史上稀に見る接戦。そして好勝負。キングオブコント2023は大当たりの大会だった

 勝ち負けの話をする前に、戦いの内容、レベル、大会の出来栄えについて述べなければならない。あまりにも高級。底抜けに面白かったからだ。これまで見た何十回のお笑い賞レースの中でナンバーワンだと即断したくなる、コントというネタの魅力及び競技力の最大値が更新されたことを実感した戦いだった。

 何というハイレベル。お笑い好きにとって、レベルの高さは娯楽性の高さと同義語だ。結果的にサルゴリラの完勝ながら、決勝戦は滅茶苦茶面白かった。もしこれまでキングオブコントを見たことがない人が偶然この決勝を視聴したら、一瞬にして大会の虜になっただろう。お笑い賞レースの魅力について、日本中のファンが再認識しているはずだ。巷には、お笑いファンをやめられなくなった人で溢れているに違いない。お笑いの普及、発展に大貢献した、今回のファイナリスト10組を含む大会に関わった人たちすべてに拍手を送りたい。

 優勝したサルゴリラは確かに凄かった。1本目(482点)、2本目(482点)ともに文句なし。964点というその合計得点は前回ビスケットブラザーズが記録した963点を1点上回る歴代最高の点数となったわけだが、それをこの決勝戦初出場の最年長コンビ(それもほぼ無名に近い)が叩き出すと予想した人ははたしてどれほどいただろうか。戦前の下馬評や知名度などを踏まえれば、彼らの優勝はまさに番狂わせと言ってもいい。これまで燻ってきたその経歴を考えると、過去最高とも言える今大会を制したその姿はまさに人生の大逆転劇を目撃したような爽快な気分さえ感じられた。彼らの躍進を想像していなかっただけに、とりわけこちらの驚きは大きかった。

 だが、今大会がここまでハイレベルな戦いになった要因を考えたとき、個人的に真っ先に名前を挙げたくなるのは、惜しくも優勝を逃した2位と3位の2組になる。カゲヤマ、そしてニッポンの社長。この2組の存在無くして、今回の好勝負はあり得なかった。少なくとも僕はそう思う。大会全体の出来栄えを考えれば、その貢献度は優勝したサルゴリラ以上に高かったとは僕の見立てになる。

 決勝前。何を隠そう、筆者が今回の優勝候補に推していたのは、ジグザグジギー、カゲヤマ、ニッポンの社長の3組だった。準決勝の戦いぶりから、この3組の中から優勝者が出る可能性が高いと予想した。そしてそれがそのまま決勝戦の見どころだった。この3組がどの順番で登場するのか。できれば彼らは後半のお楽しみにしたい。そう思っていた矢先だった。今回のトップバッターとしてカゲヤマが画面に登場したのは。

 カゲヤマの謝罪のネタは、トップバッターという不利な順番ながら大ハマりした。むしろその単純さが奏功したようにさえ見えた。結果は469点。5人の審査員の平均は93.8点となるが、過去のトップバッターと比較すれば、この数字がいかに凄いかお分かりいただけると思う。「カゲヤマにもチャンスあり」。優勝候補と目していたグループがまさかのトップバッターで登場したが、まだ可能性のある点数をつけられたこともあり、こちらはそう悲観的な気分にはならなかった。だが安心したのも束の間、こちらはさらに立て続けに驚かされる羽目になった。

 カゲヤマに続く2番目に登場したのも、こちらが優勝候補と目していたグループだった。ニッポンの社長は準決勝をざわつかせた例のネタで、2番手ながらも一気に会場を自分たちの空気に染めることに成功した。結果はカゲヤマより僅か1点低い468点。この数字もその順番を踏まえれば高得点であることに変わりはない。ニッポンの社長が今回4回目の決勝にしてつけられた、自身過去最高の点数だった。

 トップバッターがいきなり滅茶苦茶面白かったり、2組目で優勝候補が出てきたりすることは、これまでも何度かはあった。だが、それが立て続けに起こることははたしてこれまであっただろうか。少なくともこちらの記憶にはない。たとえそれなりに面白くても序盤に登場すれば点数は少なからず抑えられ、後半にタイミングよく登場したグループに蹴落とされるというのがこうした大会のお決まりのパターンだった。「2組終わって2位やったら、もう無理じゃないですか」とは点数が出た直後に発した辻の言葉だが、少なくとも僕にはそうは見えなかった。残る8組のうち、このカゲヤマとニッポンの社長を上回りそうなグループ決して多くない。せいぜい1組か2組とは、その時点におけるこちらの見立てだった。

 1組目と2組目でここまでの爆発というか、空気が弾けたことは、おそらく長いお笑い賞レースの歴史で初の出来事ではないか。この順番が判明した瞬間はあまりにももったいないという気持ちに襲われたものだが、振り返ってみれば結果的に悪くはなかった。手前味噌で恐縮だが、準決勝で目にしたこちらの期待どおりの姿を決勝の舞台でも見事に披露してくれたという感じだ。スタートから歴代新記録を更新するようなネタで決勝に勢いをつけたこの2組は、その結果以上に賞賛されて然るべきだと僕は思う。

