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「FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGE」 生まれ変わった“異色の大作”の凄まじい執念を紐解く

一期崎火雀(いちござきひばり)です。
4月にNintendo Switch・Xbox One版の「FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGE」が発売されました。PS4版の発表当時からずっと欲しかったものの、機会に恵まれず見送っていたのですが、Switchに機能追加版が来ると知り、予約して購入しました。

自分は元々PS2版を発売当初にプレイしており、その時はこれといった強い印象を持たないまま、なんとなくクリアした記憶があります。この頃は他のRPGもパッとしないものが多く、次第にゲームから離れていきました。

ですが、数年後にこのゲームをプレイし直したところ、「あれ!?こんなに面白かったのか!?」と驚かされました。

再プレイのきっかけは、ニコニコ動画にあげられていたさまざまな検証・考察動画。ガンビットの奥深さ、膨大なサブシナリオとサブダンジョン、世界観の作り込み具合、政治的駆け引きが織りなすドラマ……これらに気づいたとき、このゲームの印象が180度変わりました。

そして今、FF12はリマスター版の「THE ZODIAC AGE」として再び日の目を浴びました。今回のnoteでは、何度も修正を重ねてついにその真価を発揮したFF12の遍歴とその魅力を紹介していきます。

本来の魅力を発揮できなかった無印版

FF12はFFシリーズの中でも賛否両論のタイトルとして語られています。当時のスクウェアは、FFの生みの親こと坂口博信氏の退職、映画事業の失敗による経営危機、ドラクエのエニックスとの合併と、波乱に満ちた状況下にありました。FF12もまた、制作期間の長期化、プロデューサーの松野泰己氏の降板など、厳しい状況に立たされていました。

スクエニ公式サイト PS2版スクリーンショットより)

それらの困難を乗り越え完成したFF12でしたが、出来上がったものはこれまでのFFの路線とは大きくかけ離れていました。

広大なフィールドとシームレスバトル、世界観重視で薄口の主人公やシナリオ、戦闘AIを自分で設定するガンビット、環境重視の音楽など、今までのFFとの違いから大小さまざまな批判が寄せられました。前作と雰囲気が様変わりしたFF10-2、オンラインゲームのFF11のあとであっため、正統派ナンバリングを望む声が高まっていた反動なのかもしれません。

FF12への批判は、主に3つの側面を持っています。ひとつ目は「FFはこうでないといけないというレッテル」、2つ目は「提示されたコンテンツが時代を先取りしすぎて理解されなかった点」、3つ目は「単純に完成度の低い部分」です。特にフィールドやバトルは、今でこそ一般的なMMOやオープンワールドが普及する前だったため、不当に叩かれていた可能性も否めません。

しかし……今思い返せば、そういった評価は妥当ではないかと、自分は思っています。確かにもっと評価されるべき部分はあれど、無印版FF12はプレイヤーの方を向いていたとは言いがたいです。複雑な操作や大量のコンテンツを盛り込んだのに対し、遊びやすさがなおざりになっており、面倒さの方が強かったと思います。

ユーザビリティ強化とHDリマスターの恩恵

無印版FF12の大きな問題点として、その冗長さが挙げられます。同作はフィールド数が非常に多く、移動に時間がかかる上、場合によっては何度も往復させられる問題がありました。その結果、移動は退屈、戦闘や探索もメリハリがなくなり、目的地に着いた頃には何のためにここに来たのかを忘れてしまうことすらありました。

しかし、後に発売されたインターナショナル版では、デバッグに使われていた「4倍速モード」を採用。遅すぎたゲームテンポに切り込み、以前より遊びやすいシステムを用意しました。

また、ライセンスボードをジョブ選択式に刷新したことで、明確な役割分担を促し、ガンビットを活用しやすくなりました(ただし、装備できない死に武器が大量に発生する問題も発生)。その他、トレジャー配置の変更やミストナックゲージの仕様変更など、さまざまな修正が施されています。

さらにTZA版では、より快適に進めやすい「2倍速モード」と、1キャラで2つ目のジョブが解禁。ロード時間も短縮し、透過拡大マップやオートセーブが追加されます。グラフィックや音楽も強化された結果、FF12は現行機に適したゲームへと生まれ変わりました。

グラフィック強化に関しては、FF12は他のリマスター作品と一線を画すほどの意義を持っています。PS2の頃からFF12は非常に完成度の高いグラフィックを誇っていましたが、SDサイズ&4:3の画面比ではぼやけて見え、真価を発揮し切れませんでした。

