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「ブレイキング・バッド」は史上最高の海外ドラマだった。

海外ドラマ「ブレイキング・バッド」の感想を書かなければいけない。

完結して4年経つので今更過ぎるんですが、先日見始めて半月でシーズン5の最終回まで一気に見てしまった。

ネタバレ無しの感想から書かせて頂くと「最高」です。ぼくは「24」と「プリズン・ブレイク」は全部見て「ロスト」は黒い霧が出てくる辺りまで見たって具合の「海外ドラマ、まぁ見てるっちゃ見てる」程度なので、最高と言っても説得力に欠けるかも知れないが、映画まで広げれば映像作品は結構観てる。

ぼくの映画のベスト1は、今年に入って「ララランド」に塗り変わったばかりなんだけど、それに匹敵するくらいどハマりしてしまったのが「ブレイキング・バッド」です。

シーズン1の予告編で語られる程度の、いっちばんライトなあらすじを書くと

「真面目に生きてきた化学の高校教師ウォルター・ホワイトは、50歳の誕生日を目前にガンを告知される。残された時間で愛する家族へ資産を残したいが、薄利な教師業と洗車のバイトしか手立てが無い。そんな中、元教え子のジェシー・ピンクマンが麻薬(メス)を作っている事を知り、自分の化学の才能があれば良質なメスが作れると考える。」

どうですか?あらすじ、めちゃくちゃ地味じゃないですか?

そして主人公のルックスですが…

どうですか?主人公、めちゃくちゃ地味じゃないですか?

こんなに地味なドラマが、本国アメリカでは圧倒的な人気を誇り、史上最高評価を受けたドラマとしてギネス認定。エミー賞・ゴールデングローブ賞で累計49部門ノミネート・12部門受賞。

この評価は、尋常では無いです。

しかし、しつこい様ですが説明しようとすると途端に地味なパッケージングになってしまうせいか、日本ではぼくも含めて観てる人があまり居ませんでした。少なくとも、ぼくの周りには。そのせいで今、めちゃくちゃ誰かと語りたくてレビューを書いてる次第です。

ネタバレ無しだと、この辺まで。

ここから、ネタバレ満載で書いていきますので、すでに観終えた人か、ネタバレあっても良さそうなら観るよって人だけ読んで下さい。


この記事を書いてる途中で届いた「ブレイキング・バッド」のフィギア。めっちゃいい…。困り顔ジェシー可愛い。

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まず、大枠の話から。この作品はテーマが複数あって、なかなか一つに絞れないのですが、網羅的にバクッと言ってしまえば大テーマは「男」だと感じました。これは、男の物語だと。

ウォルターは、家族に資産を残すためにメス精製に手を染めます。夫として、父として、家族のために。これは劇中でも決まり文句の様に何度も繰り返されます。「私がした事は、全て家族のためだ。」って。

また、かつて共に会社を立ち上げた旧友エリオットに対する感情。当時、目先の金に困ったウォルターは、わずかな退職金と引き換えに一緒に生んだ事業を手放してしまう。そして今や、エリオットは大富豪になり、ウォルターの元カノと結婚している。彼に対して荒ぶる嫉妬、自尊心が劇中でも何度も描かれます。

それに関連して、ウォルターには常に化学者としてのプライドがあるんです。例え社会の悪であるメス精製にだってプライドがある。彼が作るメスは純度が99%以上という最高品質で高値で取引されるのです。彼のレシピを使っても、他の人間では90%以上も難しい。

様々な側面からウォルターの男としての感情が絡み合う事で「ブレイキング・バッド」には一言で言い難い深みがあるのでは無いかと思います。

大テーマが「男」だとすれば、その次の中テーマに「才能」というものがあると思いました。才能を分かりやすく評価する材料に、報酬があります。高値で取引される才能ほど、ある側面では優秀だと言えます。そんな中、ウォルターの才能は最終的に90億円くらいの金を生みます。そこだけ見れば、稀代の大天才でしょう。上場企業の社長でも、めったにそんな稼げない。ただ一つ、彼の才能は犯罪なのです。それが、とても悲しい。

