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国内に格差を作り〝周辺化〟しようとしているさまざま動きの中で──水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』

この本の末尾で水野さんはこう記しています。

「政治は何をすべきでしょうか。イリイチの言葉を敷衍すると、「未来の制度設計をする」ことだと思います。その際に(略)『春秋左氏伝』が参考になります。「国が興るときは、民を負傷者のように大切に扱う。これが国の福です。国が亡びるときは、民を土芥のように粗末に扱う。これが国の禍です」。(略)日本で、現在「民」は大切に扱われているとはまったく思えません。新自由主義の人たちは、個々人の努力が足りないと非難し、貧乏になる自由があるとまで言います。『春秋左氏伝』によれば、亡国の道をひた走っていることになります」

資本主義の歴史をひもときながら、大澤さんと対話した水野さんが達した結語です。
なぜこのようなことになっているのでしょうか。
お二人は資本主義の歴史から問題を解きほぐしていきます。
「資本主義は近代よりも歴史が長いのですが、古代・中世・近代を通じての「普遍的原理」は「蒐集(コレクション)」だと思います。(略)私は蒐集システムのうち最も効率的なのが資本主義だと理解しています」(水野さん)

その上で水野さんは利子率の低下(利子率革命)に着目します。これは16世紀に起こったことですが、これが現在の先進国でも起こっていることに注目します。
「利子率革命というのは、簡単に言うと投資先がもはやなくなってしまった状態を、利子率の極端な低さというのが示しているということです」(水野さん)
資本は、本来自己増殖(=蒐集)というものを目的としています。そのために、周辺が必要とされてきました。「フロンティアの発見と安価なエネルギーは、蒐集には不可欠なのです」(水野さん)。それは「空間」総体の膨張が必要だということになります。

けれどその膨張が限界に達しているのが「現在」なのです。
「現在の「利子率革命」はむ(略)蒐集の限界を示唆しているということです。9・15(リーマンショック)は、「電子・金融空間」における蒐集の限界を、ユーロ・ソブリン問題は、「領土空間」における蒐集の限界を、3・11による東電福島第一原発事故は、エネルギーコストについて限界費用一定の法則という先進国の特権を崩壊させたのです」(水野さん)

そして起きていることは
「世界中で大きなバブルを数えると、ここ三〇年で九つぐらい、だから約三年に一度ですそれぞれを見るとだいたい二年間はバブルで成長しますが、はじけたときの不況というのは、二年分のプラス成長を打ち消してあまりあるぐらいに信用収縮が起きて、名目GDPが縮小するわけです」。そして「なぜバブルが頻繁に起きるかといえば、新しい「実物投資空間」がなくなったからです。「実物投資空間」の膨張がインフレで、「電子・金融空間」の膨張がバブルです」
これは金融資産者が極めて優位に立ち続ける体制に私たちがいるということのように思えます。

では私たちの直面しているグローバリゼーションとはどのようなものなのでしょうか。
一つには格差の再編です。かつては南北問題というように言われてきました格差問題が先進国内に「侵入」してきたのです。「所得格差の背景にあるのは、企業の成長率格差です」。それを大きな要因として生まれた格差・貧困問題。それは「グローバリゼーションで新たな「貧困」を生み出さないと資本は成長できなくなった」からなのです。

もう一つは「グローバル化し、資本市場が大きくなると、増加したマネーは、海外に資本流出するか、国内の株式市場や土地市場に向かいます。(略)グローバル化したのは「実物投資空間」では儲からなくなったからです」(水野さん)

この現在で成長とは一体なんでしょうか?
「「蒐集」の時代は終わりつつあるのに、近代価値観に拘泥した「成長戦略」という竹槍で、ポスト「蒐集」の時代に立ち向かおうとしているのが今の日本です。近代的価値観を三つ集めて「三本の矢」と言っているようでは、先が知られています」(水野さん)

きわめて原理的に語られたこの本では覇権国家の歴史、中国やイスラムでなぜ資本主義経済が生まれなかったのか、また現在の中国経済がいみしているものはなにかなど、過去・現在の世界が縦横に語られています。
国内に格差を作り〝周辺化〟しようとしているさまざま動きが感じられるなかで、このお二人の言葉には未来がどのようにあるべきなのか、それを考えるヒントに満ちています。

書誌:
書 名 資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか
著 者 水野和夫・大澤真幸
出版社 NHK出版
初 版 2013年2月10日
レビュアー近況:東京国際ブックフェアに来ています。講談社「なかよし」創刊60周年ブースのプリクラは大行列。オッサン一人で並ぶ勇気、野中にはありませんでした。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.07.03
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=3694

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