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vol.6 不実な恋愛の行く末…

公園へと移動する途中、彼女の携帯が突然鳴り出した。
その画面には旦那の名前が…
騒いでいる子供達を抑え切ることもできず彼女は電話に出た。

罵声

電話からは運転席からでも聞こえるほどの怒鳴り声が聞こえた。

-何度もメールしてるのに何で返信もしてこないんだ‼︎車はあるのに誰もいないなんてどういうことだ‼︎-

子供達の騒いでいる声は聞こえているはずだ。
それも旦那の怒りを買ったのだろう。

「今みいちゃん達と公園に向かってるの。そんなに怒鳴らないでよ…」

彼女がとても辛そうな顔をしていた。
ここで私が何か声を発すれば余計に旦那の琴線に触れるだろうと何も声はかけなかったが、なぜ帰らないはずの旦那が戻ってきたのかを考えていた。

(仕事であれば明日帰る予定がこんなに早く引き上げて来られるなんてことはないよな…)

私の中でも旦那の不倫が過っていた。
きっと彼女に対する態度と同じように接しているせいで喧嘩にでもなったのだろう。
そんな勝手な想像をしつつ2人の会話を聞いていた。

-こっちは早く切り上げて帰ってるのに飯の準備も無いんですか‼︎
こんな状態で家族なんて言えるんですか‼︎-
「だって明日まで帰らないって連絡してきたのはパパでしょ…」
-だからって旦那の帰りも待たずに遊び歩いてるってどういうことなんですかね‼︎-
「じゃあ帰るよ‼︎帰ればいいんでしょ⁉︎」

その言葉を最後に電話が切れた。
彼女が深い溜息をついて泣きそうなのを堪えているのが分かった。
手を差し伸べると彼女は両手で私の手を包んだ。

「…ごめんね。今日はこのまま帰る…」
「大丈夫だよ。それより…」
「私なら大丈夫。いつものことだから…」

そう言った彼女の目元には、今にも溢れ出しそうなくらいの涙が溜められていた…

失望しちゃうな…

家に送るといっても、子供達は既に公園モードで素直に聞き入れてくれる見込みは薄かった。
旦那の帰宅を伝えたところで納得はしないだろう。
仕方なく私が悪者になることにした。

「ごめん、靴下買わなきゃいけないの忘れてた。
他にも買い物しなきゃいけないから今日は帰ろう。」
「えーっ‼︎」

そうだろう子供達よ。その反応は正しいと思う。
だが、彼女を悪者にする気はなかったし、普段いない人間が帰宅したからといって遊べなくなるなんて口が裂けても言えなかった。
もしそんなことを言おうものなら、アンちゃんの中で父親は悪者なのだという気持ちが芽生えかねない。
そんなことはできなかった。

「明日も休みだし、予定がなかったら遊ぼう?」
「やだー‼︎公園に行く‼︎」
「だって今日買い物に行かないと明日遊べなくなるかもしれないよ?」
「…はぁい。」

渋々だが聞き入れてくれた子供達には本当に悪いことをした。
旦那が家にいるのであれば遊べないのは分かりきっていたからだ。

程なくして家に着いた。
彼女は急ぎ車を降り、聞き分けない娘を無理矢理引きずり出そうとしたが降りて来ようとしない。
仕方なく私が抱き上げて外へ連れ出した。

「ごめんな。また時間のある時に遊ぼ?」
「ぎゅーして?」
「はいはい。」

とりあえずこれで納得してくれたようだ。
彼女の家のすぐ後ろにある洋服屋に立ち寄れば靴下ぐらい買うことができた。
嘘をつくのは嫌だったのでそのまま買い物に出掛けた。
店内に入ると子供達は自分の好みで靴下を選び出した。
たかが靴下でも新しい物を手に入れるのが嬉しいのだろう。
そんな矢先、私の携帯が鳴り出した。
彼女だ。

