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【コメント】遺伝子「優性・劣性」“高校教科書では別表現を”日本学術会議

記事でも紹介されている日本医学会のワーキンググループによるレポートがこちら。

Dominant, Recessive の訳語改訂に関する論点の整理
2018 年 6 月 11 日
日本医学会遺伝学用語改訂に関するワーキンググループ
https://www.jsph.jp/news/589.pdf

このレポートには、英語・日本語における用語の使われ方の変遷などがまとめられており、非常に興味深いです。

英語では「優性/劣性」は「Dominant/Recessive」で表現されますが、これはメンデルが1865-65年ごろに既に使っていた表現で、歴史的に正当性がありますし、「優劣」という含意はありません。

それが世界で再発見され、日本に輸入されたのが20世紀に入ってからで、当初は「壓性・被壓性」、「優勢」、「跋扈的・退縮的」、「凌越的・隠退的、「現在性・潜伏性」、「優性・弱性」、「主宰・退守」、「顕性・陰性」など様々な訳語が出てきますが、記事にもあるように1910年の郡場の論文以降「優性・劣性」に一応統一されます。

その後用語の問題点などがたびたび指摘され、既に「顕性・潜性」という提案が1945年になされていました。

また、中国では現在、「顕(显)性・隠(隐)性」が使われているとのことです。

単に専門家が学術概念の「ラベル」として認識している分には、訳語の漢字の意味に引っ張られる心配はありませんが、それが学校教育に盛り込まれ、一般の人が使うほどに人口に膾炙するほどになっている現代では、自分の遺伝因子にあたかも「優劣」があるかの様に感じてしまう場合があるので、確かに不適切といえるでしょう。

もう一点は、元々は全く意味も語源も異なる「優生学」(eugenics)という言葉と「優」という漢字と表音がになってしまっていて、連想してしまうという問題もあります。

ちなみに、「variant(バリアント)」の訳語として「多様体」とするようですが、こちらは数学用語の「manifold」の訳語の「多様体」と混同しそうですね。


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