ウォルターは、金に固執します。狂った様に固執する。序盤、葛藤の末に稼いだ大金を自宅のバーベキューセットで焼き払おうと決心するのですが、途中で火を消してしまう。そしてこの作品の特異な点は、大金を実際に使うシーンがほとんど描かれない事です。自分の医療費とか、こっそり大金から払ったりするんですけど、いわゆる「うだつが上がらない男が大金を掴む」系作品のカタルシス「ビックマネーでうっはうは」シーンが、まぁ無い。相棒のジェシーは大金でキャバクラ的な店でワッショイしてるシーンがあるんですけど、ウォルターは本当に無い。

唯一、彼が大金を現物に使ったシーンは息子に車を買い与えるシーンです。最初は中古車を買ってやろうと思うんだけど、愛すべき息子に(このジュニアが、本当に可愛い。めちゃくちゃ良い子)パパ、あれがいいな!とか言われて高級車買っちゃうんですよ。男として、格好良い父親でありたいという。

この車も、結局鬼嫁に見つかって「返して来い」って言われちゃうんですけど。その後のシーンも象徴的で、高級スポーツ車に乗ったウォルターは、ついハメを外しちゃう。いえーい!みたいに、空き地で乗り回してスピンしまくってヒャッハー!状態。劇中で、この時が一番楽しそうだった。そんで溝にはまって、やれやれって。ガソリンに火をつけて爆破しちゃうの。もう、訳わかんないでしょ。オレが実力で稼いだ金だ、どう使おうがオレの勝手だと言わんばかりに。これが、後にも先にも唯一の「散財」だったんじゃないかと思うと、やっぱり切ないんです。

ウォルターは、麻薬取引をする際にハイゼンベルクという偽名を使います。これが一人歩きし謎の麻薬王ハイゼンベルクの偶像が出来上がって行くのですが、実際ウォルターがこれに葛藤するかと言うと、もうどんどんハイゼンベルクになっていく。シーズン4あたりにはすっかり、正真正銘の悪人です。もう、大悪人であると断言できてしまうレベルの所業をしまくる。いわゆる、痛快な悪の格好良さとも違います。アルカポネって格好良いよね、とは違う。マジの悪魔って感じですよ。シーズン4あたりから視聴者も分かります。ああ、もうこの物語にハッピーエンドは無いんだと。行く所まで行って、そして破滅して終わるんだろうと。

こう言うと暗い奴だと思われるでしょうけど、ぼくは主人公が過ちを犯して、それを突っ走って最高速度で破滅して終わる映画が大好きです。「アメリカンサイコ」とか「ギャングスターナンバーワン」とか。後悔してうじうじしない、もうオレはこうとしか生きられないんだって言う、ジョジョの悪役みたいな強さがある。好きな悪役を聞かれたら、今後は吉良吉影とハイゼンベルクだと答える。そういった、暴走破滅型の悪人です。

「ブレイキング・バッド」の大きな魅力に映像があります。カット割や音楽といった演出。コンテを見てみたいと思わせる練りこまれた展開。こんな事を言うのはおこがましいですが、この作品はちょっと難しい作品です。演出が通って言うか、これで視聴者は分かるのか?って思う線をなでる感じ。アメリカで大人気だったので、ちゃんと伝わってると思うんですが、一歩間違えば難解だと思われかねない線に触れてる。考察サイトがたくさんあるのも分かります。なぜ、このシーンでこの曲が流れていたのか?とかね。この軽く突き放す感じも、めちゃくちゃ良いんです。日本のドラマも、もう少しリテラシー高めても良いって心底思いますよ。本当に。

映像無しで映像について語るのもしんどいので、一点だけ脱帽した演出の話を。「ブレイキング・バッド」には、幾度となく時系列が交錯するシーンが登場します。シーズン1の1話目、記念すべき最初のシーンは「荒野の真ん中でパンツ一丁で逃げるシーン」から始まります。これが、1話のラストシーンに繋がるわけです。シーズン2の1話目は「街で大きな事故があった」というシーンから始まります。こっちは、シーズン2のラストシーンに繋がる。つまり、「どうしてこうなった!?」を先に出してくる系です。こういうの映像の中であんまりやっちゃうと、また難しくなりがちなんですが「ブレイキング・バッド」は、タイトルロゴが出る前に、この手のシーンを持ってきています。「どうしてこうなった?はい、それでは本編です。」ってな具合に、ルールになっている。これって、すごく巧妙ですよね。

