バイデンvsオバマどちらが広島に心を寄せたか。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:メディアで報道されたバイデン広島平和記念資料館訪問を読む。The Wall Street Journalの報道は、メディアで言われているほど、アメリカ寄りではないという事実。微妙な案件に関して、The Wall Street Journalの表現の仕方をほめる。トップ画はhttps://qr.quel.jp/pv.php?b=3MmhQdQ
オバマ資料館訪問の真実
G7の首脳が広島平和記念資料館を訪問したことに触れて、ある報道番組はこう表現しました。
「The Wall Street Journalは、日本は『バイデンが何分資料館にとどまったか』、だけに関心を示した、と皮肉を込めて報道しました」。
5月19日付けThe Wall Street Journal電子版は、たしかに見出しでそういうことを書いています。
しかし、内容を見ると、これはテレビ番組の解釈のような、「日本は、むりやりアメリカに原爆投下の反省を求めている、勘違いだ。」というニュアンスはないことがわかります。
記事の全体的なトーンは、むしろオバマ大統領への批判です。
2016年5月、当時のオバマ大統領も同資料館を訪問しましたが、訪問時間はたった10分だったというのです。
今回The Wall Street Journalは、バイデン氏は「11時20分から12時過ぎまでいた」とはっきり書いています。
そして、オバマ氏は正面玄関を素通りして、いくつかの展示しか見なかった、とも付け加えています。
The Wall Street Journalは、資料館館長のこんな言葉も引用して、オバマ大統領をあてこすっています。
「資料館は特定の展示物だけ見て、全体をを把握できるようにはデザインされてない」。
オバマ氏への批判が目立つ米マスコミ
くだんのテレビ番組は「日本は必死にアメリカに原爆のことを考えてもらいたいと思っているけれど、それはおかしいとThe Wall Street Journalは皮肉っている」と主張しました。
違うのです。
申し上げたように、オバマ氏への意趣返しというか、皮肉、いや批判です。
近年、オバマ大統領へのこうした批判が米マスコミでは目につきます。
一言で言えば「オバマは口だけで何もやってこなかった」という主張です。
その象徴が広島訪問だったというのです。
もちろん、資料館をくまなく見て回れば、アメリカの世論に原爆投下否定のアナウンスメントを与えてしまうという、政治的な配慮はあるでしょう。
しかし、The Wall Street Journalの書き方は、そんなことを超えてオバマの個人的な無関心を非難しているように見えます。
考えてみれば「核なき世界」なんてのも口だけだったし、(それでノーベル平和賞は取りましたけれど)、朝鮮半島も「戦略的無視」なんて都合がいい言葉で何もやらなかったし、アメリカを分断させトランプの台頭を許した責任もあるのではないでしょうか。
もっとも、米マスコミがアメリカの現状をなげくあまり、過去の大統領に八つ当たりしている部分もあるかもしれませんが。
事実をして語らしめるジャーナリズム手法
さて、最後にこの記事は、「語らずして訴える」という巧みな手法で書かれていることを指摘したいと思います。
記事の構成はこうです。
1.首脳の資料館訪問の事実
2.いきなりオバマ訪問の事実の提示
3.バイデンの訪問の事実
4.原爆投下の事実
5.被爆者の談話
6.関係者による「首脳らは平和に寄り添う姿勢を見せ、資料館訪問は成功」との発言を紹介。
この記事で注目すべきは、The Wall Street Journalの主張(コメント、意見)が一切ないことです。
すべて事実だけを記しているだけです。
しかし、行間からにじみ出てくるニュアンスがあり、それで読ませる、という手法です。
記事のニュアンスは受け取り方によりますが、僕はこう読みました。
一読、「これは上手いな」と感じたのです。
アメリカの読者の手前、原爆投下責任について少しでも触れる訳にはいかない、しかし、その制約のなかでもThe Wall Street Journalの見解として原爆投下の重さも伝えるべきだ、それが表現されていたと感じた次第です。
ですから、日本のテレビの「The Wall Street Journalはバイデン資料館訪問を冷ややかに見ている」という解釈は事実と違い、世間に誤解を与えるものと申し上げておきますね。
今日もおつきあい頂き、ありがとうございました。
それではまた明日、お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授
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