M-1グランプリ2023ファイナリスト決定。最下位候補はゼロ。メンバーの充実ぶりは史上最高かもしれない

 M-1グランプリ2023は先日、準決勝が終了。例年より組数が増えたその激戦を勝ち上がったファイナリスト9組が出揃った。顔ぶれは以下の通りだ。

 真空ジェシカ、令和ロマン、ダンビラムーチョ、くらげ、モグライダー、ヤーレンズ、マユリカ、さや香、カベポスター。

 今回準決勝をライブビューイングで観戦した筆者がまず言えることは、この結果は極めて妥当だということだ。上記の9組のなかにその選出に対して疑問を抱くようなコンビは1組もいない。言い換えれば、非常に納得度の高い審査だった、となる。

 準決勝終了からTVerでファイナリストの発表が配信されるまでおよそ2時間くらいの時間があったが、その間、ひとりのファンとして筆者も一応ファイナリストの予想をしていた。的中したのは9組中7組。過去にも何度かこうした予想を行ってきたが、今回が自分史上最も的中率が高かった。これまではよくてもせいぜい半分くらいだったものだが、これほど当たるとは正直自分でも少し驚いた。
 とはいえ、これはなにも筆者だけに限ったことではないと思わず言いたくなる。おそらく準決勝を視聴した多くの人が、今回のファイナリストをそれなりに予想することができたのではないか。候補者を挙げることがある程度までは容易だったと言い換えてもいい。筆者がファイナリスト発表直前のSNSをざっと見た限りでは、そのほとんどで似たような組み合わせの名前が並んでいた。今回準決勝でネタを披露したのは全31組だが、終了直後のファイナリスト予想で名前が挙がっていたのは大体その半分、16〜17組にほぼ限られていたからだ。その枠に入っていないコンビの名前を挙げる人はごく僅か。多くの人の予想のほぼ半分(4〜5組)は概ね当たっていたとはこちらの印象である。

 例えば、(準決勝を視聴した人で)今回のファイナリスト予想にオズワルドの名前を挙げていた人は、筆者が見た限りではおそらく1人もいなかった。また、ロングコートダディも同様に、その名前は全くと言っていいほどファンの予想する候補者リストで目にすることはなかった。だがそれは、当然と言えば当然。ファイナリスト常連でなおかつ今回も優勝候補と見られていた上記の2組だが、そのネタの出来はどう贔屓目に見てもよくない、下から数えた方が早い内容だったことは明らかだった。準決勝を見ていない人からすればその落選は驚きに値したかもしれないが、実際にネタを見た人からすれば、至極妥当な結果と言えた。

 先述のオズワルドやロングコートダディのように、出来がいまひとつだったり、ウケが弱かったりしたコンビは今回とてもわかりやすかった。その理由は簡単だ。及第点以上というか、それなりに面白いコンビがとても多かったからに他ならない。すなわち決勝に進出してもおかしくないと感じさせたコンビが、少なくともファイナリストの枠を上回る16組くらいは確実にいた。あくまでも僕個人の感想だが、その16組前後に入れなかったと思しきコンビは今回確実に落とされている。つまり多くの人がその上位16組程度のなかから9組を予想して名前を挙げているので、その分的中率が高かったというわけだ。

 今回選ばれたファイナリスト9組は、当然のことながら、準決勝で上位16組には入っていると思しき内容のネタを披露したコンビになる。だが、その上位の中でさらに細かい順位をつけることは少し難しいところだ。今回選ばれたコンビは皆ファイナリストに相応しいと思うが、この9組以外にもファイナリストに選ばれていてもおかしくないコンビが、少なくとも5組以上は確実にいたと思う。準決勝全体の上位と下位はわかりやすかったが、上位の間はほんの僅かの差。少なくとも僕はそう思っている。

 今回も当然ながら紙一重の差で選ばれなかったコンビ、その反対にギリギリで選ばれたというコンビはいたことだろう。だがそれでも「これは絶対に外せない」、「このコンビの不合格はありえない」という、他を圧倒するようなネタを披露したコンビももちろんいた。それはどのコンビかと言えば、僕的には真空ジェシカが1番になる。ネタを見終わった直後、その決勝進出を100%確信したコンビ。言い換えれば、今回の準決勝で最も面白かったコンビとなる。ネタは準々決勝と同じものだったが、調子が良かったのか、この準決勝のほうがより面白く見えたことは確かだ。決勝であれば95,96点は付けたくなる出来栄えだったとは率直な感想になる。一躍今回の優勝候補に躍り出たとはこちらの見立てだ。

