500ドルのマラソンシューズは買いか?
この記事を読んで、あなたが得られるかも知れない利益:アディダスの最新マラソンシューズは買う価値があるのか。よいシューズの条件とは。新製品開発の秘密をナイキvsアディダスの熾烈な競争から学ぶ。
アディダスの新製品
アディゼロ・アディオス・プロ・エボ・ワン(The Adizero Adios Pro Evo 1 以下エボワンと表記)という長ったらしい名前のシューズが話題です。
アディダスがマラソン競技のために開発したもので、一足500ドル(約7万5千円)という高値で話題を呼んでいます。
レビューアー(頼まれて製品の評価をする人)の評判は上々で、軽い、速いフィット感があると、ポジティブな感想がほとんどです。
アディダスは、この新製品のターゲットを、レースを3時間半以内で走る選手に絞って、現在500足を販売しています。
その他のエボワンの特徴
・軽さ: 139グラム
・耐久性:一度のレースで使い切りの仕様
・素材: 素材自体がハイパフォーマンスなものを厳選
二強対決の図式
マラソンシューズは、ナイキが長らく、ベィポフライ(Vaporfly)シリーズでこの市場に君臨してきました。
その特徴は靴底にカーボンファイバーのプレートが入っており、これが一歩踏み出すごとに上手にエネルギーの出し入れを行い、競技者のパフォーマンスを助けると言われています。
この機能に加えて、靴底に装備されている衝撃吸収材が長距離ランナーを前に進める働きをし、結果平均的なシューズより、タイムを4%縮めているのです。
軽さが勝負ということで、この市場はカーボンファイバー製のシューズでの競争になっており、ニューバランス(New Balance )、ソーコニー(Saucony)、ホカ(Hoka)等の中小メーカーがナイキ、アディダスに続いています。
勝負の行方は?
アディダスは「エボワンはベィポフライに比べて、25%も軽い」と胸を張りますが、価格が高いのがネックです。
ベィポフライは250ドルですから、エボワンはその倍で、耐久性もベィポフライが4回のレースに耐えられるところを、エボワンは1回と、コストパフォーマンスはナイキが勝っています。
研究者の感想は概ね「57グラムの差は、パフォーマンスに大きな影響は与えない、せいぜい20秒位タイムが縮まるくらいだ」というところです。
結局、個人差だというのです。
要はそのシューズにしっくりくるか、であり、競技者のバイオメカニクス(個人の生体力学)の違いである、というわけです。
結局、最終判断は「自分にあうか」を消費者自身が判断する、ということですね。
シューズ戦争に学ぶマーケティング
今回のナイキvsアディダスの教訓は、「消費者に使ってもらい、合うか合わないかを自分で決めてもらう」ということだと思います。
そのために大事なことは、
1.製品開発のこだわりをはっきり表現する
2.製品の素材に関する情報開示をしっかり行う
3.返品ポリシーを緩やかにすること
ではないでしょうか。
特に3は、「こだわりの製品だから、消費者によって合う合わないがある。じっくりなじませて使ってもらい、合わなければ返品を受け入れます」というポリシーを全面に出すことにより、ファンを創る戦略です。
野呂 一郎
清和大学教授
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