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vol.16 不実な恋愛の行く末…

旦那が遊びに行ったという連絡で私は舞い上がっていた。
娘の不満の解消もできる上に、一緒にいたい相手と同じ時間を過ごすことができるのだから当然だろう。
だが、現実はそう上手くはいかないものだ…

理不尽

懇談会も終わり、私は娘を引き連れ彼女の元へと向かった。
だが、どこを探してもその姿が見えない。

「若菜ちゃんは?」
「いないねぇ…アンも見えないし。」

仕方なく校門へと向かう途中、後ろから誰かに呼び止められた。

「みいパパ‼︎」
「はい?あ、涌井さん。」
「アンママどうしたの?泣いて出て行ったけど。」
「へ?」

泣いて出て行った?
そんなことを私が知るはずもなかった。
とにかく連絡しておこう。

-大丈夫?-

しかし既読もつかず私の携帯が鳴ることはなかった。

「何だって?」
「既読もつかないですね。」
「今日旦那も来てたよね?」
「始まる前に帰っちゃって遊びに行ったってさっきはLINEが来たんですけどね…」
「は?帰った?あり得ないんだけど。」

その反応は正しいよ、涌井さん。
そんな話をしていると、ようやく携帯が鳴った。

-ごめん…代々木まで来いって連絡が来ちゃって今向かってます…
誘っておいて本当にごめんなさい…-

深く溜息をついた。
その画面を覗き込んだ涌井さんが、ただでさえ大きな目を見開いて声を上げた。

「代々木⁉︎子供のこと放ったらかして代々木って何⁉︎」
「まぁそれで良いんだから仕方ないですよね。」
「私なら即離婚だわ‼︎」

私はその場を後にした。
このLINEに対し私は返事をしなかった。
する気になれなかったという方が正しい。
フォローしてやるべきなのかもしれないが、この時彼女が何を大事にしているのかを見せつけられた気がしたのだ…

謝罪と呆れ

既に眠りについていた私の携帯が突然鳴り出した。
しばらくすれば鳴り止むだろうと思っていたが、何度も連続で着信が入ればさすがに鬱陶しくなってきた。
こんな時間に電話してくるような輩は、大概昔から連んでいた仲間と相場が決まっていた。

「誰だよ…」
「…」
「なぁ…誰だよ。」
「…です。」

掠れるような声で聞き取れない。
それがより一層私の怒りを逆なでした。

「聞こえねぇよ…誰に電話してんだよ。」
「江藤です…」
「あ?」
「たっちゃん…」
「あ⁈若菜ちゃん⁉︎」
「うん…」

やってしまった…
眠気が一気に吹き飛んで言い訳をしてる私がいた。

「ご、ごめん‼︎仲間からの悪戯かと‼︎」
「ううん、いいの…」

時計を見ると3:02を表示していた。

「こんな時間にどうしたの?」
「…謝りたくて。」
「何を?」
「今日…遊ぼって言ったのに呼び出されてダメになっちゃったから…」
「それでこの時間に?明日でも良かったじゃん。」

ダメだ、また眠気が…

「早く謝りたかったの…だから戻ってきてすぐ電話したの…」
「え?」

この時間まで遊び歩いていたのだと言う。
子供を連れてキャンドルナイトフェスタ、そこから旦那がクラブに行くと言うのについて行ったのだそうだ。
子供を連れて…

「あのさ、このこの時間まで遊んでたの?」
「パパが帰らなくて…アンちゃんも楽しんでたし…」

呆れて言葉が出てこなかった。
子供の生活を大切にしていた私は、自分の都合で夜中まで子供を起こしたまま連れ回していることが信じられなかった。
旅行に行く時でさえ子供が寝ている状態でしか動かない私だ。
彼女の、旦那の常識を受け入れることができなかった。

「…わかった。謝ったのは聞いたよ。
もう寝る。」
「え…たっちゃん?」

そのまま電源を落とし、彼女からの連絡を排除した…
どこにもぶつけられないこの怒りを抱えたまま、ベッドの中で独り天井を睨みつけていた…

哀願

次の朝が来た。
私は眠れずに夜を明かした。
何とも言えない怒りと悲しみに押し潰されそうな気持ちを抑え、子供達の朝食の準備に動き出した。

相変わらず元気に起きてきた子供達は、おはようの挨拶と共にはしゃぎ出す。
何とも無邪気な子供達に少しだけ癒された気がする。

「パパ‼︎明日何するの?」
「何しようかね?たまには遠くにでも行こうか?」
「行く‼︎」
「じゃあ電車に乗って遠くへ行こう。」
「やったー‼︎」

滅多に乗る機会がない電車に大はしゃぎする子供達。
若干寝不足の頭に響くが、それでもこの光景の幸せを感じていた。

「さあ、学校の準備しろ‼︎ご飯食べて着替えるぞ‼︎」

普段ならこの時点で彼女との連絡が始まるのだが、どうしても昨夜の出来事が私に携帯の電源を入れることをさせなかった。

「いってきまーす‼︎」
「いってらっしゃい。気をつけるんだよ‼︎」
「はーい‼︎」

みいが元気に大きなランドセルを背負っている。
咲良を保育園に送るのも同じタイミングだ。

「さく、行くぞ。」
「はーい。」
「カバンは?」
「なーい。」

急ぎ部屋中を探すがカバンがない。
きっと保育園に忘れてきたのだろうと思ったが、チャイルドシートに乗せる時に足元に落ちているのに気が付いた。
妙に膨らんでいる。

「なにこれ…」
「きのうね、まおくんがね、さくのぎゅうにゅうをね…」
「ああ、溢しちゃったのね?後で洗うからいいや。
でもカバンは忘れないで持って家に入るんだぞ?」
「はーい‼︎」

