ソニー(SMA)よりも、グレープカンパニーよりも気になる、いま勢いを感じる芸能事務所

 賞レースを中心に回っている近年のお笑い界。大会が終われば、そこで活躍した芸人はすぐさま各テレビ局の人気番組から声が掛かり、そこからあっという間に人気者の仲間入りを果たしていく。大会直前までアルバイトをしていた苦労人が一夜にして人生を変えるーー。そんなエピソードを持つ芸人たちをこれまで何組も目にしてきた。

 昨年のM-1グランプリで優勝したソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)所属のお笑いコンビ・錦鯉は、これまで賞レースで優勝した苦労人のなかでも、その下積み度合いはダントツと言えた。芸人としての給料で食えるようになったのは、一昨年(2020年)のM-1で初の決勝進出を果たした、それ以降からだと聞く。優勝した昨年のM-1の、そのもう1年前。ツッコミを担当する渡辺隆は42歳(当時)、ボケ担当の長谷川雅紀は49歳(当時)になるまで、芸歴とほぼ同じくらいの期間、アルバイトをしていたということになる。

 特にボケの長谷川。見た目も含め、ここまで苦労人の空気を醸し出す芸人、その「遅咲き度合い」は、これまでのお笑い界史上、間違いなくナンバーワンだろう。バイきんぐ、ハリウッドザコシショウ、アキラ100%といった、錦鯉と同じSMAに所属する彼らも賞レースで優勝するまで日の目を見なかった芸人たちだが、それでも錦鯉・長谷川に比べればまだマシに見えてくる。同じ事務所に所属するかつての苦労人王者たちが霞むほどの画期的な出来事。錦鯉のM-1優勝をひと言でいえばそうなる。

 2012年にバイきんぐがキングオブコントで優勝。2016年にハリウッドザコシショウ、2017年にはアキラ100%がR-1ぐらんぷり(現在はR-1グランプリ)でそれぞれ優勝。そして錦鯉がM-1で優勝したことで、吉本興業以外の芸能事務所では初めてお笑い賞レース「3冠」を達成したSMA。先日(5月6日)は金スマで「SMA芸人大集合SP」が放送されるなど、いま最も勢いある事務所として、メディアで取り上げられる機会も増えている。「アメトーーク」ではすでに1年前に『ソニー芸人』(2021年5月20日)が放送されていたが、いずれにせよ、事務所の評判がかつてよりも大幅に上がっていることは明らかな事実だ。

 錦鯉がブレイクしたことで、彼らが師と仰ぐ先輩のザコシショウ、さらには小峠(バイきんぐ)や渡辺の元相方である現だーりんずの小田など、錦鯉の周辺にいる芸人の評価も上がっているような印象を受ける。露出がジワジワ増えていると言ってもいい。賞レースのなかでも、M-1の注目度並びにその価値は、他に比べて遥かに高い。SMA芸人の評価が高まりつつある現在の状況は、そんなM-1の高い地位を象徴している。そう言えなくもない。

 ザコシショウ、小峠、渡辺。SMA芸人のなかでも、とりわけ高いトークセンスを感じさせるのは、個人的にはこの3人になる。そしてもう1人、あえて名前を挙げるならば、先ほども挙げた渡辺の元相方でもある、だーりんず小田だ。この人の喋りはなかなか良い。渡辺と似ているというか、コメント力を感じさせるのだ。アメトーークでキレの良い喋りを見せられると、ブレイクの匂いを感じずにはいられない。SMAのなかではいま最も気になる芸人と言ってもいい。

 だが、賞レース王者たちと上記で述べた小田以外のSMA芸人のなかに、これと言って良いムードを感じる芸人はあまりいないとは、筆者の見解になる。コウメ太夫やAMEMIYAなど、面白いベテランは多いが、彼らはどちらかと言えば色物的なタイプの芸人だ。正統派では全くない。同じことは自衛隊キャラで最近露出を増やしつつある若手のやす子にも言える。それなりに活躍は見せてはいるが、コンスタントに力が発揮できるタイプには見えない。この先も順調に階段を昇りそうかといえば、怪しいと言わざるを得ないのだ。まだ23歳と若いが、少なくとも現時点では良い匂いはあまりしない。2,3年後どうなっているのか、早送りして見てみたい気がする。