リマスター化されたTZAでは、高解像度とさらなるブラッシュアップ、より広い画面視野によって隅々まで堪能出来るようになりました。例え最新ゲームほどのグラフィックはなくとも、こだわり抜かれたイヴァリースの造形美は他で味わえない魅力があります。

なお、Nintendo Switch・Xbox One版ではガンビットの切り替えやライセンスの振り直しによる事実上のジョブチェンジなど、欲しかった機能が追加されたことでシステムが完全な形になりました。特に振り直しは最も望まれた機能だったので、正直PS4とSteamのユーザーにも体験してほしいところです。更新求む。

※2020.4.25
PS4とPC版のアップデートでSwitch・Xbox One版の機能が追加されました!やったね!オイヨイヨ!!

今あらためてプレイするイヴァリースの魅力

で、結局FF12の何か面白いかというと、「広大なイヴァリースと呼ばれる世界を自分の足で散策する」ことに尽きると思います。FF12はフィールド連結型のマップが採用されており、各地にはさまざまな種族やモンスターが生息し、独自の文化を形成しています。シナリオが進行するたびにどんどん探索範囲が広がり、また新たな発見が生まれます。

シナリオで一度行ったことのあるダンジョンの奥にはさらなる迷宮が隠されていることが多々あり、強敵をくぐり抜けたその先に隠し召喚獣が待ち受けています。無印版ではあまり旨味がなかったトレジャーも強化され、探索先で強力な武器や魔法を見つけるといったお宝探し的な楽しみも味わえるようになりました。

また、各地のマップはシナリオと密接に関わっており、ダルマスカに残る数々の伝説、アルケイディス帝国が引き起こした戦乱の爪痕がこと細かに再現されています。モンスターを倒していくと記録される「ハントカタログ」では、ゲームで語られなかったイヴァリースの文化や伝承が描かれ、ハイ・ファンタジーとしての圧倒的なスケール感を味わえます。

当時のRPGはプレイヤーに選択肢のない“レールプレイングゲーム”と揶揄されるものすらありましたが、FF12は広大な世界を創ることに本気で取り組んでおり、異色と言われながらも、夢とロマンにあふれた作品であったことは間違いないと思います。

ガンビットが提示したRPGへの新たな可能性

FF12の大きな特徴であるバトルは「アクティブ・ディメンション・バトル」と呼ばれ、フィールド散策からシームレスにバトルに切り替わり、キャラクター達は「ガンビット」と呼ばれるプレイヤーが設定したAI制御に則って戦います。

FFシリーズは世代を重ねるにつれ、よりリアルなグラフィックを追求していきました。しかし、それにより「棒立ち」の戦闘やフィールドからの切り替えの違和感を指摘されるようになりました。一方でそれらを解決するほどアクション寄りの調整となってしまう問題もあります。(実際、現在の大作RPGはARPGが主流です)

FF12ではそういった問題を、プレイヤーが設定したAIでリアルタイムに動かしつつ、状況によっては時間を止めてコマンドを入力するといった独自の方法によって解決しました。この方法はFFシリーズのATBや、当時国内外で広がり始めたMMORPGなどの流れを汲んでおり、今なお類を見ないほど戦術性に富んだバトルとなっています。

ガンビットを使うと、例えば「味方のHPが30%以下の時にケアルラを使う」のような設定ができます。これを応用していくと敵の攻撃を一挙に引き受け盾で捌くナイトや、敵の弱点や強さに合わせて魔法を撃ち分ける黒魔道士を作ることが出来ます。また、倍速モードと組み合わせると雑魚敵をサクサクと倒せて爽快です。

一方で、本作の戦闘はシュミレーション寄りで事前に設定することが多く、“誰もが簡単に”、といったものではありません。手軽に派手な戦いを繰り広げられる従来の戦闘よりも硬派で、人を選ぶ傾向にあります。

本作のバトルは特色が強いものながら、野心的かつ合理的で、RPGの戦闘のあり方に一石を投じています。当時は批判の的となりましたが、時代の変化の中で評価する声も上がり始め、方針が近いゼノブレイドシリーズや新生FF14が人気を獲得していることからも、FF12のバトルコンセプトは間違ってはいなかったと思います。

