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【園館訪問ルポ】自然をまなざすこと、書き留めること──井の頭自然文化園「資料館 園長室」(東京都武蔵野市)

歴史を辿れば1942年、戦時真っ只中に産声を上げた井の頭自然文化園
古きよき武蔵野の自然を保全し、近隣に暮らすひとをはじめ、多くの人々を癒し続ける郊外のオアシスのような場所です。

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飼育されている動物を見るだけではなく、併設されている彫刻園で北村西望さん作の塑像と向き合ったり、井の頭池で野鳥を探したり。様々な楽しみが広がるこの園は、自然に触れた人々が生み出す「文化」も幅広く伝えています。

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重厚な構えの「資料館」に、「園長室」という小さな部屋があります。本物の園長室ではなく、様々な資料を通して、「動物園の園長って、どんな仕事?」ということを問い掛ける場所のようです。

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足を踏み入れてみると、剥製に細密画、更にはプログレッシブ・ロックの名盤(ピンク・フロイドの「原子心母」!?)まで。何だかマニアックで、好事家の書斎のようにも一見すると感ぜられますが、机上や棚に見える古今の書影からは、「ヒトの文化と自然を生きるものたちとの関わり合い」を連想させるようなテーマが浮かび上がってきました。

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数多くの革新的な動物園施設を作ってきた若生謙二さんの『動物園革命』。動物園という場が時代の中で変化しつつあることを印象付けます。隣に置かれた『股間若衆』の筆者、木下直之さんにも、各地の動物園の変化を文化とともに辿る『動物園巡礼』という近著があります。

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動物たちの最近事情』は上野動物園の園長を務めた中川志郎さんのコラム集。今でこそネットを通じて動物たちの最新ニュースは瞬く間に全国を駆け巡りますが、間近で動物を見てきた飼育員さんたちのエッセイが貴重な記録だった時代がありました。

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同じく上野動物園の園長を務めた小宮輝之さんの『昔々の上野動物園、絵はがき物語』。動物園という場所がどんな変化を遂げてきたか、お土産の代表「絵はがき」から追います。
実践的な『野生動物救護ハンドブック』から、「動物慰霊」の歴史を問い掛けた『どうぶつのお墓をなぜつくるか』まで。身近な生きものの暮らしをつぶさに見つめた『ネズミの生態』や『鮭の一生』といった古書も積まれています。

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書棚には『サーカス誕生』や『御鷹場』といった、現代とは違った形での人と動物の関わり方を見つめた書籍や、『物語 世界動物史』『資料 日本動物史』といった、人と動物の総覧的な関係史も並んでいました。

「園長室」に(無造作に?)陳列された書籍の数々を眺めながら、私は「自然を書き留めること」について思いを巡らせていました。

ヒトはことばを使う生きものであり、ことばを後世に残すために文字が用いられます。
文字で記された記録は、自然「そのもの」を表現することは出来ないけれど、比喩やアナロジーを生み、新たな表現の種を蒔くことがあります。

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そういえば、私は最近、野外に出る時は小さなフィールドノートを持っていくようになりました。

外に出て自分の目で見聞きし感じたことを、その場で直感的に書き留める。「自然に」浮かんできたことばを、信じてみる。そういうやり方でノートの隙間を埋めていくと、自分の表現のクセやリズムが見えてくる場面に出会うことがあります。

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自然を感じづらくなっている都市社会の中で、ヒトが造るお仕着せの「カルチャー」や「トレンド」に疲れたら、自然や生きものと向き合って自分なりのことばや感じ方を探してみるのも、「文化的」な休日の過ごし方なのかも知れません。

人心が荒れ、創作をする人たちの発想力も戦争に動員されていった時代から今に至る武蔵野の園。
その片隅で出会った先人たちの記録の数々は、「自分のことばを紡ぎ出す」大切さを暗に示しているように思えました。

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