M-1グランプリ2023準決勝直前。31組の印象を述べてみる

 いよいよ明日に迫ったM-1グランプリ2023準決勝。今回は3年ぶりに全国各地のイオンシネマでライブビューイングが行われる。地方在住のお笑い好きにとってはありがたい限りだ。過去2大会はいずれも有料配信で目にしてきたこの準決勝だが、周りの観客と一緒に鑑賞することができるこの映画館でのライブビューイングは、当たり前だが配信とは全然違う。独特の緊張感、臨場感を味わうことができる。筆者も今回3年ぶりに最寄のイオンシネマで観戦予定だが、その前に、今回準決勝に進出した31組の印象を述べておきたい。
(準々決勝大阪予選を通過したコンビの多くはあまり知らないので詳しく述べることできなかったが、その辺りはどうかご了承いただきたい)。

 コンビ名 (所属事務所)[準決勝出場回数]

・真空ジェシカ(プロダクション人力舎)[3年連続3回目]

 準決勝は今回で3年連続の出場。しかも一昨年(2021年)、昨年(2022年)と現在2年続けて決勝にストレートで進出している、言わずと知れた実力派コンビ。比較的知名度が低いグループが多い今回の準決勝のなかでは、確実に強者の部類に入る。
 準々決勝ではなによりその勝ち上がり方に安定感があった。真空ジェシカが出場した準々決勝2日目(@東京)、出場した38組のうち通過した(準決勝に進出できた)のは僅か7組という狭き門だったにもかかわらず、彼らはいとも簡単に突破してみせた。自信が漲った堂々とした姿といい、このレベルの舞台ではすでにある種の風格すら漂っているようにも見えた。
 肝心のネタのクオリティも、毎年少しずつではあるが確実に上がっている。3年連続決勝進出の可能性は45%。

・フースーヤ(吉本興業 大阪)[初出場]

 準決勝進出は今回が初だが、その名前は少なくとも数年前からそれなりには知られていた。いまから約6年前(2017年)にはロンドンハーツやアメトーークといった全国区の人気番組に、いわゆる“期待の若手”として出演した経験もある。筆者がこのコンビの存在を知ったのはその頃だ。
 当初は一発屋ではないが、いわゆる非正統派路線というか、いかにも若手らしいノリの軽いネタを見せていた。現在もその辺りの方向性に特段大きな変化はない。技術というよりパワーや勢いで押し切ろうとするタイプに見える。準々決勝は通過できたが、準決勝でははたしてどうか。近年のM-1ではあまり見ないタイプだけに、気になるところだ。

・ヘンダーソン(吉本興業 大阪)[2年ぶり2回目]

 準決勝進出は2回目。同期は見取り図、金属バットなど。全国的には無名に近いが、関西ではれっきとした実力派。そして今回準決勝を戦う31組のなかでは、ラストイヤーとなる2組のうちの1組になる(もう1組はななまがり)。
 そのネタのスタイルもすでに確立されている。ボケとツッコミを1人で行う独自の漫才とでも言おうか。つまらなくはないのだが、決勝に進出するほどのパワーがあるかと言えば、個人的には少し難しい気がする。準々決勝ではあまりよくない言葉遣いがあったのか、配信では時折音声がカットされたシーンがあったが、生配信される準決勝ではその辺りどうなのか?注目したい。

・ママタルト(サンミュージックプロダクション)[2年連続2回目]

 近年露出を増やしつつある、その貫禄あるビジュアルとは裏腹の若手コンビ。準々決勝のウケはよさそうだったが、決勝に進出するにはまだ少し物足りない気がする。
 ネタのスタイルは極めてオーソドックス。体重180kgの巨漢男(大鶴肥満)のキャラを活かした、シンプルなコント漫才だ。最近のM-1で活躍したコンビで言えば、錦鯉に近いスタイルといえばわかりやすいか。最大限うまくいけば決勝の可能性もなくはないが、その辺りは檜原洋平のツッコミがハマるかどうか次第だと見る。今回数少ない非吉本系のコンビ。その曲者ぶりをどれほど発揮することがてきるか、期待したい。

・ぎょうぶ(吉本興業 大阪)[初出場]