キャラクターの立て方も異常に上手い。主役級のメンバーは言わずもがなですが、どんなに悪い事をしても主人公であり続けられるウォルターへのヘイトコントロールも異常だし、最後の最後まで幸せになって欲しいってガチで思わせる愛すべき相棒のジェシー、麻薬捜査官(DEA)の義弟ハンクは理想のヒーローだし、ムカつくけど味方になってる間は心強い鬼嫁スカイラーも大好き。それ以外の脇を固める個性豊かなキャラ達も素晴らしい。ジェシーの連れのバカ二人組は最終回まで最高だし、ラスボス(途中で死ぬけど、ぼくはラスボスだと思ってる)ガス・フリングはアメリカドラマ史上最高の悪役とも言われてる。ガスの例のシーン「ウォーキング・デッド」の特殊メイクチームがやっているそうです。

それ以外、事実上のラスボス?最後に倒すあいつら。やっぱり一番危ないのは、ああいう計算の外で動くチンピラなんだよなって妙な納得感もある。ガスにはウォルターと同様の歪んだ正義があったけど、あいつらは脳筋って感じで逆に怖い。ガスも怖いけど、脳筋も怖い。そんでまた、薬品を横流しする女がムカつくんですよね!ここで強調してお伝えしたいのが、この「ブレイキング・バッド」ファイナルシーズンの敵は、チンピラとムカつく女だという事です。それ以前の、麻薬王ガスとは全く違う。少年漫画だったら、第1話の捨て駒でやられそうなチンピラが実際のラスボス。髪型もグリースベタベタのオールバックみたいな奴らですよ。日本で言ったら、きっとリーゼントみたいな世代遅れの輩。実際、劇中でも「最近の若者はヤワだぜ、ぶん殴って男らしさを教えてやりてぇ」みたいに言ってる。こういう細かいセリフがキャラを立てるんです。ムカつく女も(ムカつくけど、何かエロい。劇中でもチンピラの甥が惚れちゃうし)キャラの立て方が凄くて、色々ズレてる温室育ちのお嬢なんですよ。ちょっと自分の身が危ないと思ったら10人くらい裏切りそうな奴を殺して!とか騒ぎ出すし、プロの殺し屋ですら「映画の見過ぎだ」と呆れる。こういった、細かなやりとりで「あー、こいつの思想は危ないぞ」と、これまでの悪役とは別ベクトルの恐怖を視聴者に与える。うますぎる。

さっきから何度か言っている「ラスボス」についてですが、ラスボスは最後の敵って意味ですけど、ニュアンスとしては最大の敵という意味合いも大きいですよね。それで言うと、ぼくはラスボスが途中で倒される方がリアルだと思ってます。るろうに剣心の志々雄真実とか、まさにそれで。最強で最大の敵は途中で倒してしまう。そのあとに、最後の敵・縁が出てくるわけですが、強さで言ったら縁は志々雄真実以上って事は無いはずです。ただ、剣心との相性や因縁から、もっとも厄介な敵になります。こうなってくると、剣心は自分と戦わないといけない。つまり、最大の敵を倒した後に、自分と対峙しなくてはいけない状況になって物語が結末に向かうという。これは「ブレイキング・バッド」も同じです。正直、ガスを倒したシーンは痛快以外の何者でも無かった。追い詰められ、あんな巨大な悪に勝てるわけ無い。でもウォルター頑張る、めっちゃ頑張る。かつての敵も味方につけて賭けに出る。その賭けに…勝った!どかーん!ですよ。もう、最高。あれが放送された日、アメリカでは大騒ぎだったはずです。全米でハイファイブしまくりだったはず。でも、そこから暗雲がね。え…ウォルター、マジなん?マジで子ども利用してたん…?ちょ…。っていう。そこからが、ファイナルへ大きく舵を切る流れです。

やばいな、ちょっと永遠に書き続けてしまうので、一旦終わります。誰か「ブレイキング・バッド」大好きな人が居たら飲みに行きましょう。



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