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vol.7 不実な恋愛の行く末…

明日まで帰らないという旦那の書き置き。
いつ帰ってくるのかも分からない旦那に怯える彼女は、日に日に旦那への不満を私に吐露する頻度が増えていった。
そして、彼女は私に過去を告白したのだった。

過去の告白

姉夫婦との予期せぬ合流から晩御飯まで共にすることとなったのは昨日のことだ。
姉からの誘いで今日も一緒に遊ぶこととなった私達は、午後になるまでを彼女の家で過ごすこととなった。

相変わらず子供達は部屋の中で仲良く遊んでいた。
私と彼女は向かい合いテーブルでコーヒーを飲んでいた。

「凄く落ち着く…」
「何のこと?」
「貴方といるとさ、気を張らなくて済むから。」
「それは嬉しいけど、ちょっと気になることがあるんだけど聞いて良い?」
「何?」
「なんで旦那に対して皆遠慮してるの?」
「…それ?」
「昨日ちょっと聞こえちゃってさ。言いたくなかったら無理には聞かないよ。」

少し考え込んで彼女が口を開いた。

「私ね、結婚失敗したの。」
「それは…何というか知ってるって言って良いのかな。」
「パパじゃなくて、その前にね。」
「前?」

彼女には元々婚約者がいたというのだ。
結婚式の直前で婚約者が他の女に走ったことで結婚は破断。
精神を病んで引き篭もっていた彼女を外に連れ出したのが今の旦那 悠介だという。
結果的に彼女を助けた相手ということで誰も強く出られない状況なのだそうだ。
それがどんなに彼女を苦しめていようとも…

「だから私はパパに逆らえないの。」
「若菜ちゃんさ…幸せ?」
「贅沢は言えないよ。生活は苦しくないし、私がちゃんとしてればこんな風にはされないんだと思う。
きっとまだまだ足りないんだよ。」
「理想は?」
「毎日笑っていたい。
アンちゃんが言うんだ。ママ泣いてばっかりって。」
「…幸せ?」

俯いたまま黙り込んでしまった。
肩が震えている。
私は黙って彼女の頭を撫でた。

「じゃあ今は?」
「…今って?」
「俺とこうして向き合ってる時間。」
「凄く楽。楽しい。私にもアンちゃんにもちゃんと愛をくれてると感じる。」
「それは幸せ?」
「うん…凄く幸せ。」

私は彼女の涙を拭い、深く座り直した。
そして、彼女の目をしっかりと見つめテーブルの下で脚を触れ合わせた。
彼女の目が女へと変わるが、私は今彼女と交わるわけにいかなかった。
二階には子供達、もうすぐ姉家族もやってくるのだ。

「コーヒーもらってもいい?」

下唇を噛みながら彼女は立ち上がり、ゆっくりと誘惑するように私に近付いた。
わざと体が触れるようにカップを取ると、唇が触れ合う寸前で止まり私の目をじっと見つめた。
吐息が混ざり合う。1cmも動けば彼女の唇を味わうことができた。

「その顔…凄く好き…」
「どんな顔?」
「右の眉を吊り上げるその表情…」

私の癖だ。笑顔を作ろうとすると自然となってしまう。

「私を安心させてくれるその表情が好き…」

吐息が混ざり合う距離は、既に鼻が触れ合っていた。
この均衡を崩したのは私の「愛してる」という言葉だった。
彼女は私の唇を舐るように優しく咥え、下唇に吸い付いた。
彼女の芳りが私の理性を崩そうと襲い掛かってきた。
グラつく気持ちを抑えるのは難しかった。
背中には彼女のささやかな胸が押し付けられているし、唇に吸い付かれ視界には女の表情で私を誘惑する彼女だけが映っているのだ。
欲望は果てしなく膨らんでいた。
だが、微かに残っていた自制心で彼女の髪に手をやり、唇を引き離し耳元へと移動した。

(コーヒーをお願い。)

耳の輪郭を舐め、彼女の目を見直した。

「その表情…本当に好きだなぁ。」

また眉が吊り上っていたようだ。
彼女は素敵な笑顔を見せ、コーヒーを淹れるために後ろを向いた。
その瞬間、私の左手は彼女の形の良いお尻を軽く叩いていた。
その衝撃が心地良かったのか、こちらに目をやった彼女の表情があまりにも淫らで今でも忘れられない。