 前回(2022年)の準々決勝大阪会場を突破したグループはそれなりに有名なコンビが多くを占めた結果となったが、今回は少し違う。全国的に知られているのは賞レースでの活躍が目立つニッポンの社長、カベポスター、さや香くらいで、その他はほぼ無名。ある程度お笑い好きでもあまり知らないようなコンビが、今回はそれこそ何組もいる。このぎょうぶもその1組。彼らには申し訳ないが、今回のM-1(準々決勝)で初めてその姿を目にした次第だ。
 今回も大阪から何組かはファイナリストが現れると思うが、このぎょうぶの印象は薄い。よほどインパクトのあるネタを披露しない限り、決勝に進出することはないと思う。

・オズワルド(吉本興業 東京)[5年連続5回目]

 7位(2019年)、5位(2020年)、準優勝(2021年)、7位(2022年)。上記は過去4大会における決勝でのオズワルドの成績だ。この中で最も惜しかったのは2021年大会。ファーストラウンドを圧倒的なネタで1位通過するも、最終決戦(2本目)ではまさかの失速。錦鯉に逆転負けを喫した光景は記憶に新しい。
 初めて決勝に進出した2019年以前の最高成績は3回戦。そこから現在まで決勝には4年連続で進出中という、まさに近年のM-1を代表するコンビと言ってもいいだろう。2019年は無名のダークホース、2020年は有力候補、2021、2022年はともに優勝候補筆頭。これまでの立ち位置をざっくりと言えばこんな感じだ。そして今回もその立ち位置に変わりはない。問題はその度合いだ。優勝の可能性がはたしていまのオズワルドにどれほどあるのか。優勝はおろか、決勝進出もそう簡単ではないとは筆者の見立てになる。
 オズワルドを強く推せない理由は、前回の敗者復活戦にある。昨年、決勝への敗者復活枠を勝ち取ったのはオズワルドだったが、惜しくも次点に終わった令和ロマンの方が面白い存在に見えた人はそれなりに多かったのではないか。少なくともオズワルドが圧倒的なネタで復活をはたしたというわけでは全くない。視聴者投票による、言わゆる人気や知名度で選ばれたという感じだった。復活した彼らの決勝での順位(7位)が、その間違った視聴者投票の結果を証明していると言っても言い過ぎではない。
 オズワルドのピークを2021年とすれば、前回(2022年)は右肩下がりになりつつあることが誰の目にも明らかだった。ストレートで決勝に進出できなかったこと(準決勝で敗退)が、その何よりの証になる。そして、その流れは今回もなお続いている。準決勝には進出したが、オズワルドの出来は決してよくなかった。筆者は準々決勝敗退を予想したほどだが、はたして再び右肩上がりに転じることはできるのか。目を凝らしたいポイントになる。
 
 
・豪快キャプテン(吉本興業 大阪)[初出場]

 ネタは屁理屈を武器にした、しゃべくり系の正統派漫才。情報をあまり知らないので、詳しい寸評は控えたい。

・バッテリィズ(吉本興業 大阪)[初出場]

 上記の豪快キャプテン同様、全国的には無名に近い大阪吉本のコンビだが、このバッテリィズはこちらの印象にある程度残っている。昨年の準々決勝で割と面白いネタを披露していたからだ。前回は準々決勝で敗退したが、今回は初の準決勝進出。そしてそのまま決勝に進出する可能性が少なからずありそうな匂いがする。ネタがシンプルで分かりやすいからだ。かつてのミルクボーイではないが、大阪で活動している無名のコンビが、いつ大舞台で弾けるのかはわからない。4年前のミルクボーイ、最近では2年前のももがそうだったように、今回も大阪から1組はダークホースが現れそうな気配がある。それがこのコンビになるのかはわからないが、その可能性を少なからず感じる1組だ。
 

・エバース(吉本興業 東京)[初出場]

 準決勝進出が確実そうに見えた数少ない1組。それはイコール、決勝に進出する可能性もそれなりに高いことを意味している。ファイナリスト経験のあるグループならいざ知らず、ほぼ無名のコンビにこうした匂いを感じることは稀だ。それだけ準々決勝で目にしたこのコンビのネタはよかった。誰にも知られていない、そのフレッシュさが大きな武器になると見る。正統派のしゃべくり漫才で大会を掻き回す存在になれるか。

・令和ロマン(吉本興業 東京)[2年連続3回目]

