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vol.10 不実な恋愛の行く末…

私の仕事へも下手をすると影響を及ぼし兼ねないというanti達の強要…
それを阻止するのも、私自身を守ることに必要だという弁護士からの助言だった。
彼女を助けるための行為が結果的に自分を守ることに繋がるとは…

証言録音

「まずは食事の件を決めたいのですが、園の調理スタッフの方々に用意させるというのは無しにしませんか?」
「何でですか。」
「そちらに準備した資料の表紙にありますが、謝恩会は感謝を伝えるための会です。
お世話になっていた方に準備させるというのはそもそもの目的からズレてしまうと思うんです。」
「ちょっと待って。何でみいパパが仕切ってるの?
それに、こんな段取りじゃなかったはずでしょ?」

美園ちゃんママが会話を割いた。
antiの誰かが話を止めることを予定していたので、これは正に理想の形だった。

「段取りとはどういうことですか?」
「江藤さんが皆に伝えることがあるはずなんですけど。」
「何を言うんですか?
江藤さんには少し黙っていてもらうように俺が言いました。
江藤さんが皆に何を伝えるのか教えてもらえますか?」
「アンタが仕切る理由が先じゃないの。」

掌の上で何とやらとは正にこのことだろう。
anti達がどんどん険悪感を晒してくれている。

「この会場を抑えたのも支払いを済ませたのも目の前にある資料も食べ物も俺が用意させて頂きました。
江藤さんには助けて欲しいと頼まれたので今こうして話してます。
それで、江藤さんに何を語って欲しいのか教えてもらえますか?」
「江藤さん、ちょっといい?」

一斉にanti達が席を立とうとした。
だか、それを私は許さなかった。

「何か言いたいことがあるならここで話しましょうよ。
聞かれたら困ることでもあるんですか?」
「アンタ黙ってなよ。」
「みいパパが出しゃばる必要ないでしょ。」
「そもそもこっちにヘルプ出したの江藤さんじゃん。」

antiの1人が口を滑らしたのを私は聞き逃さなかった。

「ヘルプですか?そのヘルプって何ですか?」

見ている間にanti達の顔が紅潮していくのがよく分かった。
特に激昂しているのが海野さんだったが、彼女は所謂ガヤだ。
周りに同調して捲し立てるだけの役。
本田さんと寺川さんは美園ちゃんママの補佐といったところか。
そして梅垣さん。彼女は泣き役だ。
他のお母さん方は、今目の前で起きている事態について来れていない様子だった。

「私が上の子の時に謝恩会の仕切りをしたことがあるから困ったら言ってって話だったの。
そしたら江藤さんが力を貸してくれって言ってきたの。
でも、私が今しゃしゃり出てきたら皆困惑するでしょ?
だから、私が前に出るのを説明して欲しいって話だったのにこんなことになってるんでしょ。」
「訳も分かってないのにアンタが出てきたから悪いんだよ。」
「じゃあ、今美園ちゃんママは自分で前に出ることを伝えたので江藤さんが何か言う必要はないですね?」
「…アンタ何様?」

補佐役の寺川さんが噛み付いた。
明らかに好戦的な目をして私を睨みつけているが、怒らせることが目的の私としては好都合としか言いようがない。

「アンタ美園ママがどんな目にあったか知ってるのに何で説明させようともしないの。
別にそれをしたから何か困ることでもあんの?」
「それについては後で個人的に話しましょう。後30分しかこの会場押さえられてません。今日は食事についての話だと聞いてます。
そして、冒頭で伝えました通り園に頼むのは筋違いだと思うのでやめにしませんか?」
「なら何なら良いって言うの。アンタの決めた通りすればいいわけ?」
「そんなことは一言も言ってません。ただ、謝恩会で感謝すべき相手に仕事させるのはどうかと思うって言ってるだけです。
還暦の祝いのちゃんちゃんこを祝ってやるから自分で買ってこいっておかしな話でしょ?
それと一緒ですよ。」
「そもそも調理さん達なんて呼ばないでしょ?」
「呼ぶ呼ばないじゃなく、お世話になった先生方全てに感謝の意を表すための会でしょ?
どうしてもと言うなら後は勝手に進めれば良いと思います。
貴女方が回すと言うことですし、私はこれで失礼します。」