 やす子は例外だが、SMAに所属する芸人はやはりそれなりのベテランというイメージが依然強い。錦鯉のブレイクによりそれはさらに決定的になった感じがする。錦鯉の活躍に奮起した芸人も多いと思うが、そう簡単に「第2の錦鯉」が現れるとも思わない。TOKYO COOLやあっぱれ婦人会など、ネタ番組で見かける40代のコンビもいるが、彼らに錦鯉的な匂いを感じるかといえば、いまのところはノーだ。どちらもスタイル的に古いというか、M-1の決勝に行きそうな匂いは特段感じない。フリートークを見たことがないのでなんとも言えないが、コンビのどちらかが錦鯉・渡辺のような細工の利いた喋りができない限り、売れる可能性は低いと思う。少なくとも今のところは。

 最も勢いある事務所と言っても、それはいまこの瞬間に限られた話なのだ。SMAに関してはそう言ってもいい。少なくともまたすぐにでも錦鯉のような存在が現れそうな感じでは全くない。その候補者の顔ぶれは見当たらないのだ。

 M-1の次に行われた賞レース。今年3月に行われたR-1で優勝したお見送り芸人しんいちを輩出した事務所も、いま勢いある芸能事務所と言ってもいいかもしれない。サンドウィッチマンがトップに君臨する事務所。グレープカンパニーに所属する芸人たちの活躍も、ここ数年で確実に増えている。

 R-1から2カ月か経過したこの時期はお見送り芸人しんいちの露出が目立っているが、彼がこの調子でテレビに出続ける芸人になるとは筆者はあまり思わない。人気番組に出続けられるのも、おそらく年末までだろう。それ以降はおそらくだが、何か新しいものを生み出し続けない限り、歌ネタを武器とするワンポイントの芸人になりかねない。R-1王者なので消えることはないだろうが、いまより上の階段を昇る姿が想像しにくいのだ。

 永野、カミナリ、ティモンディなど、少し前にブレイクした芸人もたくさんいるが、彼らもブレイク時に比べると、現在はやや落ち着いた印象を受ける。ピーク時の調子を100とすれば、現在は70〜80。少なくとも芸人として昇り調子にあるとは言い難い。独自のスタイルが鮮明な永野、M-1ファイナリストの経験があるカミナリは大丈夫そうだが、ティモンディはそうした意味では少し心配だ。スポーツ系の企画でいくら活躍しても、芸人としての評価は決して上がらない。面白いコメント、味のある言葉をどれくらい吐けるか。それができなければ息の長い芸人になることは難しい。ネタでブレイクしたコンビではないので、この先芸人としてどのように芸能界を渡っていくのか、少しばかり興味を覚えるのだ。

 逆に今、グレープカンパニー所属の芸人で一番勢いを感じるのは誰かと言えば、個人的には東京ホテイソンになる。M-1グランプリ2020のファイナリスト。準決勝以上には現在5年連続で進出している、まさに実力派の若手コンビだ。

 東京ホテイソンのどこに勢いを感じるかといえば、個人的にはやはり「ラヴィット!」(TBS)での活躍ぶりになる。現在は金曜日のレギュラーとして毎週出演しているが、そこでの存在感が、まだ20代の若手としては申し分ないのだ。ミキ、EXIT、宮下草薙らの同じ若手のライバルたちより活躍できているとは、筆者の見解になる。ネタに関しては昨年のM-1で単調だったと述べたが、こうしたバラエティ番組での立ち振る舞いは決して悪くない。ウケても良いが、スベる姿もまた面白い。たけるとショーゴ、それぞれのキャラクターも確立しつつある。彼らの存在が金曜日の「ラヴィット!」の出来映えに貢献していることは確かな事実だ。

 もう一組、ランジャタイの名前も挙げないわけにはいかない。グレープカンパニーに所属したのが2019年のため、あまりそのイメージはないが、M-1決勝での富澤(サンドウィッチマン)との絡みはこちらの印象に強く残っている。ラストイヤーでもある今年のM-1の結果次第ではどう化けるかわからないが、芸人としての底はまだ見えていない。未知なる魅力を備えた、カリスマ性溢れる今が旬の奇天烈コンビにも目を凝らしたい。

 お見送り芸人しんいちがR-1で優勝したことにより、M-1で優勝したサンドウィッチマンと合わせて、事務所で賞レース2冠を達成した。あとひとつ、キングオブコントの優勝者が現れれば、SMAに続いて「3冠」を達成することができる。わらふぢなるお、ゾフィーなどがその有力な候補になるだろうが、強力なライバル多数のキングオブコントで優勝するのはそう簡単にはいかないだろう。事務所で3冠を達成するにはまだもう少し時間がかかりそうな気がする。