 オズワルドの欄でも述べたが、前回の敗者復活戦で最も面白いネタを見せたのはこの令和ロマンとは筆者の見解だ。オズワルドがいなければ、おそらく復活していたのは彼らだった。「敗者復活戦2位」。この実績を引っ提げ、今年に入るとその露出はジワジワと上昇。決勝に進出したことのないコンビのなかでは、間違いなくその最有力候補だろう。
 コンビ2人とも慶應義塾大学出身。いわば両者ともが頭脳派のお笑いエリートコンビだ。錦鯉やモグライダーとは正反対の、2人が“頭脳”のコンビ。あえて言えば、雰囲気的にはニューヨークに近い感じか。ネタがお洒落というか、とにかく平均点が高いタイプ。計算高く、常に安定して笑いが取れるのがその長所。だが逆に言えば、あまり賢すぎるが故に、勝負どころで馬鹿になりきれないというのがあえて言えば短所だろうか。マヂカルラブリーや錦鯉にはなれないタイプといえばわかりやすい。少なくとも決勝の最終決戦で舞台に寝っ転がるようなことはしなさそうなタイプに見える。
 まず目指すは決勝進出。何よりもそれが先だ。そのポテンシャルがすでに彼らには十分備わっている。準々決勝で見せたネタは、正直なところ五分五分といった感じ。決勝進出のためには、あともう一息欲しいところだ。はたして準決勝での出来はいかに。
 

・シシガシラ(吉本興業 東京)[初出場]

 他の人はどう見ているかはわからないが、筆者はこのコンビを有力なファイナリスト候補だと見る。前回もその名前はそれなりに挙がっていたが、結果は準々決勝敗退。それだけに準決勝に初めて進出した今回への期待は大きい。従来とは一味違う、ひねりが効いたハゲネタ漫才。これがハマれば決勝はもちろん、その先も十分狙える。ダークホースの割にはいささか面白すぎるコンビ。決勝進出の可能性は40%。

・ダンビラムーチョ(吉本興業 東京)[2年連続3回目]

 歌ネタを得意とする隠れた実力派。前回敗者復活戦で見せたネタのように、既存の曲を利用したゲーム性のあるそのネタスタイルは、すでにしっかりと確立済みだ。あとはうまくハマるかどうかだけ。独自の色が鮮明だというのは強みだと言える。
 今回彼らのライバルとなるのは、おそらくはモグライダーだろう(モグライダーとの違いは、“ともしげ”がいないことか)。歌ネタ?をするコンビが2組も決勝に上がることは少し考えにくい。上げるとするならば、たぶんどちらか1組。そして今回のモグライダーは正直かなり強い。準決勝でモグライダーの後にネタを披露するダンビラムーチョは、確実に比較される状況にある。この対決にとくと目を凝らしたい。

・くらげ(吉本興業 東京)[4年ぶり2回目]

 準決勝進出は2回目。テレビで目にする機会もほとんどない無名コンビ。何か述べることは特段なさそうなコンビに見えるが、こちらの印象にはとりわけ強く残っているコンビになる。彼らが初めて準決勝に進出したのは2019年。その時準決勝を戦ったメンバーの顔ぶれを見れば、このくらげの凄さがお分かりいただけると思う。ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱ、和牛、錦鯉、ロングコートダディ、ニューヨーク、マヂカルラブリー、オズワルド、見取り図、アインシュタイン、囲碁将棋、ラランド……。後に売れっ子となる人気者及び実力者がこれでもかと揃っていた2019年の準決勝。そこに彼らもいたのだ。くらげは決勝に進出することはできなかったが、敗者復活戦では16組中8位という無名のコンビとしては中々の成績を収めている(錦鯉やマヂカルラブリーよりも上)。その時の姿がこちらの記憶にはとりわけ強く残っているのだ。
 ネタをひと言でいえば、センスがいい、となる。手前味噌だが、それは先述の4年前にもすでに感じていたことでもある。いわゆるたしかな実力を感じさせるタイプ。今回準々決勝で見せたネタに関して言えば、そのシステム、フォーマットに何より目を奪われた。ミルクボーイ的な要素もありそうな、シンプルながらもあまり見たことがないタイプのネタ。決勝進出の可能性あり。準々決勝を見た段階で思わずそう感じたほどだ。決勝進出の可能性40%。
 