こんな他愛ないやり取りでも癒される心を感じられた。

咲良を送りいつものように家路に着くと、見慣れた車が我が家の前に止まっていた。
彼女だ。
私の車を見るなり降りてきた彼女だが、このままでは私の車を停められなかった。

「たっちゃん…」
「おはよう、車退かして。」
「あ…ごめんなさい…」

急ぎ車を動かす彼女に目もくれず敷地内に車を停め、家の鍵を開けた。
彼女も私の車の後ろに付け、一緒に家の中は入ってこようとしていた。

「何?」
「あの…」
「おはよう。」
「え…」
「お は よ う。」
「…おはよ。」

ただでさえ小さな彼女がより一層小さく見えたのは気のせいではないだろう。
よく見ると泣き腫らしたような顔をしていた。

「で、何?」
「怒らないで…」
「何で俺が怒る必要があるの。」
「私が約束破ったから…」

確かにドタキャンされるのは好きではない。
だが、私が怒りを感じているのはそんなことではない。
子供を自分のアクセサリーのように扱うことへの怒りなのだ。

「あそ、そんなこと気にしてないからいいや。
俺はこの後色々やらなきゃいけないんだけど?」
「…入っていい?」
「何で?」
「話したい…」

じゃあどうぞと招き入れたが、それは玄関前に佇まれても困るからである。
周りの家から変な目で見られるのも嫌だったし。

「貴女仕事は?」
「貴女って…」
「し ご と は?」
「…休む。」

遊び歩いた挙句、仕事を休む?
私の常識の範疇にない行為だ。
さっきまで収まりかけていた怒りがまた沸々と湧き上がってきた。

「それで?俺にどうしろと?」
「何も…」
「ならどうして来たの?」
「謝りたくて…」
「夜も言ったよね?それは聞いたって。
そしてさっきも気にしてないって言ったよね?
なら用は済んだんじゃない?」

まただ。
女性のこんな場合に流す涙に嫌気が差す。

「…何でそんなこと言うの。」
「何?じゃあ許すって言って欲しいの?
そう言えば満足するの?」
「そんなこと言って…」
「言ってなくてもそういうことだよ。
許すってことは、ドタキャンに対して俺が怒ってらからできること。
でも気にしてないって言ってるじゃん。
だから許すことはできないよ。」
「じゃあ何でそんなに怒ってるの…?」

私の常識を彼女に押し付ける気は無かった。
彼女には彼女の生き方があるからだ。

「別に関係無くない?俺が怒ってても。
貴女は貴女の判断で生きてるんだから、俺がどう感じたって関係無いよ。」
「そんなことないよ…」
「何で?」
「私はたっちゃんが好きだから。だから怒らせるようなことしたなら謝りたいし、直せることなら直したいの。」

泣きながらそう訴える彼女に私は説明をすべきなのだろうか…
迷った挙句、1つの質問を投げかけた。

「貴女は俺とどうしたいの?」
「結婚したいと思ってる。」

本気でそう思っているのだろう。
それであれば私の想いを伝えても良いか。

「あのさ、何であの時間まで遊び歩いてたの?」
「パパが帰らなかったから…」
「貴女はなぜ帰ろうとしなかったの?」
「帰ろうとはしたよ。でもアンちゃんもパパも楽しんじゃってたから…」

自分がないのかこの人は?

「じゃあアンは今どこにいるの。」
「ばあばの家に行ってるよ。」
「遊び歩いて疲れたからやるべきことをやらずに休むのが貴女の中の常識?」

本気でこの時嫌気がさした。

「そんなつもりは…」
「でもやってることはそうだよね?
何で休みを取ったの?
何で子供を預けてるの?
何で自分が楽しんだことに対して謝りに来るの?
俺にはちょっと理解できないわ。」

そして核心をついた。

「貴女にとって、俺は後回しにできる程度の好きであって、それ以上ではないってことが分かったよ。
子供の生活を犠牲にしてまで愛したい相手が旦那だってことも分かった。
その上で俺に何を望むの?」

黙り込んでしまった。
そりゃ言葉も出ないだろう。
ここまで言われるとは思ってもいなかっただろうし、彼女の中では約束を反故にしたことに対する謝罪でしかなかったのだから。

「特に返事もないなら俺は仕事に行く。
貴女は旦那の満足するような奥さんになると良いよ。
俺はちゃんと未来を歩める人じゃないなら愛していくわけにいかない。」

彼女の手を引き外へと出た。
私は車に乗り込み、彼女を置いて走り去った…

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