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インドで絶対にインド人を信用するなってインド人が言ってた~インド旅行記7:裏切りのゴア

2010年11月7日
宿を出て少し歩く。頭上に青空、右手に緑、左手に緑の大き目の通り道。足元は小石混じりの土。
すぐ出くわしたのは日本のいわゆる「駄菓子屋」の風貌の店で、入るとまずガラス貼りの冷蔵庫に目が行った。
「この海に近い場所で…電気で常時冷やしているだと…そんな優しい…そんな事もできるのか…」
感動しながら一リットルの水のペットボトルを掴む。
ぬるいね。
もしくはぬくい。
このちょうど人肌の温度設定、君は胃には優しい。胃にだけ。
存在意義の危うい、危ういというかもう完全に失っている冷蔵庫の前に佇みながら、さあぬるい水のお値段は。
ムンバイでは水1リットルは12ルピーだった。
ここゴアでは水1リットル(ぬるい)は50ルピー。ムンバイのおよそ4倍である。
コーラ350ミリリットル(ぬるい)が15ルピー。
街で150円の自販機飲料が温泉などでは200円等になっているやつね?
とりあえずぬるいリゾート価格の水を買って出た。
私は新陳代謝が良いのか多汗症なのか健康なのか不健康なのか、非常に汗が出やすく、また汗がでなくても水をこまめに摂る方だ。摂りたい。喉の渇きを感じやすい。
とりあえず水が飲めたら何とかなる、まずは水を確保しないと落ち着かない節がある。
少し先にもう一つ店が、店というかなんか道にテーブルを出してその上に何かが置いてあるのが見えていた。
行ってみると、ゴロゴロ無造作に置いてあるそれらは野菜か果物に見えた。
いや、果物だ。
南国=果物だ。海=果物だ。
野菜かもしれないけどきっと果物だ!
イチゴだって本当は野菜とかいうけど果物でもあって八百屋に置いてあって、ここにあるのはイチゴじゃなくて赤くないけど、丸くて赤黒いけど、つまりは意味的にイチゴだよこれは!
人間とは自分に都合良く考えてしまうものである。
私の脳内で既に目の前の物は果物であり、イチゴであり、見た目的にイチゴでないとしてもマンゴスチンな気がしていた。
だってマンゴスチンに似ているのだ。これらはとてもマンゴスチンに似ているのだ。
私はその時、すごくマンゴスチンが食べたかったのだ。
「これはマンゴスチンかもしれない」
疑いが、可能性が光っていた。

マンゴスチンの疑いのあるそれらを食い入るように見ていた私はこの剥き出しの露店の男に初めて顔を向け尋ねた。
「これはマンゴスチンですか?」
「ィエース!そうだよ!」
若干顎をしゃくれさせてのィエース、満面の笑みだった。
「ほんとに?」
「ィエス!」
ィエース!!!!!!
マンゴスチンを三個買って、スキップで宿に戻った。

部屋ではたと気づく。このマンゴスチン、硬い。
採ってから時間が経つと硬くはなるらしいが。
商魂の逞しさを感じさせる男の前で、あれこれ触って選ぶと、「触った奴全部買え」と言われるパターンを怖がってしまった自分の失態だ。
3つ買ったんだし一つぐらい触れば、選べばよかった。
バカバカ!用心深くするのにも限度があるよ!
それにしても固い。
爪が刺さらない。私は皮に齧りついた。
苦くて渋い汁が口に広がる。
齧り口を見ると窪みから白い汁が滲んでいた。
おかしい…マンゴスチンてこんな白い汁出たっけ…インドのマンゴスチンだからかな… マンゴスチンだって育ってきた環境が違ったら仕方ないよね…
この時に何故、宿に尋ねるか、ナイフを借りるかしなかったのか謎であるが
ともかく私は、インドのゴアの安宿の一室で一人、チンパンジーの如く、親の仇の如く一心不乱にマンゴスチンを地面に叩き付けたり部屋の角に打ち付けたりし続けた。
ダメージを与え続けること数十分、ようやく割ることができた。
私のマンゴスチン、感動の対面である。
そこでわかったことがある。
私のマンゴスチンの中身は全面が白くて、言うならばジャガイモに良く似た、白くて苦くて渋い汁を出す何かだった。
マンゴスチンじゃない。絶対に。
マンゴスチンでは無かった。
そんなものは無かったのだ初めから。
ここにあるのは白くて渋い汁を出す食べられないものだ。
今私は得体の知れない、食べられないものを3個所有しているだけだった。
滑稽すぎる。
一連の流れ、その間の自分の姿、しれっとした露店の男、勝手にマンゴスチンの希望をみられ結果失望されているマンゴスチンでは無い何か。
思わず笑いが込み上げてきて手が白く渋い汁にまみれたまま声を出して笑った。
ひとしきり笑うとやるせなさに襲われた。
もういい…だって露店の男はイエスって言ったもん…
2回もイエスってさ…
冷蔵庫の水はぬるくて、マンゴスチンだっていう果物を買ったらマンゴスチンじゃない。
インドに来てからだいたいままならない。思いはままならない。
何も信じられない。この世は裏切りに溢れている。
裏切られると疲れる。
もう何もやる気が出ない。
今日はシャワーを浴びて寝る。今日は信じる気力がもう湧かない。
そうしてこの日はふて寝で終わった。
マンゴスチン、食べたかった。

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