・ナイチンゲールダンス(吉本興業 東京)[初出場]

 学生お笑い出身のエリート若手コンビ。少し前からその名前は轟いていたが、準決勝進出は今回が初。その境遇といい、雰囲気といい、なんとなく似ているのは令和ロマンだろう。
 ネタはシンプルなコント漫才。ボケ担当・中野なかるてぃんが放つボケが、そのキャラやビジュアルに似合わずレベルが高い。高学歴なだけあってか、両者とも大喜利的センスに優れていそうな、いかにも賢そうなネタ(ボケ・ツッコミ)をする。その辺りも令和ロマンと似ていると言いたくなる理由だ。令和ロマン対ナイチンゲールダンス。この戦いは見物だ。準決勝では両者が同じグループ(C)でネタをする。はたして決勝に進むことができるのはどちらか。

・ななまがり(吉本興業 東京)[2年連続2回目]

 準決勝進出は今回で2回目。それが少ないと感じさせるほど、ここ数年露出が目立つコンビだ。
 ざっくりと言えば、ネタはなんでもあり。ランジャタイとはまた違ったタイプの滅茶苦茶なネタを堂々と披露する。初瀬悠太のツッコミがある程度オーソドックスなので異色感は少し薄まるが、それでもこの顔ぶれの中では十分“イロモノ”であることに変わりはない。森下直人のボケはやはり際立つ。あのランジャタイ・国崎のほうがある意味ではしっかりした人に見えてくるほどだ。
 そんなななまがりは今回がラストイヤー。準々決勝の出来はあまりよかったとは思わないが、はたして彼らがM-1のせり上がりから登場する光景を拝むことはできるのか。決勝進出の可能性20%。

・モグライダー(マセキ芸能社)[2年ぶり2回目]

 今回の優勝候補筆頭。個人的にはそう考える。結果はどうあれ、準々決勝を沸かせた例のネタを、決勝の舞台で是非とも拝みたい。いまはその気持ちでいっぱいだ。
 ネタは問題なし。不安なのはその出来栄えと、優勝するには欠かせないもう1本のネタ。現在売れっ子というその立ち位置がどう影響するのかにも、とりわけ注視したい。準々決勝のネタがキチンとできれば決勝進出の可能性80%。

・きしたかの(マセキ芸能社)[初出場]

 昨年ごろから急激に露出を増やしつつある令和のドッキリスター高野正成と、巨漢の岸大将からなるマセキ所属の同級生コンビ。マセキ所属でこのタイプのコンビといえば、想起するのは三四郎だ。どことなく似たテイストを感じるこの2組だが、先輩の三四郎は結局M-1の決勝に進出することはできなかった(後にTHE SECONDで決勝進出)。マセキ所属のコンビでこれまで決勝に進出したことがあるのは、ナイツとモグライダーの僅か2組のみ。今回初めて準決勝に進出したきしたかのは、マセキ芸能社史上3組目のM-1ファイナリストとなるチャンスを得たというわけだ。
 ナイツ、そして現在のモグライダーを見れば分かりやすいが、こうした吉本以外の事務所で賞レースのファイナリストになった芸人は比較的売れやすい傾向にある。ドッキリの反応が面白い高野のリアクションで売れた感じのきしたかのだが、仮にM-1の決勝に進出すれば鬼に金棒。そのブレイクにさらに箔がつくことになる。いい感じで勢いのある今回、はたして(おそらく審査員の)松本人志さんの目の前に立つことはできるか。

・ヤーレンズ(ケイダッシュステージ)[2年連続2回目]