“戦記”としてのFFと、欠けた物語

FF12の物語の舞台は、アルケイディア帝国との戦乱に敗北したダルマスカ王国。帝国の支配の中で鬱屈した生活を送っていた少年ヴァンは、空賊のバルフレアや死んだはずの王女アーシェと出会い、破魔石を巡る争いと冒険に巻き込まれていきます。

オープニングシーンを見て分かる通り、FF12ではファンタジーの戦争を大きく取り扱っています。迫り来る帝国に挑むダルマスカ王国の戦いと敗北、和平協定調印式での不穏な動き、帝国支配下となった王都ラバナスタの現状がゲーム開始直後から描かれています。

また、劇中ではヴァン達の冒険の合間には解放軍やジャッジマスター、ソリドール家、もうひとつの帝国ロザリア、そして“神”と呼ばれる者達の暗躍が描写され、複雑に絡み合った情勢の中で歴史が動いていく様子を体験できます。

そういったイヴァリースの戦乱の間に起こった出来事を、アーシェに同行したダルマスカのごく普通の孤児「ヴァン」の視点から描かれるのがFF12です。ヴァンは亡国の王女アーシェや名の知れた空賊バルフレアのように特別な存在ではありません。ましてや、FF7のクラウドなど、歴代のFFの主人公と比べても地味な印象です。

しかし、イヴァリース作品は世界観を重点的に描く傾向があり、登場人物の個々の役割は小さく、歴史から見れば明確な主人公は存在していません。逆を言えば、登場人物の誰もがイヴァリースを描くための大切な1ピースであり、解放軍を率いたオンドール公や戦いを回避しようとしたラーサー、神々へ挑もうとしたヴェイン、あるいはサブシナリオのキャラクターですら物語が用意された主人公とも言えます。

そういった中で、等身大の視点から戦乱を見つめ、イヴァリースを自由に巡ることができるヴァンがゲーム本編の主人公であることは、FF12という作品の根底を端的に語っているのではないかと思います。

ただし、残念ながら本作のメインシナリオは前半部と後半部だと完成度の差を感じる点があり、事実、FF12の攻略本「アルティマニアオメガ」を確認する限り10章に分けられたシナリオの半分を序盤の山場(レイスウォール王墓~戦艦シヴァ)までで使い果たしています。さらに物語の折返しであろう帝国への侵入では、5つのロケーションを超える長旅になるにもかかわらず、大きなイベントがまったくと言っていいほど用意されていません。

ヴァン自体もラスト間際までスポットが当たるイベントがいくらなんでも少な過ぎで、アーシェは言われるがまま目的地へ向かうお使い状態となってしまう上、立ちふさがる相手の少なさや説明不足も目立ちます。バッガモナン、アルシドなど、出番不足のキャラも多い印象です。そのせいで後半は印象が薄くなってしまい、TZAになっても物足りなさを感じてしまうことは否めませんでした。

スクウェアが果たせなかった最後の夢

(FF9リマスターより)

2001年よりプロジェクトがスタートしたとされるFF12は、それまでのスクウェアのタイトルの中でも空前の規模を誇り、RPGへの挑戦と徹底した作り込みが行われたタイトルでした。しかし、発表の時点でスクウェアという会社は消滅しており、スクウェアが夢見た物語は文字通り最後のファンタジーとなってしまいました。(Wikipedia参照。ここらへんは時系列を把握しきれておらず、間違っているかもしれませんので、お断りを入れておきます)

ですが、FF12は非常に長く愛されたタイトルでもあり、全自動ヤズマット討伐などプレイヤーからの驚くべきやりこみや、スタッフによる何度にも渡るマイナーチェンジ、さらにFF14では「リターン・トゥ・イヴァリース」が実装されるなど、ほとばしる情熱と並々ならぬ執念のようなものが見て取れます。

ヴァン役の声優の武田航平さんも一時期事務所の関係上交代していましたが、TZAでは再びヴァンを担当しています。「オイヨイヨ」と揶揄された彼も仮面ライダー俳優を努め上げ、プロモーションではネタを含めヴァンとして生き生きと再演しています。

13年間の長き時を越え、イヴァリースへの見果てぬ夢を再び蘇らせた「FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGE」。壮大ながら取っ付きにくかったFF12というゲームは、多くの逆境を乗り越えて、現代に新たな評価を獲得しました。

今ならば、現行の全ゲーム機で遊べますので、興味を持ったならぜひ手に取ってください。終わりなきイヴァリースで自由を手にする冒険が、あなたをきっと待っているはずです。

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