 SMA、グレープカンパニー。最近行われた賞レースで優勝者を輩出した事務所に勢いを感じるのはよくわかる。番組で取り上げられる機会が増えていることにも十分納得がいく。しかし、そんなSMAやグレープカンパニーを褒めれば褒めるほど、その他の事務所に目は向きにくくなる。面白い何かを見落とすことになりはしないかと、つい疑心暗鬼になってしまう自分がいるのだ。というのも、僕にはいま、そんな賞レース王者を輩出している事務所よりも、気になる事務所がある。少なくともその事務所が大きく取り上げられている様子はまだあまりない。あえていまここで述べたくなる、大きな理由になる。

 いまからおよそ半年ほど前に、筆者はこの欄で「女性芸人ナンバーワンは福田麻貴(3時のヒロイン)」なる記事を書いている。もちろん現在も福田に対しての高評価は変わらないが、いまは福田がダントツというわけでは決してない。吉本興業に所属する福田よりも勢いを感じさせる芸人、彼女に迫る人物が現れた。いまではそちらの方がより光って見えるようになった、という感じだ。

 その女性芸人とはズバリ、ヒコロヒーだ。2021年のブレイクタレントランキングでは堂々の5位に入るなど、昨年から露出を大きく増やしているこの女性ピン芸人こそが、現在のナンバーワン女性芸人。少なくとも筆者はそう見ている。

 ヒコロヒーの魅力としてまず挙げたくなるのは、芸人としての幅が広いところになる。ネタよし、トークよし。ボケてよし、ツッコんでもよし。コントもできれば、漫才もできる。さらにはMC的な素養も十分持ち合わせている。深夜でもゴールデンでも番組に合わせて自分の特徴を巧く発揮することができる、使い勝手が良い万能型のピン芸人という感じだ。

 ヒコロヒーについてもう一つ言いたいことは、何か大きなきっかけもなくブレイクしたという点になる。賞レースで活躍したり、特徴的なネタで注目を浴びたりしたわけでは全くない。ここまでのし上がってきた武器は、ほぼ喋りのみ。純粋な芸人としての力で売れた、地力を感じさせる格好の良い売れ方になる。昨年末のTHE Wでは初めて決勝に進出したものの、1stステージで天才ピアニストに票数7対0で完敗。にもかかわらず、その高評価に変化はない。今年に入ってからその勢いはさらに増している。もはや賞レースで頑張らなくても十分やっていける、それだけの地位を確立した状況にある。

 そんなヒコロヒーが所属する事務所、松竹芸能こそ、個人的にはいま最も勢いを感じる芸能事務所になる。勢いを感じるとあえて言うからには、もちろん気になる存在はヒコロヒーだけではない。

 「ラヴィット!」を視聴している者としては、なすなかにしの名前をまず挙げたくなる。このコンビの活躍をしっかりと見たのは、筆者は「ラヴィット!」が初めてだと思う。というか、「ラヴィット!」に出演するようになるまで、その存在すらほとんど認知されていなかったのではないか。「ラヴィット!」の準レギュラー的な存在になって以降、他のロケ系の番組やバラエティ番組で目にする機会も明らかに増えている。40歳を過ぎたベテランコンビがジワジワと露出を増やしていくことは最近では決して珍しくはないが、それでもやはり異色な存在に見えてくる。彼らが所属する事務所にも自然と興味が湧いてくるのだ。

 関西系ながら、非吉本的。これはほぼ全ての松竹芸人に言えることだが、吉本芸人とは漂うムードがまず違うのだ。その口から出てくるエピソードや言葉使いも一味違う。番組の流れを少し変えたいと思えば、1組くらいは加えておきたい。そんな力を彼らは備えている。ヒコロヒーやなすなかにしなどはまさにそうした存在になる。

 なすなかにしもヒコロヒー同様、何をきっかけに売れたのか、正直あまりよくわからない。いつのまにか「ラヴィット!」によく出るようになっていて、気がつけばテレビでよく目にするようになったという感じだ。芸風的には新しい感じではないが、両者ともにトーク力はそれなりに高い。今後芸人としてどれくらいブレイクするのか、目を凝らしたくなる存在だ。

