見出し画像

今流行り(?)の野球とバイオメカニクスの話

プロ野球の世界にもバイオメカニクスというワードが

先日、日刊スポーツにDeNAベイスターズでバイオメカニクスが浸透しているという記事がアップされていました。

https://www.nikkansports.com/baseball/column/bankisha/news/202102060000022.html

自分も大学院での専攻はバイオメカニクスで、修士論文は野球のバッティングついてがテーマでしたので、馴染みのある領域ではあります。ただ、勉強していたのは修士の2年間だけで、あまり踏み込むと専門的に研究している方に叱られてしまいそうなので、野球を見るうえで勉強したことがどう役立っているかということを中心に少しお伝えしたいと思います。

記事にもあるようにバイオメカニクスを日本語に直すと「生体力学」となり、スポーツではプレーの動きを物理的な指標(速度、角度、力など)で表して分析、解析することになります。映像から関節や先端について座標化したり、フォースプレートと呼ばれる板やセンサーなどを使って力を測定したりして、体のどの部分がどのように動いているか、力を発揮しているかということを数字で可視化しようということをやっていました。

ちなみに自分が学生だった当時はハイスピードカメラも驚くほど高価で、画像から座標を得るためにも物凄く地道な作業が必要でした。また、知りたい数値を出すための計算、プログラムも必要になります。今はかなり進化していると思いますが、分析するためのデータを揃えることが一苦労でした。

分析に必要なデータを収集するのも大変

分析するためには当然多くのデータが必要になってきます。例えば140キロ以上の速いボールを投げられる選手と、そうではない選手の動きを比較しようとした場合でも一人ずつデータをとって比べても「確からしさ」を得ることはできません。多くの選手のデータがあれば、それだけ傾向として確かなものになります。

ちなみに自分は素振り、置いてあるボールを打つスイング、飛んでくるボールを打つスイングの動きを比較することで、どの部位の動きがタイミングをとることとバットを操作することに重要なのかということをテーマとして修士論文を書きました。説明すると長くなりますので省きますが、「なんとなくこうじゃないかな?」という傾向が見えたくらいのものでした。

バイオメカニクスを学んだことで知ったこと

前置きが長くなりましたが、こういった勉強をしていて実感したのは同じ動きをしている選手はおらず、選手によって正解は異なるということです。身長、体重、腕や脚や指の長さはもちろんですし、筋肉量や柔軟性といったものもそれぞれ人によって異なります。更にバッティングに関しては特に投球に対する対応動作ですので、更に複雑になってきます。そんな中で投げるにしても打つにしても「正しい動作はこれ」と決めることは不可能でしょう。

ただ、傾向として見えてくるというものはあります。例えば速いボールを投げられる投手はどの動きが特徴的なのか、どの体の部位が特に力を発揮しているのかというものは分かってきているように思います。またスイングスピード、打球スピードが速い打者はどこが特に力を発揮しているかということや、力を発揮するタイミングのようなものも見えてきます。そういったものを分類してタイプが近い選手の動きを参考にしたり、足りない筋力や動きを強化するといった活用方法はできるのではないでしょうか。また、他の選手と比較するのではなく、自分の過去の動きと比較するということも有用でしょう。そういったデータを活用して選手のスキルアップが進んでいくことは望ましいことです。

ただ、もちろんいきなり数字を伝えても選手は理解できるわけではありません。どう伝えるかという点はコーチングの部分になってきます。今後はそういった知識のあるスタッフ、コーチが必要になってくるように思います。

常識を疑うことの重要さ

自分はアマチュアの選手を評価するような記事を書くことも多いですが、バイオメカニクスなどを勉強した経験が生かされると感じるのは、選手を十人十色それぞれ違うと考えて見られるようになったことかなと思っています。どういう選手かを読んでいる人に伝えるために「フォームのイメージは●●と近い」ということを書くこともよくありますが、あくまでそれはイメージを伝えるためのものです。そのことも行き過ぎると良くない点もあるかもしれませんが、参考にする選手を見つける意味では有用なこともあるのではないでしょうか。

あと、大事だと学んだことは過去のデータはあくまで過去のものでしかないということです。大学院生時代、研究室の先生から聞いた話で一つ強く印象に残っているものがあります。何百人という走り幅跳びの一流選手のデータを集計し、遠くへ飛ぶための飛び方が確立されたと思っていたら、カール・ルイスがそれとは違う飛び方で世界記録を作ってしまったというものだったと記憶しています(ややうろ覚えですが)。一人の天才的な選手がそれまでの常識を覆す代表的な例ではないでしょうか。走り幅跳びですらこのようなことが起こるのですから、あらゆる球種を投げるピッチング、対応動作であるバッティングの常識はどんどん変わっていくことは当然でしょう。見ているこちらも固定観念にとらわれることなく、常識を疑う姿勢を忘れてはならないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?