 カゲヤマとニッポンの社長によって早くも火ついたキングオブコント2023決勝戦。普通ならここで少し落ち着きそうなものだが、火がついてしまった戦いの熱は収まらない。

 続くや団(3組目)、蛙亭(4組目)、ジグザグジギー(5組目)もかなりよかった。というより、従来の大会であれば確実にトップ3を争う存在になっていたはずだ。その辺りのことは審査員たちも触れていたように、今回は1組目(カゲヤマ)と2組目(ニッポンの社長)が凄すぎた。先に結果を言えば、9組目のサルゴリラがトップに躍り出るまで上記の2組(カゲヤマ、ニッポンの社長)がその位置をキープし続けたわけだが、1組目と2組目が最終的にトップ3に残ったことも間違いなく今回が初だと言い切れる。蛙亭、そして筆者が優勝候補と見ていたジグザグジギーが序盤で早くも脱落する姿に、今回のレベルの高さが表れていた。

 ゼンモンキー(6番目)、隣人(7組目)。この辺りでさすがにほんの少しだけ落ち着いた。その後に登場したファイヤーサンダー(8組目)が一時的に3位に食い込んだことも、それまでの流れや彼らのネタを見れば十分に予想できた。しかし繰り返すが、戦いのレベルは高く、数字的にもかなり際どい接戦だった。最終的にファーストステージ2位通過となったカゲヤマと8位に沈んだ蛙亭との差はわずか6点。その間に7組もひしめく文字通りの大混戦だった。ほんの紙一重。順番とか審査員の誰か1人とか、何かが少しでも違っていれば結果は変わっていた可能性が高い。今回の結果をそのまま鵜呑みにするのはお笑い的な思考とは言えない。少なくとも僕はそう思っている。

 サルゴリラ(9組目)が審査員全員から最高得点を与えられファーストステージトップに立った瞬間、こう言ってはなんだが、僕はその優勝を確信した。2本目の魚例えのネタも、言ってみれば1本目のネタと方向性が同じもの。ボケの児玉が演じるキャラクターの言動が絶妙に気持ち悪い、1本目で作った流れが確実に活かせるネタだったからだ。

 1本目のマジシャンのネタもそうだが、この2つのネタを準決勝で見た時は、まさかこれらのネタが決勝でここまでハマるとは、正直全く想像することができなかった。お笑いはナマモノとはよくいうが、今回のキングオブコントではまさにそうしたお笑いの奥深さを実感させられた。それと同時に、今回サルゴリラをファイナリストに選んだ準決勝の審査員にも僕は拍手を送りたくなった。もし彼らが選ばれていなければ、大会はもう少しつまらないものになっていたと思われる。その選択眼にあっぱれ!と言わざるを得ないのだ。

 最後に登場したラブレターズ(10組目)には申し訳ないが、最終決戦(2本目)が見たかったのは、僕的にはその時3位につけていたニッポンの社長だった。前回披露できなかったあの手術のネタを、今回こそ決勝で目にしておきたかった。そして実際、こちらの望んだ通りに大会は進んだ。例の手術のネタの出来は悪くなかったが、残念ながら逆転するには至らなかった。この1年の間で周りのレベルがまた一段と上がったこともあるが、タイミングがあまりよくなかったことも事実。やはりあの1本目のインパクトのほうが勝っていたということなのだろう。

 ニッポンの社長の2本のネタ、カゲヤマの2本のネタ、そしてジグザグジギーの新市長のネタ。筆者が今回決勝で見てみたかったネタは、こちらの願いが通じたのか、幸運にも全て目にすることができた。それだけでも十分満足できるが、全体の戦いのレベルはそれを大きく凌駕するものだった。

 繰り返すが、今回は本当に接戦だった。や団やジグザグジギーがあの出来栄えで敗退するとは。今回の決勝を見た人と見なかった人では、下位に沈んだ彼らへの印象はそれこそ雲泥の差だろう。こうしたベテランの実力派が芸人として知る人ぞ知る域にとどまり続けるのはあまりにも惜しい。思わず大きな声で言いたくなる。優れていたのは優勝者だけではないのだ、と。

 近年お笑い芸人を志す人が増えているそうだが、その理由を今回のキングオブコント決勝に見た気がした。コントの面白さ、その娯楽性のマックス値を更新した大会といっても過言ではない。これこそが筆者にとって最大の事件でありニュースだった。サルゴリラの勝因について、あるいはジグザグジギーの敗因について考察したり、分析したりしたくなるが、読者に一番伝えたいことは何かと言えば、大会そのものの面白さにある。

 こんな面白い大会はそうそうない。そのうえレベルも高い。過去最高と言いたくなる超ハイレベルの一戦だった。お笑い界、バラエティ界史上最大のエンターテインメントといっても過言ではなかった。

 この戦いを見られた幸福感、その余韻にしばらくは浸ることにしたい。

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