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本の世界の殺人遊戯 ー3人の証言ー

はじめに

マーダーミステリー「本の世界の殺人遊戯」の一部は、芥川龍之介「藪の中」をモチーフとした物語となっています。

ざっくりと「藪の中」のあらすじを紹介しましょう。

時は平安時代ー
藪の中で男の死体が見つかった。
容疑者をとらえてみれば
「オレが殺した」
と言うので事件解決と思いきや、死んだ男の妻が
「わたしが刺しました」と言うではないか。
困った検非違使は口寄せの巫女に頼んで死んだ男の魂に直接尋ねることにした。
「どちらがおまえを殺したのか?」
すると死んだ男はこう言った。
「私は自殺したのだ」


どうです? 面白そうな物語ではないですか? 
どうして皆が皆、自分が殺(自死)したと主張したのでしょう?

マーダーミステリー「本の世界の殺人遊戯」では、この謎に挑んでいただくことになります。

以下、死んだ男を殺したとして捕らえられた多襄丸、死んだ男の妻真砂、口寄せの術で魂を呼び出された(死んだ男)武弘の証言を紹介します。



なお、これらの証言はマーダーミステリー「本の世界の殺人遊戯」のハンドアウトの一部となっていますが、オープン情報となりますので未プレイの方もお読みください。



多襄丸の証言 

あの男を殺したのはわたしです。
わたしは昨日のひる少し過ぎ、あの夫婦に出会いました。
わたしは男を藪の中へ連れ込むと、後ろから襲って杉の木の根に縄で括り付け、口に笹の葉を頬張らせました。
そうして女のところへ行き「男が急病を起こした」から見に来てくれと藪の中へ誘い込みました。

目的を遂げると、男を殺したい気になりました。
しかし男を殺すにしても、卑怯な殺し方はしたくありません。
わたしは男の縄を解いたうえ、決闘を申し込みました。

そしてー、わたしと男は激しく太刀打ちをし、23合目にしてわたしの太刀が相手の胸を貫きました。

わたしは男が倒れると同時に、血に染まった刀を下げ、女の方を振り返りました。するとどうですー、女はどこにもいませんでした。

わたしの白状はこれだけです、どうか極刑にあわせてください。


真砂の証言

その男はわたしを手ごめにすると縛られた夫を眺めながら、嘲るように笑いました。わたしは夫の下に走り寄ろうとしましたが、男はわたしを蹴倒しました。

気がつけば男はどこかえ消え、藪の中で夫とわたしが残るばかり。

わたしはよろよろと立ち上がり、縛られたままの夫の側へ近寄りました。
「あなた、もうこうなった以上わたしは一思いに死ぬ覚悟です。しかし、1人では死ねません、あなたもわたしとご一緒してください」
わたしは一生懸命に、夫に請いました。夫はわたしの言葉を聞き
「殺せ」
と一言言ったのです。

わたしはほとんど夢うつつのうちに、夫の胸へずぶりと小刀を刺し通しました。
わたしはそのまま気を失ったのでしょう、やっとあたりを見回したときには、夫は縛られたまま、とうに息が絶えていました。

そうしてー

わたしは小刀をのどに突き立てたり、山の池に身を投げたり、いろいろなことをしてみましたが死にきれずにこうしているのですが―、やはり言い訳にもならないことでしょう。


武弘(死んだ男)の証言

盗人は妻を手ごめにすると、妻を口説きだした。
するとどうだ、妻はどうも盗人の言葉に聞き入っているように見えるではないか? オレは妬ましさに身もだえしたが、盗人はそれからそれへと巧妙に話を続けている。
盗人は大胆にも、自分の妻にならないかと云う話まで持ち出した。

するとあろうことか妻は
「ではどこへでも連れて行ってください」
と言う。さらにはオレを指さして盗人に
「あの人を殺してください」
と盗人の腕にすがるではないか。
盗人はじっ、とオレを見た。

よせ! やめろ! 

盗人は静かに両腕を組むと、オレに目をやり、そして妻をただひと蹴りに蹴倒した。
妻は藪の奥へと走り出した。
盗人は妻が逃げ出したあと、オレの太刀や弓矢を取り上げると1か所だけ縄を切った。

そして盗人も立ち去った。

藪の中へ残されたオレは縄を解き、疲れ果てた身体を起こした。オレの目の前には小刀が一つ光っていた。
オレはそっと小刀を手に取り、一突きにおのれの胸へ刺した。
何かがオレの口へこみ上げてくる。が、苦しみは少しもない。ただ、胸が冷たくなるとー、あたりがしんとしてしまった。

オレはそれきり、闇へ沈んでしまったー。


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