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『旅先で幼い頃にかえる(香港)』

 ご無沙汰してしまっている好きな旅先の現在の様子をSNSでチェックするようになって久しい。
 「フォローする」にしてあるものが複数あると、夥しい数の情報が絶え間ない。全部に目が通せない。大切なもの、自分が本当に見たい・知りたい情報をチェックできているのだろうかと少々不安になる。そして、この世はつくづく情報過多だと溜息が出る。
 供給過多がフードロスを生み、情報過多は情報選択ミスを誘発し失敗を各所で発生させてはいまいか。
 香港在住、もしくは香港好きの日本の方々の発信が興味深い。僕のように返還前からの香港好きの方々のものもあれば、返還後に香港を好きになった方々のものもある。
 「返還後」と言ってもそろそろ返還後30年が見えてきている。返還直後からの香港好き・香港マニアでも立派な30年選手だ。あれから30年か・・・。
 あの啓徳空港に降り立ったことがあるかないかが返還前後の香港好きのポイントになりそうだ。返還前からの香港好きは、街中へ突っ込む錯覚に陥るあの啓徳空港への着陸から香港を語り始めるはずだから。
 日々香港発のSNSの投稿を見る。変わっていないところに安心し、変わってしまって、無くなってしまったところに残念な思いをする・・・これの繰り返し。
 食べものだけは裏切らないと思ってはいても、「実は・・・」から始まる残念な思いをする投稿を目にすることも。そんなときは必ず、「返還前はそんなことなかったのに・・・」となる。
 香港からSNSに投稿されてくる数多の写真から感じるのは、景色から昔からの香港らしさが徐々に消えていることだ。消えていくかわりに大陸色が濃くなってきていると感じるのは僕だけだろうか。
 僕の場合、根本に「イギリス好き」がある。返還前から街歩きでは「イギリスの残り香」を無意識に探していた。
 返還後の、特にこの10年くらいは、街歩きは気が付くと「返還前の香港を探して」になっている。
 香港の話を始めると時間を忘れてしまう人が僕の周りには少なくない。共通しているのは返還前の香港を知っていること。1997年7月1日以前に香港を訪れたことがあるトラベラーなら返還前の香港を知っていることになる。それがどこかへの乗り継ぎだけだったとしても。
 それほど広くも大きくもない香港。しかし、景色の中にパッと現れただけで、そこが香港だとわかる乗りものがある。そう、それが香港にはいくつもあるのだ。
 観光地では、その国、その都市にある代表的な乗りものの数だけお土産用のミニチュアがある。
 ロンドンでは二階建てバスやロンドンタクシーのミニチュアを購入した。自分の中にある幼い頃の思い出や帰国後の「英国ロス」を予期しての無意識の購入だった。

 香港でもやはり帰国後の「香港ロス」を予期して、気が付くとそれぞれ購入していた。

いつの間にかこんなに…。では、一つずつ…。

 スターフェリー。僕が人生で一番多く乗った船は間違いなくスターフェリー。カッコつけた言い方をするならば、九龍と香港島を何度も「クルーズ」した船とも言える。スターフェリーは「ああ、香港だな〜」と思う景色に欠かせないアイテムだ。気が付くと手頃なミニチュアの新作はないかと再訪の度に探していたりする。

10年近く前に弟が香港へ出張した際に買ってきてくれたミニチュア。よく出来ています。
15, 6年前に香港を再訪したときに買ったもの。波まで表現されています。
置きものらしくシールではなくプレートも。普段玄関に置いているのでホコリが・・・。
反対側にもプレートが。直近で見たものには波はありませんでした。2タイプある?
運航を始めてから約100年後に返還ということだったのか・・・。

 トラム。各車体の側面全体に広告が施されている。ラッピングされているという表現もある。街中で様々な広告でラッピングされたトラムが目の前を通り過ぎるのは、いつまでも眺めていられて飽きない。
 トラムに乗ったのは一度だけ。それは初めて香港を訪れたときで、勝手が分からず目の前に来た結構混んでいたトラムに飛び乗って、適当なところで飛び降りたということを覚えている。 
 トラムは観光客にとって、実は使いこなすにはなかなか難しい交通手段ではないだろうか?研究して使いこなしてみたいと昔から思ってはいるが、実現に至っていないのが正直なところだ。 
 一度時間を作って適当なトラムに乗って終点まで行ってみるということを繰り返してみたいと思っている。きっと見たことのない景色に出逢えるだろうから。

