見出し画像

懐かしの温度

「この酒は、ぬる燗でお召し上がり下さい」
 奈良駅で地酒を直売していたスタッフにそう言われ、私は家に帰ると早速その「ぬる燗」とやらを試してみたくなった。
 調べてみるとなかなか難易度が高い。35℃で人肌燗、40℃でぬる燗、45℃で上燗。台所で温度計を探したが見つからない。育児疲れで寝ている妻を起こすのは申し訳ない。どうしようか迷った時、哺乳瓶が目に止まった。
 これだ!
 飲みごろ温度チェッカー付哺乳瓶。赤ちゃんに丁度いい40℃になると、赤ちゃんのイラストが赤くなる便利グッズだ。なるほど、ぬる燗は乳児の記憶を呼び覚ます懐かしの温度だったのか。
 哺乳瓶に日本酒を注いで、沸かした湯の中に入れる。ほどなく顔が酔ったみたいに赤くなった。
 さて、念願のぬる燗を頂くとしよう。
 私は乳首に口をつけて哺乳瓶を傾けた。

 ちゅうう…

カタン…

 音に振り向くと、妻が軽蔑の眼差しで哺乳瓶を咥えた私を見つめていた。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

のりてるぴか

ショートショート書いてる人。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。