見出し画像

vol.9 不実な恋愛の行く末…

元は私もanti groupの仲間だったはずなのだ。
いや、そもそもantiだったわけではない。
仲が良かったグループがいつの間にかantiと化していたのだ。
そして、彼女達の矛先は二分化されることとなった…

怒りと悲しみ…

普段よりも2時間も早い帰宅だ。
彼女はそろそろ仕事が終わり会社を出る頃だろう。
私の元に連絡が来るのも時間の問題だと思っていた。
しかし、彼女からの連絡が来たのは22時を回ってからのことだった…

-今から時間取れますか?-

こんな時間まで仕事だったのだろうか。
何度も連絡をしていた。
それに対する返信にしてはあまりにもおかしい。何かあったに違いないと直感した。

-大丈夫-
-そっちに行きます-

10分もしないうちに彼女が家の前に来た。
だが車から降りて来る様子もなく、車内で怪しく光る携帯が揺れていた。

-助けて-

何かあったのはこの一言で理解できた。
旦那なのかanti達なのかは定かではなかったが、今できるのは彼女に寄り添うことだけだろう。

「どうした?」
「これ見て…」

anti達からの罵詈雑言が延々と送られていた。
そして、夜に電話をするという一文で締められていた。

「電話が?」
「まだなの…だから一緒にいて欲しくて…」
「旦那は?」
「帰らないってさ。」
「分かった。移動しようか。」

家から少し離れた土手下で電話を待った。
彼女の不安感が伝染して来そうなほどの沈黙が続いたが、 彼女自らその沈黙を破った。

「私…何でこんな辛い目に合わなきゃいけないのかな…」
「俺とこうしていること?」
「違うよ。前の人のこともパパのことも謝恩会のことも。」
「頑張り過ぎなんじゃない?」
「そう見える?」
「かなりね。」

2人で声を出して笑ってしまった。
一瞬にして空気の重さが軽くなったのを感じる。

「電話もさ、相手がやりたがってるなら任せちゃえば良いんだよ。
宣言はしたくないってはっきり伝えればいいさ。」
「その宣言なんだけどね、メールの方に文言が送られて来てるの。」

-これまで私が皆さんを牽引して来ましたが、忙しくてなかなか思うように時間が取れないので進みが悪く、やっぱり私1人ではどうにも上手く行きませんでした。
そんな時、美園ママに相談したら助けてくれると手を差し伸べてもらえて、私の力ではどうにもならないということが分かりました。
これからは美園ママを中心に謝恩会を進めて頂きたいと思います。
宜しくお願い致します。-

「…これは。」
「うん…そうだよね。」
「若菜ちゃんってそんなにダメな人だったっけ?」
「これ読んで私もそう思った。」
「アホらし。」
「同感。」

これを考えた人間の小ささがとても良く分かる。
こんな人達に真面目に向き合っていたのかと思うと自分が情けなく思えた。

「あのさ、この後の電話で勝手にやってくれって伝えちゃいなよ。
この相手をしてる方が疲れるし、夜中も仕事中も貴方達の相手なんてしてられないって。」
「私だって言いたいよ。でも直接的に言ったら角が立つし。」
「営業さんでしょ?そこは上手く言葉を選ぼうよ。」
「そっか、そうだよね。宣言なんてしなくていいよね。」
「したくないことをしろっていうのはさ、大きく言えば強要罪ってのに当たるんだよね。」
「あ、最近話題の土下座のやつ?」
「そう、あれと同じ。」
「分かった。上手く話す。話せる。」

緊張が解れたようだ。
あからさまに彼女の表情に力が戻ったのが分かる。

「やっぱり頼りになるのはたっちゃんだね。」
「誉めてつかわせ?」
「うん、誉めてつかわす。」

和やかになったところで一度唇を合わせた。
彼女の車で、私が助手席にいるという珍しいポジションが新鮮味を帯びたキスとなった。

美園ママからの電話が鳴り出し唇を離した。
時計は既に0:40と、一般的に保護者同士が連絡を取り合うような時間ではなかった。

「さっさと終わらせて帰ろう。この時間に2人でいたら抱きたくなっちゃうよ。」
「もう…エッチ…」

思いの外電話はすぐに終わった。
「助けて欲しければ宣言しろ」という一点張りの美園ママに対し、毅然とした口調で「宣言はしない」と言い放った彼女の表情には気持ちの強さを感じた。

