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藤本渚四段【将棋のこと】

私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。

最近は【将棋のこと】ではなく、ほぼアベマトーナメントの感想文のようになっています。最新を追うには息が切れますし昔のことは忘れてしまう年齢。ここ二週間くらいの話が私には丁度いいのです。とはいえ、書いてしまった棋士もいますので新顔が待ち遠しい。そんな今月、投稿関係なく待ちに待っていた新人が画面に映りました。現在最年少棋士の藤本渚四段です。

動いては話す藤本四段を見るのは今回が初めてです。率直な第一印象は「北浜健介八段に似ている」でした。お顔立ちはそれとなくですが醸し出す雰囲気がやたらと似ている。口調や話す時の頷き方といいますか、頭の傾げ方が同じに見えます。人物を人物で例えてしまう非礼は重々承知しているのですが北浜八段が好人物なのでお許し頂きたい。あと全くの余談なのですが北浜八段は首が逞しい。係長とのあだ名が付くほどに控えめで物腰柔らかな人柄ですが、ひとたび喧嘩となったら滅法強いのではないかと密かに思っています。あの首の太さは生まれ持っての打たれ強いタイプです。ずっと何処にも言う機会が無かったので思わず書いてしまったことを重ねてお許し願います。でも、どなたかお一人でも共感頂ける方がいらしたら嬉しく思います。

話は戻って藤本四段ですが対局になると打って変わって豹変です。図太く感じるほどに落ち着いていて、その堂々たる対局姿勢には驚かされました。初戦から時の名人であった渡辺九段との初顔合わせ。先ほどまでのおどおどした態度はフェイクだったのかと思うほどにビシビシと指し進めていく。定跡・研究手順ならば解りもしますが、力戦調で挑んでおいての決断の良さには恐れ入りました。結果、終始やりたい放題のままでの大金星です。局後のインタビューではさすがに北浜八段似から離れて嬉しそうな少年の素顔がのぞく。しかし続く佐々木八段戦では、またも先ほどの少年らしさすらフェイクだったのかと思わされる千日手選び。先手を手放してでも時間的優位だけはきっちりと残して、指し直し局は始まる前から老獪にすら見えます。結果、この勝負にも完勝。評価値こそ右往左往としていましたが、時間攻めをも交えたやりたい放題は前局と一緒だったように思います。いきなりの名人・A級棋士の撃破に結果は勿論のことですが、対局前とのギャップや攻めかと思えば受ける棋風に曲者感が漂う魅力を感じました。「渚」という名前の爽やかさは人柄だけで、その将棋はなかなかどうして、いい意味で裏切ってもらった気分です。

そんな藤本四段、チーム動画では「勝ちたくなるほどに将棋が悪くなる」と自己分析していました。先週のチーム藤井戦では、残念にもその分析がまんま出てしまったように見うけられます。名人をも圧倒した実力、それも勢い勝ちというよりは受け潰しての勝利。藤井七冠というか収録時六冠であっても相当に通用するものと期待しましたが、見事なまでに跳ね返されてしまいました。この勝負に関しては藤井七冠が強過ぎましたし藤本四段の方も勢いに乗って色気が出たように感じました。そして勝ちたい気持ちが将棋にも出てしまった。全てを咎めた藤井七冠はさすがでしたが、逆に全てを咎めさせたようにも見えた。藤井七冠が藤本四段の実力を認めているからこそ完膚なきまでに叩きのめしたように映ったのは私の欲目ではないと思いたいです。

ところで更なる余談ですが、藤井七冠の今回は本気モードの気がします。勿論、毎回本気だとは思うのですが個人賞が出来て獲りに来ている気がする。負けず嫌いの本領発揮でタイトルを幾つ持っていようとも獲れるものは根こそぎ獲っていくスタイル。天才の本気とは時に怖くもありますが、七冠の本気フィッシャーこそ面白いので更に期待して観たいと思います。

話をまた戻しましての藤本四段ですが「全く歯が立たなかった」と項垂れていました。そして「今は勝てないな…」と悔しさを噛み締める。コメント欄の将棋ファンが「今は」に強く反応していました。今は無理でも将来は判らないと思っているらしい。そんな逆説的にも取れる言葉の行く末にどんな未来が訪れるのか期待が大いに膨らみます。

少年らしくもあり堂々ともしている。曲者のようにも見えつつ真っすぐに将来を見ている。少年と大人のシーソーゲーム。将棋界の最年少棋士はまさにMr.childrenといった魅力の持ち主です。


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