そう言い残して部屋の端に座り直した。
anti達はしたり顔で私を見ていたが、私を取り囲む彼女寄りのお母さん方が壁になっていた。

(みいパパ、ナイス‼︎)
(たっちゃん…ごめんね…)
(大丈夫。全部録音したから。)

取り囲んでいた全員が驚きの表情を隠せなかった。
会が終わるまで20分も掛からないだろう。
少し眠ることにしよう…

パパ同士意気投合

20分程すると携帯のアラームが鳴った。
皆ホールの中心で円を作るように話し合っている。

(そろそろ時間だから解散しようか。)
(うそ⁉︎そんな時間‼︎)
(何か決まった?)
(…何も。)

何と見事な仕切りなのか。
私は大きな溜息を吐いてしまった。
それに気付いたanti達がコソコソ話していたが、私は立ち上がり全体に呼び掛けた。

「そろそろホールを空けなきゃいけない時間になってきましたので、皆さん外にお願いします。
片付けはやっておくので、どうぞお帰り下さい。」
「後何分残ってるの。」
「えー2分ですかね。食事を決めるだけなので時間も必要ないでしょ。
急ぎ片付けますのでご協力お願いします。」

誰にも文句は言わせる気がなかった。
テキパキとホールを片付け始める私、それを手伝う彼女やその他のお母さん方。
anti達は足早に廊下へと消えていった。

「みいちゃんパパ…ちょっと酷くないですか?」
「何がです?」
「男の方があんな風に女性に対して威圧的になることがです。」
「えー、威圧的ですか?」
「少なくとも私はそう感じました。」

こんな人もいる。
だが、手を止めるわけにはいかなかった。
時間は刻一刻と過ぎて行くのだ。

「声を荒げた覚えはありませんし、罵倒した覚えもありません。
威圧したと感じられたのがいつなのか分かりませんが、私は一切威圧なんてしてませんよ。
むしろ淡々と話していたと思いますが?」
「その口調がですよ。とても冷たく威圧的だと。」
「会を回すのに温かみのある声質が必要だとは思ってませんし、今もそうですが時間には限りがあります。
早く進行するためなので威圧的だと感じられたのならすみません。
はい、じゃあ出ますよ。」

anti寄りのお母さんとしては、何かしらの態度を取っておかなければ後々攻撃されてしまうのかもしれない。
普段会話もしたことない名前すら知らないお母さんですらこんな事を言いに来るくらいだ…
解散後、施設を出るまで4人と同じようなやり取りをする羽目になった。
放っておけば他にも文句を言いに来そうなお母さんはいたのだが、子供達の面倒を観ていてくれたお父さんが私に駆け寄って来ていて後続はなかった。

「神永さん‼︎アンタ偉い‼︎」
「へっ?」

第一声がこれだと張っていた気持ちが一気に緩めさせられる。

「江藤さん守るために悪役買って出たんだって?」
「あ、ああ。別にそんなんじゃないですよ。」
「謙遜すんなよ‼︎俺カミさんにそれ聞いて感動しちゃってよぉ。」

この人は誰なのだろう…周りを見てもお母さんらしきは見えない。
そこへ彼女が近付いてきた。

「ナナちゃんパパ‼︎来てたんですか?」
「おお、江藤さん‼︎大丈夫だったのかい?」
「はい。たっちゃんが全部終わらせてくれました。」
「そうなんだってな‼︎カミさんが色々言ってるの聞いて腹が立ってここに来たらやたらデカい男が前に座ってるし、隣には江藤さんいるし。
そしたら、その男が女共を圧倒してたから中に入らなかったんだよ。」

