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僕はこれから、トンコハウス最新作『ONI』の感想を書こうとしている。

すぐにでも筆は進むだろうし、ONIを見ながら一晩中語り明かすこともできるだろう。

が、筆を進めたくない。


僕は21歳のアーティスト。
いや、そんな高貴なものではない。

"絵を描く人"とでもいっておく。

絵を描く人の、そしてものづくりに携わる者のはしくれとして、たとえそれがポジティブだったとしても作品に対して感想を言うことにとても慎重になってしまう。

どんな作品であれ、作品を完成させることの難しさを知ってしまったからだと思う。

ONIも相当な数の人の努力の結晶だと思うし、映画を作った人の顔まで思い浮かべられる。

だから、まずは、
「こんなに素敵な作品を作ってくれて、本当にありがとうございます。」
と言いたい。

自分は想像もできないような苦労と努力と血と汗と涙と、その他色んなものが詰まった『ONI』という作品の感想を、これから書かせていただくことに対して、申し訳ない気持ちもありながらも、

1人でもこの感想を読んで、『ONI』を観てみたい!と思ってくれる人がいればいいなと思いながら、
そして、この映画に携わった方々へ対する最大限のリスペクトと感謝と自分なりの誠意を込めて、本気で感想を書いていこうと思う。




僕は、
ファンタジーとは"誰も悲しませない大きな嘘をつくこと"だと思っている。

世の中で唯一、ついてもいい嘘とも言えるかもしれない。

だからこそ、ファンタジーを作る上では小さな嘘はついてはいけない。

その意味で、『ONI』はカラーを含めたプロダクションデザインに小さな嘘がない。

ONIの主な舞台は屋久島だと思うが、屋久島には手付かずの自然がいたるところに残っている。

残っているというより、屋久島という場所はその他の地域と違い、人間が少しだけ場所を借りているという感覚に近い。

以前、北海道知床に行った際に「こんなにも美しい、いや、美しいという言葉すらもも安っぽく聞こえてしまうほどの自然を、自分は絵に収めていいのだろうか。」という気持ちになったことがある。

その意味で、ONIのプロダクションデザインには自然への尊敬が感じられた。

そして、ファンタジーという大きな嘘にリアリティを出すために、小さな嘘をつかないという覚悟があった。

日本にはまだ、こんなに素晴らしい景色があって、それを美しいと思える心が日本人にあること。

それは、手放しに喜んで良いことだと思わせてくれる映画だった。


レイアウトに関しても、触れずにはいられない。

レイアウトとは画面構成のことだが、ONIはレイアウトが素晴らしい。

試しに映画の途中、てきとうなところで停止ボタンを押してみてほしいのだが、どこで止めても絵になる。

本来、映像作品はいくつものカット(ショット)が連なってシーンになり、"観客が観るのはシーン"ということを前提として作られている。

しかし、『ONI』はどのカットも素晴らしい。

おそらく、これはリミテッドアニメーションのメリットが存分に活かされているように思う。

通常は1秒間に24カット(コマ)の絵をつなげてアニメーションを作るが、そのカット数を減らして作ったものを"リミテッドアニメーション"という。

カット数が少ないということは予算削減にもつながるし、作業量も減って楽じゃん〜!!と思ってしまいがちだが、むしろこの方が大変かもしれない。

カット数が少ないということは、捨てカットがないということでもある。

つまり、一つ一つのカットの重要度が増すということだ。

となると、一つ一つのカットをより丁寧に作ることになり、それが結果的に「レイアウトが良い!!!」と自分が感じた理由だと思う。


そして、『ONI』のストーリーとテーマ。
何度も言っているがファンタジーとは、"誰も悲しませない大きな嘘をつくこと"である。

寝ている間におもちゃが動くのだって、ネズミがシェフになるのだって、怖がらせ屋モンスターの会社だって、こうやって聞くとバカバカしく聞こえる。

でも、それが映画となって、先ほど言ったようなプロダクションデザインやカラー、レイアウトなどあらゆる工程に命を削ると、そのバカバカしいテーマがある種の前振りとなって、より輝く。

その意味で、
監督の堤さんの"日本人でありながら、アメリカに長く住んでいて感じた疑問や葛藤"というテーマは、
神の世界ともう一つの世界、そのお互いが抽象概念として持つよそ者"ONI"でしか表現できなかった。

だからこそ、ストーリーにリアリティがあったんだと思う。




ここまで、色々書いてしまいましたが、この映画を見て最初に感じたこと、1番強く心に残っていることは"悔しさ"です。

正直、悔しさでいても立ってもいられなかった。
それくらい、純粋に楽しめる大好きな映画だった。

既に何度かこの映画を見ていますが、最初に見た時は「こんなことをしていられない、絵を描かなきゃ。」という衝動に駆られ、映画を見ながら絵を描いていた。

こんなに素晴らしい作品に絵を描く人として携われなかったこと。
今の自分には感想を述べることしかできないこと。

そういったことの全てが込み上げてきて、悔しかった。

と同時に、トンコハウスの堤さんや松木さんやマサさんやよーへいさんの顔を思い浮かべて、「この映画と出逢わせてくれて、本当に本当にありがとうございます。」という気持ちでいっぱいだった。

自分もいつか、こんなに魂の籠った作品を作れるように、もっともっと絵を描く。

それ以外の全て手に入れることができなくても構わないから、作品を作るために絵を上手くなりたいと思う。


そして最後に、
『ONI』に携わった全ての方々に心からの感謝と、お疲れ様でしたという言葉を述べて終わりにします。

真に子どもが楽しめる映画で、だからこそ大人が真っ向から観ても耐えうる、期待を遥かに上回る映画でした。

こんなに素敵な作品に出合わせてくれて、ありがとうございました!!!!!

いつか皆さんと肩を並べて仕事ができることを夢見て頑張ります。

                   小泉 範剛

トンコハウス最新作『ONI〜神々山のおなり』
視聴は Netflixから⚡️
https://www.netflix.com/jp/title/81028343

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