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ある美術館の話

世界中からたくさんのひとが訪れる、人気の美術館がありました。
ただ、その美術館はちょっと変わっていて、
「未完成の作品」を展示しているのです。

芸術的で素晴らしい、優れた、綺麗なところだけでなく、
様々な欠点も多くありますが、その欠点が、作品の魅力でもありました。

また展示方法も独特で、作品それぞれの全てを見せることはせず、
一部分を切り取ったり、他の作品と絡ませたりして、展示をします。

さらに、この美術館では作品をより魅力的に、
また面白おかしくみせるために、時には作品を馬鹿にもするような
「キャプション」(解説)をつけていました。
このキャプションは、この美術館の大きな特徴・戦略でもあり、
多くの人々が訪れる理由のひとつでもあります。

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来訪者はそのキャプションも読みながら、作品を観賞します。
自分の目で、独自の見方をするひともいれば、
キャプション通りに作品を見るひともいます。

作品をみて、笑ったり、泣いたり、怒ったり、悲しんだり、
応援したり、学んだり、罵倒したりします。
時には石を投げつけることもあります。

…そこは、作品に石を投げることもできる美術館だったのです。

ーーー

ある日、作品のひとつが、投げられた石によってひどく傷んでしまい、
展示台から落ちてしまいました。

そして、落ちたその先は、奈落の底でした。
「花」が描かれたその作品を回収することは、、できませんでした。

ーーー

作品を傷つけた来訪者にはもちろん責任があります。
決してやってはいけないことです。作品は攻撃してきません。

ただ僕は、作品を展示して、その作品によって商売をしているのに、”ウケる”切り取りや、演出をし続け、
来訪者の悪い部分のマナーをじゅうぶんに取り締まらず、
そして作品たちの摩耗にも気付かず、メンテナンスを怠った美術館にも、
大きな責任があると思います。

そして、そういった美術館があることを知っていながら、
楽しむだけ楽しんで、何もしなかった僕たちも、
もうこんなことが今後は起きないように、起こさせないように、
考えていかなければならないと思います。

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