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これからの編集チームのつくり方・ライターの育て方:変化とスピードの時代に求められる個人のエンパワーメント

 最近、編集者の僕のところに「ライターを育ててほしい」という相談が増えてきている。企業がオウンドメディアを立ち上げるに当たって、ライターを社員で構成するケースが増えているためだ。

 ライターをどう育てるか・・・? これまで以上に企業にとって情報発信の重要性が高まり、そして読者のニーズの変化が激しくなっている現在、僕はライター一人ひとりをエンパワーメントすることが、時代のスピードに乗り、メディアを持続させるためのカギだと思う。

 つまり、新しい時代の編集長には、編集チーム内で目的意識を共有しつつ、ライター自身の「自律成長」を促す役割が求められている。

オウンドメディアの現場で広がる「内製化」

 コンテンツの力を使って採用促進やマーケット拡大といった目的を達成するために、オウンドメディアを立ち上げる企業が増えているが、その編集チームを社内で作りたいというケースが増えてきている。一言でいえば、「編集の内製化」である。IT業界では例えば、Webサイトやスマホのアプリを作る際、外部のプロに委託していたものを内製化する動きがみられてきたが、この動きが今、編集の世界にも起こっているのだ。

 なぜ編集を内製化するのか? それには3つの理由があると考えている。まずは、企業が情報発信する重要性が今まで以上に高まってきたことが挙げられる。企業にとって情報発信がもはや必須事項となる中で、編集チームをどこかに必ず作らねばならないならば、外部に委託するのではなく、内部に専属のチームを持とうということになる。

 2つめの理由は、スピーディーに、かつ継続的に情報発信をするためだ。テクノロジーの進歩が速く、新しい競合の出現や読者のニーズの変化など、状況がめまぐるしく変わる現在、メディアは継続的かつ柔軟に対応していかなければならない。そんな中で、ライターが社内にいるならばリソース配分の調整を柔軟にしやすいし、社外ならば相手の財政事情や方針の転換があった場合、どう対応してもらえるか分からない。編集を内製化することは、メディアに安定感とスピード感をもたらすことになるだろう。

 そして3つめの理由は、社員個人のソーシャルパワーを高めるためだ。「フェイスブック」や「ツイッター」などのソーシャルネットワークサービスで、社員個人が情報発信する能力が高まることで、彼らの採用力、求心力も高められる。個人のコンテンツ発信力の向上が、組織全体の利益につながるのだ。

 ちなみに、「編集の内製化」とは言ったが、これは正社員だけで編集部を作ろうというのではない。正社員、フリーランス、受注者、発注者・・・といったライターの働き方は関係なく、そのメディアの持続的な成長にコミットするチームとして仕事に取り組む形態を指していることを付け加えたい。

カリスマ編集長、ヒエラルキー編集部の限界

 テクノロジーの進化が激しく、編集を取り巻く環境がめまぐるしく変化する中では、編集チームのあり方や編集長の役割も変わってくる。

 昔ながらの編集部は、カリスマ的な編集長を頂点としたヒエラルキー的な組織が多かった。特集などの企画は編集長の意向が反映され、ライターの記事は編集長の赤ペンで真っ赤に直されたものだ。しかし、このような従来型の編集チームには、現在の時代感に合わない問題が生まれてくる。

 最大の問題は、編集長の器と成長がメディアの成長の限界となってしまうことだ。そもそも情報を取り巻く環境がこれだけ目まぐるしく変化する中で、会社や組織はそのスピードについていけない状況になっている。つまり、個人の変化のスピードに組織の変化が追いついていないのだ。その組織が編集長というたった一人のカリスマ的センスに依存していては、時代の変化にますます追いつけなくなるのではないだろうか?

 また、編集長が病気になったり、辞めてしまったりすることがあれば、メディアが継続できなくなる弊害もある。編集長がいなくなると、再現性がなくなってしまうリスクがあるのだ。さらに、ライターにとっても、そんなヒエラルキー的な組織は、魅力的ではないのでは? よほど編集長を尊敬していて、師事したいということでなければ・・・。

編集チームの関係はフラットに、編集長の役割も変化

 それでは新しい時代の編集チームのあり方とは何か? 僕はこれからの編集チームは「目的と読者をトップに据えたフラットな組織」になるのではないかとみている。

 このフラットな組織の中では、当然編集長の役割も変わる。編集長はまず、自分が企画したことをトップダウンでライターに書かせるのではなく、ライター陣の力の総和を最大化させることを目指すべきだと思う。そして、メディアの目的を共有しつつ、ライター一人ひとりをエンパワーメントしていくことで、組織では追いつけない個人の変化に適応していく。

 この意味で、編集長には「一つひとつの記事でパフォーマンスを出す」こと以外に、「ライターを育てる」という仕事が長期戦略で求められるようになる。僕は将来的に、この2つの目的の優先順位が同じぐらいになるのではないかと考えている。

 一方、新しい組織でも、従来からある組織としての長所は生かす。知見を溜めたり、ネットワークを共有したり・・・といった、組織ならではの利点はたくさんあるはずで、これは外部委託によるメディア運営ではなかなか利用できない資源である。読者であるペルソナが組織内に数多くいることも、内製化された編集チームの大きな利点となるだろう。例えば、メディアのコンテンツについて、こうした内部のペルソナに定性的なコメントをもらえるなら、それは大いに利用するべきだ。

「この原稿は、どこまでも君の仕事だ」

 組織のあり方が変わると、ライターの育て方も必然的に変わっていく。お分かりのとおり、ライターの育て方を考えるということは、編集チームの組織づくりについて考えることと同義なのだ。編集長とライターの関係も上司と部下ではなく、時に学び、時に補完するような関係になるだろう。

 記事を作成するに当たっては、まず「なぜその記事を書くのか?」「読者の悩みは何か?」という目的感をライターと共有することが大切だ。しかし、企画はライターから引き出し、実際に「何を」「どう書くか」についても、ライターにまかせる

 そして、出来上がった原稿を見てフィードバックする際も、疑問点などを編集長が質問することで、ライター自身が「何がこの記事に足りないか」を考えるように促す。あくまでも編集長がライターに対して、「この原稿はとこまでも君の仕事だ」と口だけでなく態度で示し続けることで、ライター自身が記事を主体的に作成し、成長していくように仕向けなければならない。

 一方で、言葉じりや文章の緩急、抑揚のつけ方、段落のボリュームバランスなど、テクニカルで「型化」できるところについては修正も入れる。これは経験のある編集者が直していい部分だと思う。こういうことは、誰かに直されたり、いいものをたくさん読んだりして、最終的にはライター自身が学ぶしかないのかもしれない。

 コンテンツを作成する毎日の中で、同じ局面にぶつかることは皆無といってもいい。いろんな局面が現れ、とっさの判断を必要とされたときに、パッと反応できるようにするためには、日頃の経験の蓄積と、良いものを見続けることが求められる。これはライターに限らず、どんな職業でも言えることかもしれない。

 読者のニーズや情報発信の形が猛スピードで変化する中で、ライターをエンパワーメントすることでメディアを進化させていく――新しい役割を担う編集者の挑戦は続く。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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