 もう1組、決勝進出が確実そうに見えたのも、真空ジェシカと同じく決勝進出経験のある非吉本系のコンビになる。2021年以来、2年ぶりにファイナリストに返り咲いたモグライダー。ネタはこちらの期待した通り、準々決勝で見せた例のものだったが、筆者が目にするのが2度目だったからなのか、出来はそこまで良い感じには見えなかった。準々決勝で披露したときのほうが良かったように思えたが、それでも初めて目にする人であれば、あのネタにおそらく相当なインパクトを受けるはず。実際、筆者が観戦していたライブビューイングでもネタの最後のボケでかなりの大きな笑いが起こっていた。おそらく決勝でもこのネタを拝むことができると見てまず間違いないだろう。

 真空ジェシカ、モグライダー。この2組は今回の準決勝上位組の中でも特に外せないコンビだったと思われる。その他では、個人的にはヤーレンズもその次点辺りに位置していたと考える。早い話、どう贔屓目に見ても落選はないと予想したコンビだ。
 結果論を承知で言えば、今回選ばれた9組のファイナリストは、個人的にほぼ完璧に近い人選に見えてくる。よくここまで優れた審査ができたものだと思わず感心したくなるほどだ。もちろんトム・ブラウンとかシシガシラとか、あるいはナイチンゲールダンスとか、他にも決勝で見たかったコンビはたくさんいるが、それでもこの9組が今回のベストラインナップではないかとは率直な印象だ。突出したコンビはいないかもしれないが、ファイナリストの平均レベルは過去最高だと迷わず断言できる。

 前回のM-1グランプリ2022決勝戦。ウエストランドが優勝を飾った一方で、最下位(10位)に沈んだのは、ファーストラウンド7番目に登場した吉本興業のダイヤモンドだった。
 7番は言ってみれば誰もが望む最高の出順だ。「言い訳」が一切通じない順番と言い換えてもいい。そんな幸運を活かせずダイヤモンドは最下位となってしまったわけだが、こう言ってはなんだが、僕にはその結果がなんとなくだが決勝前から読めていた。前回の決勝進出者のなかではただ1組、その選出に疑問を覚えていたコンビだったからに他ならない。「ダイヤモンドだけは唯一(力が)やや落ちる」とは、前回の決勝前にこの欄で記したこちらの原稿になる。だが今回はそうした前回大会のダイヤモンドのような存在が見当たらない。“ランジャタイ”もいない。優勝コンビはもちろん、最下位に沈みそうなコンビの見当も正直全くつかない状態にある。

 誰が勝ってもおかしくない。敗者復活組を含む、全組に優勝の可能性あり。お世辞抜きでそう思う。このファイナリスト9組の顔ぶれをひと言でいえば「堅い」、あまりにも堅すぎる。今回、決勝戦初出場は5組いるが、筆者の知る限り、そのいずれもが少なくとも2年以上前からすでに実力がある程度知れ渡っていたコンビになる。まさに満を持しての決勝進出。その期待値は通常の初出場組よりいやが上にも高くなる。

 敗者復活戦のルールが大幅に変更された今回は、(前回のオズワルドのような)ファイナリスト経験のある人気コンビがすんなり選ばれる可能性はおそらくこれまでより断然低くなるのではないか。近年目立った活躍ができていない10組目(敗者復活枠)にも大いにチャンスありとはこちらの見立てだ。

 繰り返すが、決勝でのウケがよくなさそうな、最下位に沈みそうな不安が漂うコンビは今回ゼロ。このなかから9位や10位になるコンビが本当に現れるのかと、そんな無駄なことを考えてしまうくらい粒は揃っている。メンバーの充実ぶりはおそらく史上最高ではないかと、思わず言いたくなるほどだ。

 今後の大会に影響を与えるような、時代を変えるコンビははたして今回も現れるのか。決勝戦が待ち遠しい限りだ。

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