「どうした?」
「…戻ってこれる?」
「すぐ後ろの服屋にいるけど?」
「じゃあそっちに行く。待ってて。」

凄く怒っているような声だった。
歩いて2分程の距離なので子供達が決めかねている間に2人が店内に入ってきた。

「旦那は?」
「…これ。」

紙切れを私に差し出して見るように促した。

-明日まで帰りません-

何なのだ?と思ったが、彼女の顔を見ると既に爆発しそうな表情をしていたのであえて笑顔で紙を返した。

「公園行こうか。」

この言葉で少し彼女の怒りが収まったようだ。
ふざけたように深く溜息を吐き私のすぐ隣に擦り寄ってきて肩をぶつけた。

「貴方は本当に優しいね。」
「ベッドの中以外ではね。」

真顔で言ったこの言葉で彼女がようやく笑顔になった。この人には笑顔がよく似合う。

「何でこんなに自分勝手なんだろう。失望しちゃうな…」
「そうやって育ったんだろ?」
「でも義両親は人格者なんだけどなぁ。」
「それは知らないけどさ、とりあえず今は子供達を楽しませようか。」

子供達にも公園に再出発することを伝えると、手に持った靴下を会計しに走り出した。
なぜか3人分…

姉夫婦

公園に着くと子供達は一斉に広場を走り出した。
私達は軽くキスをしてから車を降り、みいとアンに置いて行かれた息子咲良の後を追った。

「さく、肩車するか?」
「うん‼︎」

両手を掲げて見上げる息子の何と可愛いことか。
勢いよく自分の肩に持ち上げ、そのまま娘達のところまで走った私は、ふと視界の中に入った夫婦に目をやった。

「あっ。」
「おっ?たっちゃん?」
「どうも。」
「アンちゃんいたけど若菜は?」
「あっちにいますよ。」

彼女の姉 藍華さんとその旦那 林さんだ。
娘の唯ちゃんを連れて遊びに来ていたのだ。

「あんた達本当に仲が良いよね。悠介くんは今日もいないの?」
「なんかさっき帰って来たって連絡が来たんでここに来ようとしてたのをやめて送り届けたんですよ。
でも、明日まで帰らないって書き置きがあったって若菜ちゃん怒って俺に連絡してきたんで、じゃあ公園行こうかってなって。」
「相変わらず悠介くんは俺様だねぇ。」

そんな話をしていたら彼女がやってきた。
姉がいることに気付いていなかったらしく、私が誰かと話してるのを邪魔しないように子供の方に目をやっていた。

「おーい、若菜ぁ。」
「えっ?あ、藍華。」
「姉がいることぐらい気付けよ。」
「だって、たっちゃんが誰かと話してるから。」
「俺もいるんだけど…」

林さんが自分の存在をアピールしてきたことで笑いが起きた。
私はその場から離れ、子供達の隠れんぼに参加することにした。

「あんた、悠介くんの我儘にいつまで付き合うつもりなの?」
「だって仕方ないじゃん…」
「この前だって家族の集まり無視して呑み歩いてたんだよ?
ばあば怒ってんの分かってんの?」
「それは分かってるよ…でも強くなんて言えないし…」

前を走る度にそんな話が聞こえた。
親族内でも旦那は異端として認識されているのだとその時知った。
そして、なぜか旦那に対しては誰もが強く出られない状況があるのだということも同時に知ることになった。
だが、今はそこに混ざるより子供達を思い切り楽しませることに専念しよう。

「たっちゃーん‼︎お昼食べに行こー‼︎」

藍華さんが私を呼んだ。
子供達に揉みくちゃにされていた私は、その場にいた子供達よりもボロボロな風体となっていた。

「あはは、なにその格好。」
「子供達の元気に負けた。」
「大丈夫?」
「風呂入りたい…」
「だめー‼︎ご飯行くの‼︎」

1人だけ砂や草まみれの大人…まぁ気にはしていなかった。
私を見てくれる度に彼女が笑顔になってくれる。
それだけで幸せな気分だったんだ。

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