「本当にいつもありがとう。」
「そう思うならキスの一つもして欲しいもんだね。」
「大好き…」

そう言って私の唇に触れた彼女の吐息は、家に来た時の弱々しいものではなかった。

宣言集会

数日前に電話で宣言はしないと伝えた彼女だったが、やはり毎日のanti達からのLINEや電話が途切れることはなかったそうだ。
私の方にも攻撃の連絡が来てはいたが、対女性相手に本気でぶつかるほど器が小さい人間ではなかった。
「文句があるならうちに来て飯でも食いながら話そうよ。
電話に向き合って子供の面倒も見られない親でいたくないから。」という私の言葉に逆上する相手は可愛らしいものだった。
だが、どのママ達も私よりも年上のはずなのだが…

しばらくは彼女の方でも大きな問題はなかったようなのだが、攻撃LINEだけで引き下がる相手ではなかった。

-お昼にごめんね。次の謝恩会の相談はどこかのホールを借りてやれって連絡が来たんだけど…
借りろって誰がお金出すの…-
-何が決まってないの?-
-謝恩会の食事。美園ママ達は園の方で用意しろって言ってるんだよね。-
-謝恩会で先生方に働かせるって意味がわからないんだけど。-
-そうだよね。お弁当とかケータリングで用意した方が良いと思うんだ。-

私は、弁当を用意するかファストフードを用意するかの二案しか知らなかった。
謝恩会が何なのかすら知らない人間がいたなんてことが信じられなかった。
調理担当の先生というのは、子供達の栄養管理までしっかりとして下さっている1番感謝を伝えなければならない方々だと私は思っていた。
その心無い提案をヌケヌケと通そうとしていたanti達に、私は悲しさを覚えた。

-それとね…-
-何?-
-その会で宣言しろってLINEが凄いの。-
-必要ないよ-
-当日宣言から始めて私達が仕切るとか言われてる。-

乗りかかった船というか、妙に怒りを覚えたのを感じた。
私は仕事上顧問弁護士を付けられていたので、自分の周りで何か問題が起こるようであれば先に相談しろということを命令されていた。

-ちょっと時間頂戴?帰りまでに考えるから。-
-うん、分かった。-

怒りを鎮めるのも忘れ、即弁護士の方に連絡を入れた。

「山本です。」
「どうも、神永です。先生にちょっと相談がありまして。」
「どうしました?」
「私の周り、付き合いのある保護者に犯罪者が出たらどうなります?」
「取引先との契約が破棄されますね。
特に紹介者の進藤先生には多大なる迷惑を掛けることとなります。」
「それは強要罪だとしてもですよね?」
「世の中に強要罪は溢れてます。それをあまり問題視してこなかったから周知されていませんが、強要されていることを知りながら放置すると[犯罪幇助]の罪が課されることとなります。」
「幇助ですか。知りながら止めようとしなかったということで私も罪に問われるということですか。」
「そうなります。もしかして既に?」
「いえ、これからの話です。詳しくお話する時間頂いても?」
「このままどうぞ。」

事細かに弁護士に説明した結果、[ホールの手配 その場の飲食物 資料製作]を私が担うことを勧められた。
そして、その会での会話の録音をするようにと念を押された。
「必ず録音しますという旨を中に入れてください。
相手方から宣言させようとしたという内容が聞ければ最高です。
仮に被害者の方が告訴すると言われるのであれば私が動きますのでご安心下さい。」
「知恵を貸していただきありがとうございます。」

電話後、全ての準備を終わらせていった。
直近で借りられるホールを探し、謝恩会の意味を記した資料や食事の準備先のリストアップ、飲み物やお菓子の準備。
全てを完了した時点で彼女の方に連絡を入れた。

-次の日曜に○○ホールを手配しといた。
一斉メールで皆に伝えて。
宣言しないで良いから。会の回しもこっちでやるから黙って座ってて。-

正直お節介だとは分かっていた。
だが、少しでも彼女の助けになれるようにとしかこの時は考えることができなかったのだ。

「これからこの会で話す内容を録音させてもらいます。」

誰1人として人の話を聞いてなどいなかった。
席に着くように全体にお願いし、全ての会話の録音が始まった…

毎日更新の活力をお与えください💦 あなたのそのお気持ちが私の生きる糧になります!!!!