したり、打合せや話し合いでわだかまりが無いようにしましょう。個人的に企画をする際は「企画は楽しくやりましょう」がモットーだったので、そのためにも企画とは関係のない話をしてみるなど、一人の人間として歩み寄ってみることが運営として円滑に進む近道かもしれません。

音MAD制作は1人で出来てしまいますが、ディレクター業は複数人がいてやっと成立する役職です。となるとイベントが開催、企画されない限りは経験できないものなので、参加できる余地があるのであれば積極的に参加した方がいいでしょう。今はX(Twitter)やDiscordなどで作者間のコミュニティが形成しやすい環境にあると思うので、サーバーを作ってみたり既存のサーバーに入って作者と仲良くなり企画を持ちかけてみたりといろいろラブレターを送ってみましょう。そこらへんは結構コミュニケーション能力が求められそうな気がしますが、お互い「音MADが好き」という最大の共通項があるので、そこからコミュニケーションを広げていって「こういった企画があったら面白いと思うんですけどどうですか?」と軽く聞いてみれば参加してくれるかはわからないですが、アドバイスや感想が貰えるなど良くも悪くも一つのキッカケにはなるでしょう。せっかくいいアイデアなのに自分の中で閉じ込めちゃうのはもったいないので、テキストでもいいと思うので、外に出してみると意外と反応をくれたりするかもしれません。純粋に「音MAD好き」同士で仲良くしてみるってのもあながち悪くないですよ?

自分が経験したディレクターとしての考え

マスコミ業と音MAD界隈におけるディレクター業の違いですが、マスコミにおいて最大の障壁なのが各関係者の思惑や利権が非常にめんどくさいです。ディレクターや監督がこうしたいという思いがありながらも、タレントがNGを出す、広告会社・テレビ局のごり押し、クライアントからの鶴の一声で撮影当日に急遽変更など、いろいろ準備していたのに結局権力が大きい人によっていろいろ演出が変わることなんてざらです。それに比べたら音MAD界隈において企画を立案する際になんでも自分の思い通りに出来てしまうといのが大きな利点でしょう。『音MDM天』をご覧の方ならわかる通り、音MAD界隈って音に強い人もいればその中でも作曲する人やMAをやる方、映像に強い人は実写撮影やアニメーション、3DCGなどからバラエティ・ドキュメンタリー制作が得意な方、音MADを中心としたインターネット文化に造詣が深い方、イラストや漫画など絵を描くの得意な方、おしゃべりや文章で面白さを共有できる方、多種多様な人たちがたった1つの「音MAD」で結ばれているおかしなコミュニティです。自分が作者を通じてわかったことは『脅かす阿呆に取る阿呆』の作品でもあったように「ひとつにはなれない」「ひとかたまりにはなれない」っていうぐらいなんで音MADの定義が広すぎます。ただそれぐらいいろんな人が集まるってことなんで、やりたいことがあれば声を上げれば興味を持ってくれる人はいるはずです。そして『音MAD』が面白いことに気づいてしまえば、後のレギュレーションなんて無いコミュニティだと思うので、その『面白さ』だけ守ればいろんな企画が出来てしまうと考えています。現にバラエティ企画からDJイベントまで多種多様な企画が点在しているのが証明しています。あなたが感じた「音MADの面白さ」は同じくして「この企画面白いかも」と感じれば、それは「音MAD界隈が求める企画」なのですから

最後に

最後にディレクター業として参考になるかもしれないサイトを以下にまとめましたので時間に余裕があれば読んでみてください。

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