 準決勝は進出は今回で2回目。シンプルなコント漫才をする実力派だ。前回初めて準決勝に進出した前後くらいから、その露出はジワジワと増化。ボケ担当・楢原真樹は芸能界でも屈指の「ラヴィット!」(TBS)好きとして、番組にも何度か出演。またツッコミ担当・出井隼之介は芸人界の情報通として「アメトーークCLUB」の『芸能人のいらん情報もってる芸人』に1人で出演するなど、ここ最近それなりに活躍が目につくようになっている。
 まだそこまで露出が多いわけではないが、これまで見た感じ、両者ともいわゆる芸人としての能力が高そうに見えるタイプ。アメトーークCLUBで落ち着いた喋りを見せた出井を見てそう思った。現在はまだ無名に近いが、いわゆるブレイク待ち、ゲート開き待ちのコンビと言っても過言ではない。そしてもうひとつの注目ポイントが、ケイダッシュステージというその所属事務所。ケイダッシュステージ所属でM-1で活躍したコンビと言えば、言わずと知れたオードリーだ。15年前にこのM-1からお笑い界を駆け上がったスターを忘れるわけにはいかない。そんなオードリー的な匂いが、微かではあるがこのヤーレンズにも漂っている。はたしてヤーレンズは“オードリー”になることはできるかのか。さらには同じくケイダッシュステージのトム・ブラウンとの争いにも注目したい。
 

・マユリカ(吉本興業 東京)[3年連続4回目]

 準決勝進出は今回で4回目。その露出はここ1,2年でジワジワと増えていることはたしかだが、ここからもう一段上に行くためには、やはり決勝進出が絶対条件だろう。力は十分ある。4回というその準決勝進出回数がまさに実力の証だ。順番的にそろそろ運が回ってきてもおかしくない。決勝進出の可能性35%。

・鬼としみちゃむ(吉本興業 大阪)[初出場]

 初めて見た時は即席ユニットかと思っていたが、意外にも正式なコンビだという。準々決勝でのネタは割と面白かったが、はたして準決勝ではどれくらい通用するか。あまり詳しくないので、このくらいで。

・さや香(吉本興業 大阪)[3年連続4回目]

 言わずと知れた前回の準優勝コンビ。準々決勝で注目したのは前回との完成度の比較だが、少なくとも衰えている様子は全くなかった。2年前の準優勝コンビ・オズワルドと比べるとそれは分かりやすい。オズワルドが2年前をピークにやや下降気味にあるのに対し、さや香は今回もなお高いレベルをキープしている。マンネリ化もそこまでなかった。今回も優勝を争うものと僕は見る。
 効いているのは新鮮さだ。前回準優勝という好成績を収めたにもかかわらず、こう言ってはなんだが、この1年間におけるさや香の活躍はかなり地味だった。ウエストランド、ロングコードダディらと比較すればその違いは分かりやすい。昨年のM-1以降テレビでの活躍が目立った上記の2組に対し、さや香は最低限の活躍に止まったという印象だ。彼らが大阪を拠点にしていたこともあるが、それを差し引いてもその露出は少なかった。むしろあえて露出を抑えていたという感じにも見える。その分舞台やネタ作りに力を入れたのかはわからないが、今回もネタはかなりいい。前回同様の王道しゃべくり漫才で決勝に進出する可能性は高いと踏む。ブラックマヨネーズを彷彿とさせるそのスタイルで再び審査員から絶賛の嵐を受けることはできるのか。決勝進出の可能性80%。

・トム・ブラウン(ケイダッシュステージ)[4年ぶり3回目]

 準決勝進出は2019年以来4年ぶり。初めて決勝に進出した2018年以降、テレビで比較的コンスタントに活躍していたので、4年ぶりというその準決勝進出は少々意外なものに見える。
 ネタの方向性やその芸風に特段大きな変化はないが、あえて変わったところをいえば、彼らの代名詞である「合体漫才」ではなかったこと。荒唐無稽な内容は相変わらずだが、今回の準々決勝の審査員にはうまくハマったようだ。なにより筆者も準々決勝のトム・ブラウンのネタをもう一度見てみたいとは、この文章を書いているいまの率直な感想になる。
 ランジャタイはM-1からいなくなってしまったが、まだトム・ブラウンがいる。準決勝での活躍に期待したい。

・ダイタク(吉本興業 東京)[2年ぶり5回目]

 準決勝進出は今回で5回目を数える、お馴染み双子の実力派コンビ。これまで決勝進出を期待されながらも、この準決勝の壁はいまだに一度も破ることはできず。そしてそれは今回も難しそうとは筆者の見立てだ。準々決勝のネタは可もなく不可もなくという感じ。悪くはないが、パワー不足は否めず。笑いの取り方に双子ネタという縛りがあるので、ボケがなんとなく予想できるというか、悪い意味でネタが“教科書的”な感じなのだ。
 とまあ、ダイタクに関しては個人的によくないと思うところをいつも述べている気がするが、少なくとも1度は決勝で見てみたいコンビであることに変わりはない。これはあくまでも僕個人の主観だ。最近ではキングオブコント2023で優勝したサルゴリラに対して、「優勝するレベルではない」、「下位候補」などと決勝直前に述べているくらい、僕は予想を大きく外しているくらいだ。
 筆者の予想を裏切るような活躍をダイタクにも期待したい。

