雨と晴れのジンクス

雨と晴れのジンクス_3

「あぁー!ちょっとぉ!!」

遊園地のど真ん中、若きアカリストが泣きそうな声を出す。ビニル傘は屋台の生ゴミと一緒に大きなゴミ箱に突き刺さった。とても拾う気にはなれない。

「これで良いのだ。縁起が悪い。」

恨めしそうな視線を気にも留めず、リーダーは先陣を切ってライブ会場へと足を速めた。それもそのはず、今回はチケットの無いシークレットライブ。場所取りが命だ。シークレットと言っても、アカリがTwitterでつぶやいていたのでファンは皆知っているのだが。ニューシングル発売の話題作りだろう。リーダーが歩き出すと間もなく、ステージの方から歓声が上がった。

「え!ウソだろ!?まだ予定の1時間前だぞ!?」

リーダーが走り出すと、取り巻きも後を追う。ステージの周りはすでに人集りが出来ていた。

「みんなー!待ち切れなくて出て来ちゃった!ちょっと早いけど、歌ってもいいかなー?」

同じファンTシャツを着たアカリスト達が、一斉に雄叫びを上げる。その声にかぶさる形でバンドの演奏が始まった。

「ぐぬぬ…俺とした事が…!つまらん事をしてないで会場で待機すべきだった…!ええい!お前ら、横断幕の準備だ!」

アカリの歌声は伸びやかに園内に響き、控え室での悪態とは一変、アカリは天使の様な笑顔を会場に振りまいた。

「ん、どうした若きアカリスト!アカリの美声に圧倒されたか!?」

「あ…はい…それもあります…けど…」

彼はゆっくりと空を指出す。リーダーは空を見上げるなり目を丸くした。

「おいおいおい…マジかよ…!!」

遊園地をすっかり覆っていた黒い雲がステージ上空で裂け、アカリに目映い光が射している。まるでスポットライトかの様だった。

「スーパー晴れ女ってレベルじゃねーぞ…アカリは…女神だ!!」

アカリが空に両手を挙げて左右に揺らすと、アカリスト達はそれに続く。ファンの間では“アカリダンス”と呼ばれている振り付けで、楽曲に関係無く盛り上がる場面でするのがお決まりだ。アカリストはもちろん、にわかファン達も一緒になって大きな歓声を上げながら天を仰ぐ。それはアイドルのライブと言うより何かの儀式にも似ていた。

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熱狂する会場の最後列、丈の長い真っ黒なレインコートを着た2人組が居た。一人は長身の男。フードを目元まで深く被り、両手をポケットに入れたままステージで踊るアカリを静かに見つめている。それに隠れる様に立つ、背の低い方が呟く。子どもだろうか、手には薄汚れたクマのぬいぐるみを抱えている。

「これ…間違い無いね。」

長身の黒いレインコートはステージを見ながら答える。

「あぁ…。それも…予想以上だ。」

レインコートの子どもはクマのぬいぐるみを心配そうに抱きしめて、一層身を隠した。

二人は、まるで大小並んだ黒いてるてる坊主の様だった。

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