夜中の突然の着信

その日の晩のことだ。
いや、既に日付は月曜日になっていただろう。
私は昼間に新しく買った本を読み耽っていた。
超セレブの変態青年実業家がインタビュアーの女学生に恋をするという内容の本だ。
1冊がもうすぐ読み終わるというタイミングで携帯が鳴り出した。
既に1時を回っている。
一体誰がこんな時間に…

「はい…」
「たっちゃん…?」
「若菜ちゃん?」
「遅くにごめんね…寝てた?」
「本読んでた。どした?」
「パパと喧嘩になって…出て行っちゃったの…」
「何があったの…」

旦那は結局日付が変わる直前まで帰って来なかったのだという。
ちゃんと晩御飯の準備もして寝ずに待っていたそうだ。
しかし、帰ってきた旦那は既に食事も済ませ酔っ払った状態だったということに、彼女は遂に不満を吐き出してしまったのだ。
どんなに自分が頑張っていても、帰りを待っていたとしても、子供の面倒を見ていたとしても、旦那は自分勝手にしか生きていない。
その想いをぶつけたのだ。
彼女からの思わぬ反抗に逆上した旦那は、呂律が定かでないまま罵詈雑言を浴びせ飛び出してしまったという。

「辛かったな…若菜ちゃんは大丈夫?」
「何かね…凄くスッキリしたの。
でも、話にもならない相手だったんだなぁって情けなくなっちゃって…」
「もぅその歳までその性格できてる相手は変えられないよ。
離れるって気持ちがあるなら、早めに決着つけなきゃ疲れるだけだよ。」
「そうだよね…でもアンちゃんのことを思うと踏み出せない気持ちもあるんだ。」
「離婚届目の前にして一度ちゃんと話した方がいいかもね。」
「うん…そうしようかな…」
「今日の帰りに貰ってきておくよ。」
「うん、いつもありがとう。
何でたっちゃんに最初に出会えなかったのかなぁ。」
「それはもう仕方がないことだよ。
もう遅いから、後でまた可愛い顔を見せてよ。
早く寝ないと疲れが残るよ?」
「本当だ‼︎こんな時間だったんだね。
ごめんね、遅くに。」
「大丈夫だよ。俺はもう少しで1冊読み終わるからその後かな。」
「そっか。もうすぐ会えると思うと楽しみだね。」
「本当だね。でもちゃんと休まなきゃね。」
「うん。ねぇ、言って?」
「愛してるよ。」
「私も、愛してる。」

夜中だというのに、妙な高揚感を覚えていた。
電話が切れた今、彼女の声が聞きたくて堪らなくなっていた。

謝恩会の仕切り

娘達が最上級クラスに上がり、いよいよ謝恩会の準備に取り掛からなければならない時期となった。
彼女との関係も2ヶ月、旦那との間は冷え切っていると言っていた。

謝恩会の準備をしなければという話題が各所から聞こえてきてはいたが、誰1人として先導しようとする人間はいなかった。
いつ何をしようなんていう具体案は何一つない。
そんな中、見るに見かねた彼女が全員に向けて張り紙をした。

[次の日曜に○○公園で謝恩会の会議をします。最上級クラスの方はご都合が付けば集まって下さい。]

見事に全員が集まった。
この日になるまでの数日間、全員から煙たがられないかという不安を毎日相談されていた。
しかし、その不安も当日になって無用のものであったということが理解できたようだった。

「江藤さんがまとめてくれたからほとんど決まっちゃったね。」
「アンちゃんママはキャリアウーマンだしね。」
「頼りになるよね。」

そんな声があちこちで飛び交っていた。
私はというと、一緒に来ていた子供達のお守りをしていた。
ひたすら話しかけてくる子と話したり、男の子達が公園から抜け出そうとしているのを引き止めたり、喧嘩の仲裁をしたり…
保育園の先生は本当に凄いと思う。
これを毎日してくれているのだから。

「じゃあ今日まとめた感じで進めたいと思います。
休みを潰してしまってごめんなさい。
でも、皆で思い出に残る謝恩会にしましょう。」

彼女の指揮の元、全体が調和した集まりが終幕を迎えた。
そう、この時は誰もがそう思っていたんだ…


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