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ピアノシューズ事件で思うこと

【稼ぐ経営者のための知的財産情報】
 
 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「ピアノシューズ事件で思うこと」をお伝えします。
※出願等のお問い合わせはこちらから http://www.sakaoka.jp/contact 

1.ピアノシューズを無許可販売 特許法違反容疑で男逮捕

 先日、ネットニュースでピアノシューズに関する特許権侵害をしたとのことで、男が逮捕されたと掲載されていました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9b0fb8397ef8e462fd1b00bc19c0977a0b3cee00
 
 この特許権侵害で逮捕されたことについて思うところがあり、今回はそれを書いてみます。
 先に申し上げますと、私は弁護士ではなく、訴訟関係を専門に扱う弁理士でもありません。ですので、感想といった意味で読んでいただけると幸いです。
 
 事件に関するピアノシューズは、下記図面に示す特許第5470498号だと思われます。
 

特許第5470498号の図6

 課題には「初心者や子供であっても、本人の意図したペダル操作を正確に、安定して行うことができるピアノ演奏用の靴を提供することを目的とする。」とあります。
 そのためにヒール(24)の位置を工夫してあります。
 
 ちなみに、上記の特許権者は後に事業を法人化されたようで、以下のような特許第7403051号も取得されています。
 こちらは、ソール(靴底)の摩擦係数に変化を持たせたものです。

特許第7403051号の図1

2.知的財産権の侵害で逮捕とは

 商標権侵害とか、著作権侵害とかで逮捕される話はときどき耳にします。
 例えば、ブランド品の偽物を販売したとかです。
 
 しかし、特許権侵害で逮捕される話はなかなか無いと思います。
 上記のネットニュースにおいても「県警が同法違反容疑で摘発するのは記録が残る1989年以降で初めて。」と記載されています。
 
 一応、特許法の条文には刑罰についての規定があります。
 (侵害の罪)
 第百九十六条 特許権又は専用実施権を侵害した者・・・は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 
 さらに、法人の場合は両罰規定があります。これは、自然人(個人)と法人の両方に刑罰を下すということです。
(両罰規定)
第二百一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑 以下略

3.特許権侵害での逮捕がなかった理由

 ではなぜ、条文には刑罰規定がありながら、これまで特許権侵害での逮捕がなかったのでしょうか?
 それは、特許権を侵害しているか否かの判断をするにあたり、専門的な知識が必要になるからです。
 
 例えば、侵害事件では少なくとも以下のことを、原告と被告の主張をもとに検討します。
 ・イ号物件(侵害が疑われる物)の構成が、特許権者の「特許請求の範囲」の構成を具備しているかどうか
 ・「特許請求の範囲」の文言の意味はどうとらえるのか、明細書や意見書等の文言も参酌する
 ・特許に無効理由はないのか
 
 このような専門的な判断を、一般的な地方裁判所に求めるのは手間がかかります。
 ですので、特許権の侵害訴訟は、専門的処理体制の整った東京地方裁判所、又は大阪地方裁判所に提訴しなければなりません。
 
 よくあることとして、特許権侵害の争いでは両者の主張が対立して、どちらが勝つのかわかりません。
 このような判断が難しい状態で、告訴があったからといって警察がむやみやたらに動くと、国家権力の濫用となりかねません。
 
 一方、商標権侵害の場合、侵害者は本家商品のコピーをしてくるので、誰が見ても侵害だよねとわかることが多いです。
 念のため申し上げますと、特許に比べて商標が簡単と言っている訳ではありません。商標はとても奥が深く、難しいものなのです。

4.今回はなぜ逮捕されたのか

 上記のように、特許権侵害か否かの判断には、慎重かつ念入りな検討が必要です。
 
 今回の事件は、以前に特許製品であるピアノシューズを特許権者から委託され製造していた神戸の会社が、契約解除後も同製品を製造販売していたという事情がありました。
 
 つまり、仮にネットニュースの内容が事実であったとして、以下の理由があったからではと推測します。
 ・製造されたピアノシューズが特許権侵害に該当することが明らかであった
 ・逮捕された側もピアノシューズの製造販売が特許権侵害であることを知っており、故意であることが明らかであった
 
 今回はこれらのことがあっての逮捕だと思いますが、それでも専門的なことを警察の現場で検討するのは、骨が折れることだと思います。

 参考までに申し上げますと、特許権侵害(意匠権侵害、商標権侵害)には知らなかったは通用しません。
 公報が発行されている以上、侵害者には過失があると推定されます(特許法第103条)。

 でも、単なる過失であれば逮捕まではされないように思います。
 今回は、おそらく故意であったと認定されて逮捕になったと個人的には思っております。 

5.経営者はどうするのか

 レアケースとはいえ、会社の代表が逮捕されると経営的にかなりのダメージを受けてしまいます。
 逮捕されないにしても、侵害訴訟で多額の費用を使い、さらに敗訴して損害賠償も行うとなると、会社が倒産しかねません。
 
 故意に侵害するのは論外として、新商品を開発するときは、先に特許調査をしてから開発することをお勧めします。
 先に特許調査をすることで、他社技術も知ることができかなりのメリットがあると考えます。
 
 この記事が御社の発展に寄与することを願っております。
 

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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