・カベポスター(吉本興業 大阪)[4年連続4回目]

 前回初の決勝進出を果たした大阪の実力派。その売りはなんと言っても安定感だ。準決勝進出は今回で4年連続の4回目。大袈裟に言えば、ネタは見る度に面白くなっている。今回も準々決勝を全く危なげなく通過するなど、強者としての風格もすでに漂い始めている。いまや押しも押されもせぬファイナリストの超有力候補だ。
 前回の決勝戦。那須川天心さんによる「笑神籤(えみくじ)」でトップバッターに選ばれたのはこのカベポスターだった。結果は10組中8位。今年のキングオブコント2023ではカゲヤマがトップバッターながら準優勝を果たしているが、過去の大会を見れば1番が極めて不利であることは言わずもがなだ。前回カベポスターがトップに選ばれたその瞬間、こう言ってはなんだが、彼らが好成績を収める望みは一気に降下した。ネタは悪くなかったが、強いインパクトを残すことはできず静かに終わったという印象だ。前回のカベポスターをひと言でいえば、「不運だった」となる。
 準決勝前に言うのもなんだが、普段通りの力を発揮できれば彼らの決勝進出は固いと見る。カベポスターが見据えるのはその先。もし今回決勝に進出できれば、今度はいい順番(6、7番辺り)で登場して欲しいものである。
 

 ・ロングコートダディ(吉本興業 東京)[5年連続5回目]

 キングオブコント決勝進出2回、M-1グランプリ決勝進出2回。漫才とコントの二刀流。少し前のかまいたち、ニューヨークの系譜上にいる、言わずと知れた超実力派だ。あえてどちらかと言えば、様々なバリエーションのネタをするニューヨークに近い感じか。そのヴィジュアルではニューヨークに劣るが、賞レースでの実績は互角、あるいはそれ以上だろう。前回3位の実績を引っ提げ、今年4月から活動拠点を大阪から東京へ。10月には「ラヴィット!」の正式なレギュラーに加入するなど、今年はその露出がまた一段と増えた印象を受ける。
 前回の決勝戦。そこで最も印象に残っているネタを挙げよと言われれば、何を隠そう僕的にはロングコートダディの1本目『マラソン世界大会』のネタになる。2本合わせれば優勝したウエストランドに軍配は上がるが、1本に限れば例のロングコートダディのほうが強烈だった。『マラソン』級のネタが彼らにもう1本あれば最終決戦はもう少し競った戦いになっていたかもしれないとは、前回の決勝後に思った率直な感想になる。
 準々決勝で見せたネタはほぼ文句なし。5年連続5回目の準決勝進出はオズワルドと並んで今回の顔ぶれのなかでは最多になるが、現時点におけるネタの力ははっきり言ってオズワルド以上。ネタに関してはやや陰りが見えてきたオズワルドに対して、ロングコートダディにまだ底は見えていない。優勝候補の一角。決勝進出の可能性80%。
 

・華山(吉本興業 大阪)[初出場]

 申し訳ないが、華山と聞いてもその情報はこちらにほとんどない。昨年まで名乗っていたエンペラーというコンビ名は何度か耳にしたことはあるが、せいぜいその程度だ。ネタはしゃべくり系。大阪予選の視聴から2週間ほどが経つが、特段印象には残っていない。詳しい寸評は準決勝のネタを見てから。

・ドーナツ・ピーナツ(吉本興業 大阪)[初出場]

 全国的にはほぼ無名。だが筆者は1度、彼らを「ラヴィット!」で見かけた経験がある。大阪の賞レースで結果を残しつつある有力な若手コンビ。たしかそんな感じの紹介だった気がする。今回はそうした無名に近い大阪吉本のコンビが多く準決勝に進出しているが、はたしてその中からどれほど決勝に勝ち上がるコンビが現れるか。準決勝の注目すべきポイントになる。

