「本気出して それから あきらめろ」という台詞について

左ききのエレンの序盤で「本気出して それから あきらめろ」という台詞がありますが、原作版より以前の読切版から使っている思い入れが強い台詞です。

正直、メッセージ的には「天才になれなかった全ての人へ」と「本気出して それから 諦めろ」と「描けよ」の三つで全部と言うか、この序盤の台詞に戻ってくるための連載なんですが、第二部を描き始めたせいもあるんですけど「本当は、この三言だけで全ては語りきれないよな」と思い始めてます。

第二部も悪い癖が発動して助走に時間がかかってしまっていますが、次公開の最新話までが「第二部・プロローグ」ってイメージでいて、来週から「第二部と第一部は何が違うのか」みたいな、そういう事が徐々に描けると思います。第二部は、第一部で描ききれなかった部分を描いているんですが(当たり前)それが番外編でも無く、かと言って一旦完結させたものなので全く同じテーマでも無く、本当に「第一部を描いた事で、新たに課題が生まれた」と言うか。第一部を描いていなかったら、疑問にも思わなかった、考えが至らなかった、気が付かなかった事を課題に、第二部は描きたいと思っています。

以下、ダイナミックなネタバレは避けますが、チラッとでも気にする方は閉じて下さい。第一部全体の話をします。

----

ちょっとテーマの性質上ポエミーな表現が多めになりますが、最初エレンを描き始めた時は「美しい破滅」を描きたいと思って。どうですか、このポエミーなワード。午前中にはちょっと読めないですよね。深夜のテンションで読んで下さい。もう少し説明的に言い直すと「子供の頃の夢を、何と無くうやむやにした状態で保留にして忘れるより、真正面から泥臭く体当たりして玉砕した方が何万倍もカッコ良く無い?」という感じです。だから、光一を出来る限り泥臭くて痛くてダサく描いちゃおうと思って。その方が最後にカッコ良いはずだと思って。

そんで、最初に触れた「本気出して それから あきらめろ」になるんですけど、第一部描き終えた時に一周回って最初の台詞に戻ってこれてよかったなと思う反面、全部通しで読んでくれた人には光一がどういう気持ちで戻って来たのか分かってくれていると思いますが「本気出して それから あきらめろ」の大変さって、ぶっちゃけ性格によるよなって。身も蓋もないですが、諦めがいい人とか、冷静に自己分析できる人とかにとって「本気出して それから あきらめろ」って割と半年で可能かも、とか。業種によるけどね。この「本気出して あきらめろ」が美しいって感じてくれる人は、割と心が熱い人だと思うし、泥臭さを知ってる人だと思うので、ぼくは非常に仲良くなれそうな気がするんですが、人生それだけじゃないよなって。

リメイク版は、ぼくの原作版で描ききれなかった部分が多く入っているので、ここで描いている様な「一度描き終えたからこそ新たに生まれた葛藤」も加わってます。だからこそリメイク版も読んで欲しくて。具体的に例を挙げるなら、序盤で光一に「オレは オレが諦めるまで 諦めない」って台詞が追加されてるんですけど。これ入れちゃったから、もうちょっと踏み込まないといけなくなって。「本気出して あきらめろ」に対するアンサーで「オレが諦めるまで諦めない」って、もうホコタテと言うか。問答が無限ループに入る感じで。あと、アトリエの同級生タケちゃんの顛末も、どうしても追加したかった話です。「本気出してないのに あきらめちゃった」人を描かないと嘘だなって。

また文章が迷子になっているので、ちょっと今の心境を書くと「諦めない事は泥臭くて惨めで格好が悪い。でも、その先の本気出した末の諦めは美しくてエモーショナルで格好良い。で、あんま頑張ってないのに諦めるのはマックスダサい」って構図自体が、本当にそうだっけ、と思っています。

最近は「諦める」難しさは、それに関わる時間に比例すると思っています。「損切り」みたいな話でも語れると思うんですが、単純に投資した時間が勿体無い以上に「あと少しで届くのに」とか色々見えて来た方が諦めるのが難しいのでは無いかという。と言うのも、僕自身「漫画家を辞める」ハードルがすごい上がってる。最初は「本を一冊でも出せれば一生の思い出になる、孫に自慢できる」って本気で思ってました。本気で。本二冊出した時点でマジで満足しかけてて。いま、10冊以上出したし、どんどん重版もかかってるし、2年前からすると本当に夢の夢みたいな状況なんですけど、まだ全然「本気出したから諦めよう」とは思えなくて。どれくらいやったら満足できるか分かんなくなったキツさがあります。多分、例えエレンが映像化されても、200万部突破しても、「よし!本気出したからやめよう」にはならないんじゃ無いかと思って。

なんか、ここまで描いていて気がついたんですけど、やっぱりぼくは「本気出して あきらめる」という事への憧れが強いんだろうなって。「惨めな生より、美しい死」を望む様な。今は惨めな生でも無く、もちろん美しい死でも無く、何と言うか「健やかな毎日!」みたいな毎日になっていて、いろんな意味で。仕事もそうだし、結婚して子供が生まれた事もあったりして、なんかそうなってくると「じゃあ、いつ諦めがつくんだ」って問いに答えられるず、やっぱり「保留」にして生きてしまうんじゃ無いかと思って。

「ジャンプコミックスが重版したら第二部やります!」って前に言って、その結果第二部が始まった訳ですけど、正直に言うと、あれで重版かからず打ち切りになってたら、心の何処かで安心して、安らかに死ねた(もちろん漫画家として)んじゃないかとも思って。あれで漫画家辞めてサラリーマンに戻ってたら、それはそれでスッキリした気持ちになれたのかもしれない、とか。いや、そんな事無くて死ぬほど凹んで再起不能になっていたかもしれない。たらればなので、分かりませんが。

ちょっと何の話か分からなくなってしまいましたが、第二部を描き終えた時に、この辺の答えとかケジメがついているといいなって思います。なんか具体的な数字を目標にしたらいいのかな。「本気出して それから 三億円貯金できたら あきらめろ」とか?このエレン、好感度低いな。



サポートも嬉しいですが、よかったら単行本を買ってください!