見出し画像

テキサン(テキサス州民)に対する誤解:法の遵守

メディアによる印象操作

ロックダウンは早々に解除してしまうし、マスク着用やワクチンの義務化を禁止するしで、パンデミックという緊急時を理解せずに自由を謳歌しようとする、頭を使わない無法者たち−―これがアメリカのメインストリームメディアの作り出そうとしているテキサンのイメージ。

確かにテキサスでの感染者数は、5月に落ち着いた後、7月から爆増しているのは事実です。しかし、これはアメリカ全土で言えること。ワクチン接種率は確かに低いが、この議論についてはいろいろ思うことがあり、別立てで検証中です。

一方、日本のメディアではどうかと言うと、いつもの如く、アメリカのメディアに追従するだけの報道を行っています。翻訳するだけだったら、海外支局を置く意味ってあるの?と嫌味の1つも言いたくなります。テキサスについて語るなら、まずテキサンを知ってから語ってほしいと切に思います。

不正選挙とアメリカ人の法の遵守の問題


テキサス州が日本のメディアでも頻繁に登場するようになったのは、昨年の大統領選挙でのゴタゴタがあってからではないでしょうか。選挙の不正が州レベルで行われていると言う疑いのある州を、テキサスをはじめとする州が連邦最高裁判所に訴えましたが、これに対して、日本の有識者の中には“内政干渉”だの“ロー&オーダー(法による秩序)”を理解していないだの、不正選挙がなかった前提で、諦めの悪いトランプ大統領を支持する共和党州の茶番劇のようなコメントをしていました。

選挙中に不正行為はありました。タイムリーに選挙を見ていた人の多くがおかしなことを目撃しています。いまだに明らかになっていないのは、どの党に対して、どのくらいの規模で行われたかということです。これを調べるための監査が現在も続けられています。この監査での証明が終了しない限り、正式には不正選挙があったということはできませんが、今年6月の世論調査(モンマス大学世論調査研究所)では、”アメリカ人の3分の1が“不正選挙がなければバイデン は大統領になれなかった(Joe Biden won the presidency only due to voter fraud)と回答しています。単なる“不正選挙があった”ではなく、結果に影響を与えるレベルでの大規模な不正選挙があったと信じている国民が3分の1です。軽くない結果です。

この調査全体としては、監査に反対し、不正選挙よりも便利な選挙を国民は望んでいるという形でまとめられていますが、個別の数字を見ていくと、いろいろ気になる点があります。例えば「バイデンを大統領として受け入れることはない」と回答した米国民の14%の内訳として、共和党員および共和党寄りの人は29%しかいなかったということです。言い換えると、バイデン を大統領と受け入れない人の7割は、共和党以外の人。

次は同調査について報じたフォーブスからの引用です。

A further 32% believe voter fraud is a “minor problem,” however—adding up to 69% of respondents in total who are somehow concerned about voter fraud, despite it being exceedingly rare—and only 29% say it is not a problem at all, versus 76% who are at least somewhat concerned about voter disenfranchisement. 32%が不正投票は「小さな問題」だと考えており、不正投票に何らかの懸念を抱いている回答者は全体の69%に達した。また、「まったく問題ではない」と答えたのは29%で、有権者の権利が奪われることに少なくとも何らかの懸念を抱いているのは76%だった。

“不正選挙”を“万引き”に置き換えてみると、今のアメリカの社会問題が浮き彫りになります。

万引きについての懸念を抱いている回答者は全体の69%に達したが、万引きが「小さな問題」(32%)または「全く問題ない」(29%)と回答した人は、合計61%。

正確な数字は分かりませんが、カリフォルニア州の都市では、住民投票により950ドル(10万円)以下の万引きは微罪扱いとなりました。その結果、白昼堂々と商品をカバンに詰め込んでも警備員が捕まえないような万引き天国になっています。「経営が成り立たない」と撤退を余儀なくされた大型チェーン店もありますが、「他で儲けているのだからいいじゃないか!(撤退されると困る)」なんて声が上がっているようです。

“不正選挙”も“万引き”も共に違法行為です。不正選挙を許す結果は見えにくいものかもしれませんが、万引きを許した結果と同じような悪影響は受けるはずです。それでも住民が投票によって決めたことですから、悪影響を企業に負担させるのではなく、その結果についても住民が責任を負うべきです。アンティファやB L Mの破壊行為や暴力行為も、仕方のないこととして容認している州もありましたが、法の遵守よりも優先される“何か”があるのだと思います。

カリフォルニア州民をフォロー?するならば、この決定は、多くの州民が望んだ結果ではない可能性もなくはない・・・かもしれません。先日のリコールを受けた知事選挙でも、開票前から、選挙に不正があったと抗議する州民がいました。投票に行くと、自分はすでに投票したことになっていたという声が多数あるというのです。先程の世論調査でも、”80% のアメリカがVoter ID Rules(投票時にIDカードの表示を必須とする)に賛成している”。不正選挙をあまり重視しない人が6割いる中で、不正対策に賛成が80%というのは少し不思議な気もしますが。I Dの表示に反対する人たちは、人権を理由に上げています。そう思うのであれば、航空各社のこともぜひ訴えてほしいものです(アメリカでは国内線でも搭乗前のIDチェックが必須です)。

テキサンと法の遵守

テキサスで選挙不正がなかったわけではありません。逮捕された人もいます。中には4年前の選挙で執行猶予中に投票したこと(禁止行為)で、昨年、収監されることになった人もいました。「ママが選挙に行ってきた方がいいよって言ったから、行っただけなのに、小さな子どもと離されて、収監されるなんて!」と、その女性は泣きながら訴えていましたが、それこそ“ロー&オーダー”です。ただ、同じ違法行為を行なったにもかかわらず、テキサスでは逮捕され、他の州では罪を問われないどころか、自分がまるで英雄であるみたいな投稿を行っても見逃してもらえる・・・そんな連邦政府で良いのですか?

