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USスチール買収異聞。

この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:日本製鉄による、USスチール買収問題。バイデン大統領はアメリカ企業であるべきといいつつも、私企業の問題と突き放したカタチ。この問題は、しかし、製造業に関する日米の哲学の違いが垣間見える。5Sとは何か。

日本製鉄の買収戦略

USスチール買収を巡る、アメリカ側のキーパーソン、全米鉄鋼労働組合マッコール委員長の怒りのインタビューを見ました。

これによると、マッコール氏は我々労組に対して、事前の話もなく一方的で、組合との労働協約にサインがなければ、法的に正当な買収者とは認められない、と息巻いています。

しかし、日本製鉄とUSスチールとの間には、買収の合意ができているわけです。

僕は、これは日本製鉄の戦略であり、最初からやっかいな労組をスルーするつもりだったのではないでしょうか。

米国法でも、労組を抜きにして両社の合意文書があれば、買収は成立するとの規定があるはずです。

しかし、USスチールは古き良きアメリカ製造業の象徴であり、アメリカ人の心のよすがであることを考えると、労組との話し合いは必須だったのではないでしょうか。

この件で思い起こすのは、1989年にソニーがコロンビア・ピクチャーを買収したとき、全米中で「日本がアメリカの魂を買い漁っている」と轟々たる非難が巻き上がったことです。

日本製鉄は、この先人のあやまちに学ばなかったのでしょうか。

英語云々ではなくて、日本企業の口下手は相変わらずだなあ、と強く感じますね。

口下手っていうのは、話すことをしたがらない、という意味です。

沈黙は金、だとか、男は黙ってサッポロビール(下の動画)、とか、物言えば唇寒し、とか、話すこと、相手と対話することはマイナスでしかない、という文化はまだまだ健在で、国際交流にマイナスの影響を与え続けています。

USスチール買収の重大性

マッコール委員長は、買収は国家の安全に関わる大問題だと、強調します。

要するに鉄は戦略物資であり、特に兵器生産には欠かせません。

かつて日本でも「鉄は国家なり」と言われ、八幡製鉄から始まった、日本製鉄も国家の庇護を受けてきた歴史があります。

USスチールとしては、鉄を創ることは国家事業という正論をバイデンにぶつけ、日本を翻意させようという腹でした。

しかし、今回のアメリカの空気は、「日本に経営権を渡すバカいるかよ」の大合唱というわけには行きませんでした。

その一つが、施設の老朽化です。

基本ができてない?USスチール

映像では、工場のところどころで老朽化した設備、機器が目につきます。

日本の工場労働者は、これを一見しただけで、こう思うでしょう。

「5Sができてないな」と。

5S(ごえす)とは、生産管理の根本である、5つの姿勢をいいます。
1.整理
2.整頓
3.清潔
4.しつけ
5.清掃

のことを指します。

筆者授業より

無造作に機材が製造現場に投げ捨てられたかのような映像を見るにつて、僕の中で、USスチールは生産管理の基本ができてないな、と思った次第です。

いや、生産管理を少しでも学んだものは、直感的にそう感じるはずです。

5Sは日本の文化だから、それを守れるので、異国に押し付けても意味がない、という向きもあります。

しかし、確かに5Sは日本の文化でもあるのですが、よいものを創るための合理的な精神論であると、僕は信じています。

5Sと神道

5Sとは一言で言えば、ものを大事にする精神です。

もっというと、草木の一本一本に魂が宿っている、という神道の価値観がそこにあるのではないか、と考えているんです。

鉄の欠片は、アメリカ人にとってはゴミに過ぎません。

しかし、日本の労働者にとっては、生命のある物体であり、更に言うと工場は、生きている部品を収納する聖なる保管庫であり、神道の申し子である日本人はそこをきれいにせずにはいられないのです

5S=神道は、あくまで僕の勝手な説ですが。

って、やっぱり、神道なんてのがでてしまった日には、やっぱり工場っていう現場は日本独特なんですね。

でも、日本製鉄がUSスチールを所有することになったら、まず5Sを徹底することは間違いないですよ。

これをやることが、USスチール再生につながると、信じています。

野呂 一郎
清和大学教授




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