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あのザッポスCEOが語る「自律型」組織とは?

革新的な経営で知られる靴のネット通販ザッポスのCEOトニー・シェイが、自社の「自律型」の組織運営について語っているインタビューがマッキンゼー・クォータリーに載っていて、とても示唆があるので訳してみた。

「ホラクラシー」という、上司や部下という階層構造を無くした、フラットな構造で役割ベースの組織運営は日本でも最近関心が高い。この「ホラクラシー」の文脈も踏まえつつ、ザッポスの「自律型」組織運営はどういうものなのかが語られており興味深い。

(以下翻訳中の強調は筆者によるものです)

「自律型」組織とは?

マッキンゼー:「ホラクラシー」はザッポスにとってどんな意味をもっていますか?

トニー:みんな「ホラクラシーとは何か」「どんなツールを我々が使っているのか」といったテクニカルな部分に目が行き過ぎてるかなと思いますね。私達が社員にいつも言ってきたのは、自分が「情熱を燃やせるもの」「得意なもの」そして「会社に価値を提供できるもの」がうまく交差するところを探しながら仕事しようということで、これは実は昔から変わってないんですよ。

 個人的には、「ホラクラシー」という言葉で、以前から私達の文化に組み込まれていたものを改めて再確認している感じです。親切な上司やCEOに依存するのだけは避けないとダメなんです、だってそれが失敗の元凶ですから。従業員自身が組織の中で自由に動き回ることが重要なんです。

私達の組織図はリアルタイムにオンラインで確認できますし、一日に50回変わることもある。1500名の社員全員が、他の人がどんな目的を持って、責任を担っているかを誰でも見られるようにしているんです。つまり、「自律型」の組織運営の手法や会議が日常的に組み込まれていて、全てオンラインで完結します。ポリシーの策定ですら、全ての従業員がオンライン上で参加して、組織を作り上げていくことに貢献できるようになっています。なので、「ホラクラシー」というより「自律型組織」といった方が正しいかなと思います。

「都市」は優れた自律型のシステム

マッキンゼー:会社が「自律型組織」で、CEOに依存してはならない、となると、どうやって会社の方向性を位置づけていくのですか?

トニー:植物を育てている「温室」を想像してもらえばいいと思います。それぞれの「植物」が従業員です。普通の会社だと、CEOが一番高くて、強くて、皆がいつかそうなりたいと仰ぎ見る「植物」ですよね。うちの会社だと違うんですよ。ここでの私の役割は温室の「設計者」です。全ての植物がきちんと花咲くように、最適なコンディションが保たれるように注意を配るんです。

「都市」もいい例ですね。都市は人間が作り上げた組織のうち時の試練に耐えてきたもので、会社より古くからあります。そして、再生する力(レジリエント)や適合していく力も持っている。さらに、会社に比べて階層的でもない。

どこかで読んだんですが、マンハッタンではどこでも、文字通り3日分の食料が流通しているそうです。中央にその計画を立てる存在はないのに、です。代わりにそこにあるのは、消費者や働いている人が、自律的に「自分が好きなように」食料を消費していて、それが供給する側に機会を与えているわけです。なので、もし自然災害があっても、その自律的システムはうまく機能して、橋が倒壊したとしても、マンハッタンでは食糧不足は起こらない。

 都市は時の試練に耐えてきただけでなく、生産性やイノベーションという点でも大きな実績があります。一つ面白い数字があるんです。都市のサイズが2倍になると、住民当たりのイノベーションや生産性は15%増える。一方で、会社の場合は、逆です。大きくなればなるほど、官僚的になって従業員のイノベーション力は落ちていく。

都市の首長は、住民に「これをやりなさい」とか「ここに住みなさい」とか言いません。都市が提供するのはインフラです。水道、電気、下水処理などの。あとは守るべき基本的な法律ですね。で、多くの場合、都市が成長してイノベーションを引き起こすのは、住民や企業などの組織が自律的に活動した結果なんです。

ザッポスを支える3つのコア

マッキンゼー:ザッポスの核となる規範はなんですか?

トニー:その点について言うと3つの異なる柱があり、それがザッポスの基盤となっています。常にそれらがきちんと機能しているかに気を配ってるんです。

1つ目は文化と価値観(Value)です。他の企業も我々の価値観を取り入れるべき、といってるわけではないです。ある研究によると、面白いことに価値観それ自体が重要なのでなくて、きちんとそれを定めて、そこにコミットし、組織全体にきちんと紐付けることが重要なんです。つまり、その価値観にもとづいて人を雇ったり、あるいはクビにしたりする。大半の大企業は、「コア・バリュー」や「基本理念」といったものを持っています。でも、それって社員からすると、まるでPRの言葉みたいに聞こえます。会社のウェブサイトとか、受付のロビーとかで見かけるけど、誰もそこに関心を払うことはない。

ザッポスでは、自社の文化を定義づけるものとして、10個の「コア・バリュー」を作っています。これらは「クラウドソーシング」、つまり、社員に我々のコア・バリューは何かと問いかけて作ったんです。そして、1年ほどかけてあれこれ検討して、最終的に10個にまとめました。これが我々の文化を作り上げ、社員の毎日の仕事の言語になっています。このコア・バリューは、自然な形で毎日の会話に出てくるので、それは言語の一部となり、そうすると我々のマインドセットとも繋がってくるんです。こうして、最初の軸である、価値観と紐付ける、というのが浸透していきます。

2つ目は目的です。我々は、個人でも組織のレベルでも、目的を特に重視しています。そして、ホラクラシー型の組織は、個人と組織が持つ目的を繋げることがやりやすくなります。我々は「"WOW"という驚きの体験と共に生き、それをお客様に届ける」というミッションを我々が存在する目的の根幹に置いています。

そして、これを基本として、個々の役割に落とし込んでいきます。両者がうまく繋がっているんです。従業員はこの繋がりを意識しつつ、自分の役割を選びますが、それは常に組織のコアの目的と紐付いています。こうした目的の捉え方は、まだまだそうなってはいませんが、我々のコア・バリューとして常に意識するものにしたいですね。まだ毎日の言語になってるとは言えないんですが、もっともっとここを大事にしていきたいんです。

3つ目は私が「マーケットベースのダイナミクス」と呼ぶものです。都市のように、正常に機能するマーケットを持つことはすごく重要で、独占を排除し、社内のチームが互いの「顧客」になります。多数の人が参加できて、素早いフィードバックを回せて、クラウドソーシング型の参加を可能にするインフラのために、社内のツールやシステム、そして「通貨」(注: ゾラーと呼ばれる社内通貨)を構築しています。例えば、株式市場と似た仕組みの商品仕入れを想像してみてください。従業員が、人々が株式市場で投資するように、商品仕入れに「投資」するような仕組みを。

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長くなったが以上見てきたように、トニー・シェイ特有の表現でうまく「自律型」組織のポイントが説明されている。 これを読んで思い出したのがメルカリのバリュー。メルカリの経営陣はいつもこのバリューがお題目でなく、事業の根幹にあることを強調しているけれど、これはザッポスとも共通する。言うは易し行うは難し、の「バリュー」をもとにした経営、だが現代のビジネス環境では改めて考える必要があると思う。

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★ボーナス・トラック★
組織にとって「ミッション」や「バリュー」が大切だということは最近よく言われます。ただ、スタートアップ以外の組織でこうした「言葉」をうまく導入するのは簡単ではありません。では、どうすればいいか。私の実際の経験を踏まえてコツを書いてみます。

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