・20世紀(吉本興業 大阪)[初出場]

 先述のドーナツ・ピーナツ同様、全国的には無名の大阪吉本組。オーソドックスなコント漫才で初の準決勝進出。だが、さすがに決勝への進出は厳しそうか。前回より5組増えた31組で争われる準決勝を抜ける可能性は低そうに見える。

・ニッポンの社長(吉本興業 東京)[3年ぶり4回目]

 今年のキングオブコント2023で自身過去最高の3位に輝いた関西の超実力派コンビ。キングオブコントでは現在4年連続で決勝に進出しているが、M-1ではこの準決勝の壁を突破したことはまだ一度もない。そんなニッポンの社長とつい比較したくなるのは、キングオブコントで6回(史上最多)の決勝戦出場の記録を持つ、さらば青春の光だ。さらば青春の光もどちらかと言えばコント師としてのイメージのほうが強いが、実は彼らはM-1でも1度、決勝(2016年)に進出した経験を持つ。さらば青春の光が単なるコント師ではなく、賞レース常連の実力派として非常に高い評価を受けている大きな理由に他ならない。
 所属事務所こそ違うが、ニッポンの社長にもさらば青春の光的な匂いを感じるのは僕だけだろうか。両者ともにネタはいい意味で独創性に溢れている。誰もやらなさそうなネタ、独自の切り口で笑いを取るその方向性に、似通ったムードを感じるのだ。
 とはいえ、今回準々決勝で見せたニッポンの社長のネタは、彼らの実力を考えると僕には少し物足りなかった。準々決勝で落ちても決しておかしくはなかったが、今回上がれたことはラッキーと捉えるべきだろう。はたしてその幸運を活かすことができるか。準決勝での姿に目を凝らしたい。
 

・スタミナパン(SMA)[初出場] 

 準々決勝で見せたネタは、率直にいえばあまり面白くなかった。準決勝進出が意外だった何組かのうちの1組。あえて厳しく言うとそうなる。とはいえ、今回注目すべきはそこではなく、彼らの所属事務所にあり。SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)。吉本興業以外で唯一、お笑い賞レース三冠(キングオブコント、R-1、M-1)を成し遂げたお笑い事務所。そんなSMA所属のコンビで準決勝に進出したのは、2年前にまさかの優勝をはたした錦鯉以来。2015年以降のM-1ではその錦鯉以来、SMA史上2組目のM-1準決勝進出コンビになる。
 先ほどネタはあまり面白くなかったと述べたが、それでもそう簡単に侮るわけにはいかない。筆者が初めて錦鯉のネタを見た時もまさにそうだったからだ。筆者が錦鯉を初めて目にしたのは2016年頃だったと記憶するが、まさかその数年後にM-1決勝進出、しかも優勝を成し遂げることなど、正直露も思わなかった。当初の錦鯉はネタも粗く、とてもM-1で通用するとは思えなかったからだ。そんな錦鯉的な香りをほんの数パーセントではあるが、このスタミナパンにも感じるのだ。
 繰り返すが、ネタはまだまだ粗い。だが、もしかしたら錦鯉のように数年後には大きく化けるかもしれない。その可能性をどれほど感じさせることができるか。準決勝でのスタミナパンの見どころはそこにある。

・ダブルヒガシ(吉本興業 大阪)[吉本興業 大阪]

 一度は準々決勝で敗退するも、ワイルドカード枠により準決勝へ復活。今年のABCお笑いグランプリで優勝した大阪吉本の若手有望株だ。
 今回90組近い準々決勝敗退組のなかから投票により選ばれた1組。その投票はTVerで行われていたのだが、決勝当日の敗者復活戦とは違い、有名なグループよりもお笑い好きの人気が高そうな、どちらかと言えば通好みの芸人が選ばれる傾向が強い。前回の金属バット(2022年)やその前の滝音(2021年)など、コアなファンの支持率が高そうなコンビが選ばれている印象だ。このダブルヒガシもまさにそうしたタイプのコンビだと言える。全国的にはまだ知名度はいまひとつだが、業界内ではその評価はとりわけ高そうなコンビに見える。
 このワイルドカード枠から決勝に進出したグループは未だ誰もいない。はたして前例を覆すことはできるのか?期待したい。

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