堪らないですね、この佇まい。次回再訪で色違いに出逢えるか・・・。
2004年に都内で発見して即買い。当時約2年ご無沙汰していたからだと・・・。
2021年に拝見したトラムの写真家として知られる松田浩一さんの個展でいただいた写真集。 ラッピングされたトラムでラッピングされているトラム。圧巻。
ポストカードも。絶景。ずっと眺めていられますね。

 バス。レパルスベイへ行く際は、必ず中環(セントラル)からバスに乗った。6番か61番だったと思う。
 途中日光のいろは坂のような道を木の枝に車体を擦りつけながら進んで行くところがある。懐かしい・・・。

 レパルスベイでランチを食べて、再びバスに乗って赤柱(スタンレー)に行く。スタンレーでは土産物屋を冷やかし、少々オシャレなカフェでお茶を飲むのが定番のコースだ。
 香港で公的交通機関のバスにしっかりと乗るのはセントラルーレパルスベイースタンレーと巡るときだけだろう。
 空港の往復はエアポートエクスプレスだし、駅とホテルの往復はバスだが、公的交通機関ではない巡回バスなので。 

 ここ何回かの再訪ではマカオ(そういえば、香港とマカオを結ぶフェリーの船内の売店でフェリーのミニチュアが売られていた。買わなかったが。)に行ったりもしているので、レパルスベイもスタンレーもかなりご無沙汰している。
 スタンレーはともかく、レパルスベイへはランチを食べに必ず再訪したい。 

いいですねぇ〜。よく出来ています。何度も訪れたレパルスベイの思い出が甦ります。
僕たちのずっと先輩の香港好きの方々はこのバスで香港に想いを馳せる?

 香港でミニチュアを買い始めたのは航空会社を辞めてからだ。
 香港へは成田から毎日運航していたので、休みさえ取れればいつでも自社便でひとりでも家族とでも行かれた。仕事でも年に数回訪れていた。
 「またすぐに来られる」という意識が常にあった。僕が女性だったらきっと気が済むまで(破産するまで?)「週末香港」を繰り返していたと思う。
 辞めてからはそれが「もう来られないかもしれない」「次はもうないかもしれない」に変わった。
 その意識が「大の大人がおもちゃを買うなんて」という恥ずかしさを乗り越えさせたのだと思う。
 乗りもののミニチュアそれぞれは僕の中の「香港ロス」を埋めるのに必須アイテムである。

 赤い車体に白字で「的士」と書かれたタクシーも忘れてはならない香港を代表する乗りものだ。
 車体はトヨタで車種は日本ではとっくの昔に型落ちとなっているもの。自動ドアとそうでないものが混在していたような記憶がある・・・それは別の国だったか。

 「的士」の文字を目にして、あのタクシーがハッキリと目に浮かぶ香港マニアのトラベラーも多いのでは?
 買いもので荷物が多くなり、香港島から九龍へタクシーで帰るとなると海底トンネルを通るための追加料金が頭をよぎる。額に汗しながらMTRで帰った経験があるトラベラーは多いと思う。
 この香港タクシーのミニチュアは持っていない。恐らく香港にはあるのだろうけど、探しもしなかった。それはきっと香港ではほとんどタクシーに乗らないからだと思う。
 毎回必ずタクシーに乗るのは、中環のスターフェリーポートと香港を訪れたら必ず訪れる海鮮料理のお店があるハッピーバレーの往復をするときだけである。いや、ホテルが九龍で、九龍中を歩き回って疲れてしまい、ホテルへ戻るのに乗るときもたまにある。
 直近の香港再訪は、コロナ禍以前の2019年5月。
 大陸色がかなり強くなっている様子がうかがえる現在の香港。香港での楽しかった数々の思い出が壊されないように恐る恐る再訪してみようかという気がしないでもない。
 現在の香港にガッカリさせられて、打ちひしがれるかもしれない。例えそうなったとしても、街歩きの最中に、質の高い「的士」のミニチュアが見つかったとしたら、立ち直れるかもしれない・・・多分。
 円安で訪れるのが精一杯。タクシーなんてとてもとても。だから、ミニチュアで我慢・・・なんて再訪はしたくないな。

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