いや、入ってくれよ…と、切実に思った。
男1人で女の中にいるのはなかなかの拷問なのだから…

「あの、ごめんなさい。誰ちゃんパパです?」
「えっ?たっちゃん知らないの?」
「ごめんなさい。帰りが被る子しか分からないんです。」
「ああ、ウチはバス組だから迎えには行かないんだよ。
荒木七海の父です。」
「すいません。絶対に忘れません。
神永みいの父です。」
「2人共知ってて話してたんじゃないんだ?」
「俺もカミさんに聞くまで知らなかった。」

それなのになんでフレンドリーな人なんだ。
外にいたのに駆け寄って来て、さっき散々背中叩かれた気がするんだが…
でも愛嬌のある憎めない方だった。

「そんで?これで集まりは終わりなの?」
「俺も知らないんです。やる事終わったら疲れて寝ちゃってたんで。」
「えっ?あれ本気で寝てたの?」
「もちろん。」
「肝が座ってるねぇ。神永さん気に入ったよ‼︎」
「どうも。とりあえず録音したら俺の役目はほとんど終わりだったんで。」
「録音?」

2人が不思議そうに聞き返してきたので、弁護士との会話の内容をザッと説明した。

「それで録音して証拠もゲットしたと‼︎アンタ凄い人だね‼︎」
「いや、結果的に俺も周りで犯罪に繋がることをされると困るので。」
「そこまでしてたなんて知らなかった…ごめん…お金掛かってるよね…」
「いや、弁護士は仕事上付けられてる人だから一銭も。むしろ今日のホールと資料と食べ物に掛かったかな。」
「なに?神永さんが払ったの?」
「こんなの請求できないでしょう?
話し合いするだけに金払えって言えないですよ。」
「本当にアンタ男だねぇ‼︎」
「ごめん…私払うから。」
「じゃあ今度ご飯奢りで。」

3人で爆笑してると、そこに美園ちゃんママが1人でやってきた。

「みいパパ、ちょっといい?」
「いいですよ。どこか行きます?」
「外来て。」

どうせ全員で囲むのだろうと思っていたのだが、予想外に誰1人いなかった。

「じゃあ聞かせて。何でみいパパが仕切ることになったの?」
「美園ちゃんママ達が江藤さんにさせようとしてたことを止めるため。」
「何をさせようって?」
「メールで送ってきた内容を皆の前で宣言しろって言ってたでしょ?」
「それの何が悪いの?」

悪いことだという認識はやはりないのだ。
そこを説明するところからなのか…

「まずね、江藤さんは皆の前であの文章を読みたくないって言ってなかった?」
「言ってたね。でも助けてくれって言ってきたのは向こうだし。」
「さっきの話の流れだとさ、美園ちゃんママが自分から手を差し伸べてたように聞こえるんだけど。
前にやってたから手伝うよって。」
「そうだね。でもそのあとお願いしますって言ったのは江藤さんだよね。」
「そんなの要らねえよなんて言えるわけないでしょ。
一般的に考えて社交辞令でも肯定するんだから。」
「私が非常識だと言ってる?」
「言ってない。手伝うよに対してありがとうって意味でしょうよって話だよ。
両手ついてお願いしますって頼み込んでるわけじゃないってこと。
手伝うってことは一緒に色々仕事を分担しようって感じでしょ?
でも、あの文章は全く違うよね?」
「それをそのまま読めなんて言ってないし。」
「言ってたよ。数日前の夜中に。」
「は?何でそんなこと知ってんの?」
「助けてくれって家に来たからだよ。隣にいて全部聞いてたし。」

美園ちゃんママは目を閉じ黙って何度も頷いて何かを考えていた。
そして、私に対しこう言い放ったのだ。

「じゃあ私達は謝恩会に出ない。」

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