テキサスは確かに共和党が強い州ですが、例えば、オースティンみたいなヤッピーが集まる都市では、バイデン を超えて、“サンダース(極左)を応援します!”というステッカーを貼っているお店があるくらい青色(民主党)の都市もあります。そないろいろな支持者がいる中で、ルールに基づいて投票した結果、テキサス州としてはトランプに票を入れるということが決まったのです。アメリカの大統領選挙の方法はややこしく、民意が反映されにくいという批判もあります。ただ、現状はこのルールで行うことになっているのですから、“そこに疑問があるから、不正行為を行った”なんてことはただの違法行為。正式な手続きを経て変更するべきです。ルールを守らない州の人たちの意見がルールを守った州の意見よりも優先されるのは、法の下の平等を約束している連邦政府としてどうなのですか?

結果はどうだったか?といえば、原告適格の欠如を理由に、最高裁は審議しないことを決めました。しかし、この決定により“不正はなかったと最高裁が認めた”ということではないですし、テキサス州が“トランプ劇場”を仕掛けたわけでもありません。日米の両メディアはこのような印象操作をしているように思えてなりません。では実際のテキサンはどういう人なのか?歴史を知ると、なぜテキサンがそのような行動をとるのか、いろいろ納得できます。

テキサス州の始まり

不正選挙騒動の際に、テキサス州が独立するのではないか?という話題が出ました。今のテキサスを語る上で、欠かせないことは、テキサスは共和国として10年間(1836年~1845年)は独立国であったということ。“アメリカに加入”した際のプロセスについても他州とは異なります。

テキサス州はもともと3年間のフランス統治を経た後、スペイン領になり、1821年にメキシコがスペインから独立した際、テキサスもメキシコ領となります。この頃のテキサスは先住民が暮らす土地で、メキシコ人はほとんど住んでおらず、メキシコ政府と入植ブローカーのスティーブン・オースティンとの合意により、約300世帯のアメリカ人の入植者が行われました。これがテキサスの始まりです。入植の条件の中には、スペイン語の使用、カトリックの信仰、メキシコの法の遵守等がありました。

“スペイン語”“キリスト教”“法の遵守“の3つは、現在のテキサスの特徴を表しているものです。スペイン語話者は3割程度で、学校や政府資料、病院のアナウンス等公共性の高いものは英語とスペイン語のバイリンガルになっています。また、州民の9割がキリスト教徒で、街のあちらこちらに大小様々な教会を見ることができるというのも、テキサスの大きな特徴の1つ。

一方、”法の遵守“は、テキサスの独立に深く関係しています。1835年、メキシコ大統領のアントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナは、憲法を廃止して、メキシコ・シティに国家権力を集中させようとしました。法の遵守というと、市民が守らなくてはいけないルールのような印象がありますが、私が理解するテキサンにとっての法の遵守は、政府と市民がお互いの契約を守るということです。法によって生活や自由が守られるという感覚です。元々人々が暮らしていた場所が国になり、十六条憲法を定め、それを守っていくことで良い国にしようとした日本に対し、憲法(入植時の契約)に合意して移り住み、国民となったテキサスとで、憲法に対する意識は異なって当然かと思います。

テキサンの政府に対する不信感を高めた原因の1つに、武装の強制縮小が入っていることも、“自分の身は自分で守る”という今のテキサスの特徴にもつながっている気がします。様々な不信感が高まり、起こったのがテキサス独立戦争であり、1836年にテキサス共和国が成立しました。この時の独立精神の象徴となるのがアラモの戦い(アラモの砦)であり、テキサスでは“リメンバー・アラモ(アラモのことを忘れるな)”という言葉があります。ちなみに、アラモの砦はサンアントニオにあります。トランプ大統領がスピーチを行い話題になったアラモは、国境付近の街であり、アラモの戦いとは直接関係はなく、住民投票で決まった街の名であるそうです。


テキサス、合衆国の州になる

独立したテキサスには1つの大きな問題がありました。それは巨額の借金です。米国加入の大きな動機となったのは、アメリカによる借金の肩代わりです。その代償として、領土が連邦政府に割譲されることになりました。加入と同時に制定されたテキサス州の憲法の中では、奴隷制度が容認されていました。実はこの点で、当初、合衆国サイドでは、奴隷制度を容認する南部の勢いが強まることを懸念し、テキサスの加入への難色を示していたそうですが、様々な政治的な理由から、最終的には加入が認められました。

この時の加入の条件に曖昧さが残ったことが、後の南部戦争やたびたび起こる“テキサスは独立できる唯一の州である論争”の原因になっています。ここからの歴史は一気に流すには大きすぎるものですので、追々ご紹介させていただけたらなと思います。


テキサンを構成するもの

アメリカの国内問題を理解する上で重要な視点は、アメリカが州の集合体である“合衆国”であるということです。イギリス植民地からの独立という経緯もあり、連邦政府が力を持ちすぎることに、警戒しているようなところがあります。

その中でもテキサスは、自分たちは独立国だったのだという自負があります。バイデン 政権の政策に尽く反抗しているように見えるテキサス州ですが、そのベースには、「法に守られた自分たちの生活、自由を脅かすような連邦政府ならば、いつでも独立してやる」というメキシコからの独立時とは変わらないものが流れている気がします。

テキサスが“テキサス”となっていく過程で、テキサンが要求したこと、そして容認したことは、今のテキサスを特徴付ける要素になっています。次回以降、その構成要素の1つずつを深掘りしていきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?