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私的読書今昔記

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2018年5月の記事一覧

「大滝瓶太」という現象について--大滝瓶太『コロニアルタイム』

正直にいうとこの本についてなんて何にも書きたくなかった。著者を知っている状態でその作品に言及するなんて、内弁慶で豆腐の角どころが豆腐の真ん中で殴られても死んでしまう未だ飼い慣らせない可愛い小心者のこうさぎちゃんが内々で暴れまわっている私からしたら荒波のごとく押し寄せる怒涛の忖度に埋もれるも同然で、なんかもうおもんなくても、「お、おもちろかったですぅ…」としか言えなくなるのが目に見えているからだ。 それでも本を読み進める中で「な、なんか書きたいかも…」なんて思わされたのは、私

好きじゃないけど祈ってる、あるいは舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる』について

私の愛は祈らない。願いもしない。あなたが健やかに心地よく生きていけたとしても私のいない世界になんかいて欲しくないし、私とあなたが一緒にいれるなら他の人なんてどうなったっていい。 そう思っていた。 ・・・

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“眠り”を犠牲に“少女だったあの頃”を召喚したい私を見つけないでよーー村上春樹『TVピープル』収録「眠り」

村上春樹が文學界にて新作を発表するらしい。だから、今書きつつあるこの文章には、彼の作品について一度は書いてみたいという私の願望とともにちょっとした商売気が含まれている。 私の夫は村上春樹が好きだ。彼は普段小説をあまり読まない人なのだけれど、村上春樹の作品だけは小説からエッセイ、翻訳など本棚に一通り揃えてある。 けれど彼曰く、「俺はハルキストではない」ということで、どうやらその一言は彼において重要な意味合いを持っているようだ。 一方の私はというと、教養としての村上春樹という

卵子を排除できない私の愛についてーー川上未映子『ウィステリアと三人の女たち』

朝方、下腹部の痛みで目が醒めた。 昨晩から私の体を漂う、この予感には慣れているけれど、現存する感覚には全く慣れなくてうまく信じてあげることができなくて切ない。 恐る恐るトイレに行ってズボンを下げてみると予感は的中して感覚は真で、今月も無事、子宮の内壁がお務めをはたしましたよと語りかけてくる。 ハロー、月経、さようなら未受精卵たち。 今月はちょっと早いね、とか思いながら痛み止めを飲んで布団に倒れる。 眠気、気だるさ、下腹部の痛み、下半身にまとわりつく違和、各種不快感がそろい

noteで書評、はじめちゃおっかな

生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。太宰治『桜桃』、青空文庫 しょっぱなからこの一文で、「おいおい、お前メンヘラかよ」と思われた人も少なくないだろうし、事実、私は人並みにメンヘラなのだけど、言いたいのはそんなことではなく、19歳頃の私はこの一文をそらで言えるほど読み込んでいる、おセンチで可愛い処女だったってこと。 物心ついた時から物語を読むことが好きで、だから気づいたら小説を読んでいて、思春期の私は軽微な「ブ