 ヒコロヒー、なすなかにし。他にも森本サイダー、河邑ミク、紺野ぶるまなど、R-1の決勝に進出した実力派のピン芸人もいれば、よゐこ、ますだおかだ、安田大サーカスといったお馴染みの芸人もたくさんいる。さらば青春の光やAマッソなど、かつて松竹芸能に所属していて、現在では売れっ子となった芸人もたくさんいる。だがしかし、いま筆者が最も気になる松竹芸人は、ここまで述べてきた中にはいない。まだ全国的にはブレイクしていない、知る人ぞ知る隠れた芸人。いま売れていない芸人の中では、個人的に最も飛躍の可能性を感じる芸人になる。

 目に止めたきっかけは「ゴッドタン」(テレビ東京)だった。『第9回腐り芸人セラピー』(2021年9月12日放送)という企画に出演したピン芸人・みなみかわを見た瞬間、偉そうに言えば「これは売れる」と直感した。所属する松竹芸能への苦言や、自虐トーク、イジられた時の返しなど、その口から出てくる言葉全てが面白かった。

 この腐り芸人での活躍以降も「ゴッドタン」で取り上げらているように、その芸人としての評価は確実に上がっている。記憶に新しいところで言えば、今年3月27日に放送された「オールスター後夜祭」(TBS)だ。30人以上の芸人が集まった2時間の生放送で、最も存在感を発揮していたのが、このみなみかわだった。決して売れているとは言えない現在39歳のベテランが、多くの人気者たちを凌ぐ活躍を見せた。そんなみなみかわに対して、筆者以外にも、「おやっ」と気になる存在に見えた人はおそらく多かったのではないか。

 最近で言えば、先週(5月11日)放送された「水曜日のダウンタウン」(TBS)、『風船バレー 大人がマジでやったらなかなか決着つかない説』に出演した姿が印象に残る。春日俊彰(オードリー)、庄司智春(品川庄司)、チャンス大城、岡野陽一という、番組によく出演するお馴染みのメンバーの中に唯一、馴染みのないみなみかわが選ばれていたことも、その勢いを感じた瞬間だった。さらにはその少し前に出演した同番組の企画『30ー1 グランプリ』で、面白いピンネタを披露したことも付け加えておきたい。

 そんなみなみかわはさらに、今週の「アメトーーク」、『売れてないのに子供いる芸人』に出演予定だ。そこでどんな喋りを披露するのか、個人的には興味を覚える。大袈裟に言えば、ここでの活躍次第で、さらにもう一段、その株は上昇すると僕はみている。

 「アメトーーク」、「ゴッドタン」、「水曜日のダウンタウン」。現在放送されているこの3つの番組こそ、個人的にはお笑い色の強い番組の「トップ3」だと思っている。「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)も加えてもいいが、これらの番組に呼ばれて活躍する芸人の価値は確実に高い。個人的にはそう考える。加地倫三さん、佐久間宣行さん、藤井健太郎さんといった、番組の演出やプロデューサーを担当している有名なスタッフたちに、その力を認められた証と言ってもいい。お笑い好きとして、これらの番組から目が離せない理由でもあるのだ。そしていま、筆者がみなみかわに注目せざるを得ない理由でもある。

 あえていま思い切って言えば、みなみかわはブレイクすると筆者は確信する。今後、おそらくもっと明るい場所に出てくるとみて間違いないと思う。個人的に気になるのは、同じ事務所の後輩ヒコロヒーとユニットを組んで、M-1に出場しているところだ。現在ヒコロヒーが大ブレイクしているので今年も出場するのかはわからないが、もし出場すれば結構いい線行くのではないかと、こちらは密かに期待している。準決勝以上が十分狙える。もしそうなれば、みなみかわにもスターになるチャンスが生まれてくる。「第2のおいでやすこが」になる可能性なきにしもあらず、なのだ。

 いま最も気になる芸人。みなみかわは思わずそう言いたくなる存在だ。売れていない芸人の中では、いま一番売れそうな気配がある。その活躍度と、所属する松竹芸能の勢いには深い関わりがある。売れっ子のヒコロヒーよりも、目を凝らすべきはこちらの方。SMA所属のだーりんず小田同様、喋りのイケてる売れていないベテラン芸人の活躍が、事務所をさらに盛り上げる。あまのじゃくな僕には、知名度の低い隠れた実力者の方が気になるのだ。

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