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【園館訪問ルポ】足もとの豊穣さに目を向ける──富山市ファミリーパーク「六泉池」/「ふるさとの小路」/「とんぼの沢」(富山県富山市)


富山県を東西に分ける呉羽丘陵(くれはきゅうりょう)の自然を活かして1984年に開園した、富山市ファミリーパーク

今でこそ地域の自然に着目した施設も増えていますが、動物園ではしばしば、華やかな海外産の動物たちに注目が集まりがちです。

その中で日本在来の生きものたちの姿を伝えることに開園当初力を入れた同園の取り組みは、先進的なものでした。

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動物の収集は困難を極めた。動物園動物を扱う動物商なら、金額を積めばたいていの動物は調達できるが、日本の動物は法の網の目がかぶせてあり、金で解決できる対象ではなかった。全国の動物園の片隅で傷病鳥獣として保護され野生に返せない個体を一本釣り的に探し出す長い苦労があった。

富山市ファミリーパークの名誉園長で日本動物園水族館協会(JAZA)の会長も務めた山本茂行さんは、「曖昧な日本の動物園」(『動物園というメディア』収録)という論考の中で、「おもらい動物園」とまで言われた開園当初をこのように振り返っています。

しかし、身近な自然の豊かさへの気付きをテーマとした園の基本姿勢は、地域に暮らす人たちを巻き込みながら、一層実りある形へと拡大していきました。

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園内の「有料エリア」と「無料エリア」の両方に跨る「六泉池」。夏は青々と草木が茂り、冬は水鳥たちが多数飛来します。

園内の自然はわたしにとって宝であった。……動物展示事業と並ぶ、いや、それを包含する自然認識のための園全域の事業を展開する構想を、すなわち郷土自然ミュージアムとしての動物園づくりの構想をわたしは強く意識した。(前述「曖昧な日本の動物園」より)

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六泉池のほとりを歩いていると、「確かにここにはいのちが息づいている」という感覚が研ぎ澄まされるように思える場面があります。
放飼場に限定されない、フィールドで野生の生きものと向き合う自分を、知らず知らずのうちに意識させられるのです。
それは、六泉池から先にある「ふるさとの小路」においてもいっそう顕著です。

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さえずりを頼りに神経を樹冠に集中させていくと、ヤマガラの姿を目にすることが出来ました。園内の展示施設を通じて名前を覚えた生きものと、野生の条件下で出会うことで、いっそう発見は印象深いものとなりました。

園内マップ上ではただの自然道のように記されているこの場所に、ほかにはどんな生きものがいるのだろう。そんな心持ちで、探索する主体としての自分に出会うことができたのです。

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「ふるさとの小路」を歩いていくと、「とんぼの沢」と名づけられた、木道に囲まれた小さな湿地にたどり着きました。名前の通り多くのトンボが舞うこの湿地も、植生が変化し、消滅の危機にあったと言います。

園が再生事業を行い、また近隣の人々が参加する観察会などの取り組みを継続的に行う中で、絶滅危惧種であるホクリクサンショウウオやホタルの姿も見られるようになりました。
今は一般に広がっていった「ビオトープ」づくりの、小さくとも重要な、先駆的な試みです。

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動物園。そこに暮らす動物はけっして飼育動物だけではない。アリだって、ミジンコだって、野鳥だって、ドブネズミやカラスだって生存している。夜になればタヌキが出没しているかもしれない。そしてほかならぬ環境学習の対象の一つである自分たち、そう、動物を見に来る人も「動物」である。(前述「曖昧な日本の動物園」より)

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観覧に訪れたヒトと、放飼場の中にいる動物が隔たれているように捉えられることもある動物園という場。
けれど、その「間」を縫うように、確かに足もとで生きている野生の生き物たちに目を向けることで、ヒトもほかの生きものも同じ世界の環の中にあることを実感できるような気がします。

2019年、開園35周年を迎えたファミリーパーク。地元の高校生が揮毫した「いのち」の書が掲げられていました。
そこには、都会のメディアから「日本一地味な動物園」とまで言われたこともある同園が、しっかりと地域に足をつけて培ってきた想いが、力強く表現されていました。

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