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世界のM&A激増の背景は、コロナでビジネス常識が通用しなくなったから

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:マーケットサイコロジー(市場心理)とは何か。市場は”気”で動いているという真理。コロナがビジネスそのものを変えてしまった事実。今後M&Aはどうなるか。以上に対する考察。

なぜ、M&Aが増えているのか

普通M&A(企業の吸収・合併)って、市場が落ち着いているときに増えるものなのですが、コロナ禍において、世界のM&Aは増えているのです。

コロナで世界中が上へ下への大騒ぎの時に、増えているのはなぜなのでしょう。

BusinessWeek2021年11月1日号(P27-28 Deals!Deals!Deals! 買収、買収、買収!)によれば、理由はこうです

コロナで企業が戦略を根本から考え直したから。

経済活動のすべてが変わってしまいました、人々の消費行動も、そして働き方も。

そんな中、企業は新しいチャンスが見えてきたのです。そして、自分たちの欠点も見えてきたのです。

マーケティングが機能しない時代

これをゴールドマンサックスM&A部門の共同チーフ、ステファン・フェルジョイスさん(Stephan Feldgoise, co-head of global merger and acquisitions at Goldman Sachs Group Inc.)「根本的なリポジショニング」と表現しています。

リポジショニングとはマーケティング用語で、他者の製品が狙う市場と違う市場にその製品を置くことを言います。

市場という概念自体が、コロナでなくなってしまったし、市場の主役である消費者自体が、行動原理を揺さぶられて、もはや消費者も読めない中、マーケティング自体が機能していません。

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根本的なリポジショニングとは、製品やサービスの市場における立ち位置を変える、ということにとどまらず消費者、消費者行動、ターゲット、ポジショニング等、マーケティングそのものを見直す、ということに他なりません。

これまでのビジネスの常識を疑うべき時代になったのです。

ビジネスの常識が一変した時代に、いままでM&Aなど考えなかった企業が、他企業の持っているリソースが、急に魅力的に見えてくるのは、ある意味合理的です。

株主の心理が変わった

これまでは株主は、M&Aに懐疑的でした。

買い手が高値で買いすぎて、結果的に物件の価値を壊してしまっていると思っていたのです。

企業を買収したというニュースを聞くと、投資家たちは買った企業の株を売却していたのです。

でも最近は正反対のことが起こっています。

投資家はM&Aをはやし立て、買収案件が報道されると、他社を買収した企業の株を買いまくって応援するようになったのです。

変われば変わるものですね。

株主が変わると、株主至上主義の企業も影響を受けます。

かのミルトン・フリードマンはこういいました。

「企業の唯一の目標は、株主のために金を儲けることだ」。

ことほどさように、欧米企業は株主に物理的にも精神的にも隷属しています。

そのタガが外れたのです。

CEO、取締役会メンバーたちは、いま、M&Aに夢中になっています。

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それは、株主のために金を儲けるより、M&Aを行って自分たちを大きくしたい、その経験をしてみたい。そう思うようになったというのです。

BusinessWeekいわく、「投資家が熱狂的な楽観主義にとりつかれ、それが企業のCEOや取締役会に伝染した」。

その他の理由

もちろん低金利の時代というのもあります。

企業はほぼ利息なしでお金を借りられます。

目の前に大金がある。それを何とか使いたいという衝動に駆られ、企業を買うという行動に出たというのです。

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BusinessWeekはアニマルスピリッツが呼び覚まされたことも、理由だとします。

アニマルスピリットとは、かのジョン・メーナード・ケインズが唱えた概念で、不確実な状況における逆境を跳ね返す原動力、とされていますが、僕はあえてもっと生来的な意味でこの言葉をとらえ、制御が効かない人間の気まぐれであり、イレギュラーな精神の働きと考えます。

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近年、経済学は行動経済学、神経経済学というジャンルを作り、決まりきった人間の行動モデルを捨てて、人間行動を規定から実験に落とし込むことで解明しようという動きがあります。

アニマルスピリット理論は、これを真っ向から否定するものです。

アニマルスピリットは人間の本質であり、規則性がない自由な心の働きを指す言葉です。

コロナが世界を席巻し、気がつくと人類はまるで焼け野原を呆然と見上げていました。

アニマルスピリット は、まさにこういう時に発動するのです。こういう心境がM&Aを求めたのです。

経営者たちは、普通のビジネスをする機会をコロナによって奪われました。

社員とのミーティング、従業員や得意先へのあいさつや訪問、対面の議論、交渉。

デジタルに飽き飽きした経営者は、人間らしいビジネスに飢え、デジタル空間を増やすことではなく、物理的な人間と工場の数を増やすことを選んだのです。

M&A実施企業の業績は好調

英コンサルティング大手ウィルス・タワーズ・ワトソンPLC(Willis Towers Watson PLC)のデータによれば、過去3四半期、どこかを買収した企業の業績はそれをしなかった企業より2%上回ったことが明らかになっています。

このM&Aブーム、コロナ禍が収まれば終息するのでしょうか。

僕の心配は、ますます大が小を食う動きが加速することです。

中小企業はしょせん、M&Aで大企業に飲み込まれる運命なのでしょうか。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また明日お目にかかりましょう。

                             野呂 一郎


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