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『ひきつけられて・2』

 旅のストーリーを月に一作書き続けて現在18年目。国内の某文具メーカーの某革のノートの公式ウェブサイト開設と同時に投稿を始めたのが始まりだった。
 一度も欠かすことなく投稿し、僕が書いた旅のストーリーが一作も欠けることなく掲載されてきたそのサイトがユーザーからの投稿(旅のストーリーを初め、ノートの拘った使い方やそのノートがある風景の写真など)を受け付けるのを昨年の春に止めた。以降この自分のnoteブログで月に一作のペースを保って書き続け公開している。
 今回のこの話はそのサイトに投稿し、公に掲載されたものから通算して199作目となる。
 この18年の間に情報収集のためのアンテナが自分の中にたくさん立った。多方向に向いているそんなアンテナのひとつが捕まえたのが、写真家・松田浩一さんの香港トラムの写真展だった。遡ること今から三年前の2021年11月のことだった。
 訪れて拝見した車体に様々な企業の広告が施された香港トラムの数多の写真は圧巻だった。
 この2024年の3月に三年前と同じ東京・恵比寿のギャラリーで松田さんの香港トラムの写真展が再び開催され再訪した。

写真展の開催を知らせるポスター。同じものを額装して自宅に飾りたくなりました。


今回の写真展の告知の絵葉書と図録。図録を眺めて香港に想いを馳せる・・・

 ギャラリー内で前回の個展以降に撮影された様子の写真をゆっくり拝見していると、「カタカタカタカタ・・・」という聞き覚えのある機械音を耳が捕まえた。ギャラリー内で邪魔にならない音量でずっと流れているこの機械音は何の音だったっけ?・・・としばし考えた。すぐにそれが香港の信号音であることを思い出した。そうだ、三年前にもここでこの音を耳にしていたのだった。 
 ギャラリー内では広告が施された何台ものトラムに取り囲まれているようだった。あえて最近の表現を用いるなら「広告にラッピングされた数多のトラム」とすべきところだろうか。最近では珍しくなくなったラッピングバスのヒントは香港トラムだったのかもしれない。 
 三年前と同じく、恵比寿のギャラリーにいるのにも関わらず、トラムが行き交う香港島の中環(セントラル)の街中に自分が立っている錯覚に陥った。 
 この信号音を耳にすると思い出される香港の景色が二つある。場所はいずれも九龍サイド。
 一つはシェラトンを背中にして立ち、「彌敦道」(ネイザンロード)を挟んでペニンシュラを正面に見た景色。信号が変わるとずっとこの音がしている。いや、信号が青に変わると音の速度が速くなったのかもしれない。 
 もう一つは左手に九龍公園、対面に重慶大厦(チョンキンマンション)が見えるスクランブルの横断歩道。信号が変わり、歩行者が一斉にネイザンロードを渡り始めると結構大きな「カタカタカタカタ・・・」が鳴り響く。  
 三年前の写真展を拝見した僕のことを松田さんは覚えていてくださった。以前書いたトラムを初め香港の乗りもののミニチュアの話の中で三年前の写真展にも触れていた。スマホを取り出してその箇所をお見せした。


香港で購入したトラムのミニチュア。いいですね!

 写真を拝見しながら松田さんにいろいろとお話を伺った。親しくお話していただいていることに甘えて、トラムが行き交う景色をずっと眺めていられる香港の「ベストスポット」を松田さんに尋ねてみた。撮影スポットでもあるその場所を松田さんは気持ちよく教えてくださった。
 松田さんのお写真を通して、トラムのラッピング広告の奥深さを知った。
以前からあったのだろうが、平面の絵でありながら立体的に見えるものを発見したときは感心してしまった。
 この写真展を見逃してしまった日本にいる香港好きが相当悔しい思いをしたのは想像に難くない。
 香港を休暇で訪れるとなると、目的は様々だが、「買う」と「食べる」が主なものだろう。一通り観光をしてしまった後の再訪は特にこの二つに限られてくるのでは?
 歳を重ね、再訪を重ねると、香港であえて欲しいものや買いたいものはもうほとんどない。旅なのだから滞在中は日々の東京での生活で出来ないことをしたい、非日常でありたい・・・そういう意識に変わってきている。
 時間の許す限りトラムが行き交うのを眺める。そういうひとときを香港で過ごしてみたくなった。
 香港での過ごし方は、約30年に渡って再訪を重ねてきてこのように少しずつ変わってきた。①再訪の度に訪れている「香港に来たな」と感じられる食事処へ行く。②スターフェリーに乗る。③バスで遠出する(レパルスベイやスタンレー等へ)。④事前の情報収集でアンテナに引っかかった未踏の場所を訪れる。結果「新規開拓」となったり、ならなかったり。旅ではそれが面白いのだ。これに次回の再訪から、「⑤香港トラムを眺める」が加わる。
 ここ20数年「日本ではちょっと手が出ないものを香港で買う」ということはやっていない。欲しいと思うものが自分の中で変わってきたのだろう。
 香港では専ら「買う」<「食べる」になっている。あえて「買う」ものは、お土産や頼まれものを除けば、旅の途中で出す絵葉書とコレクションしているスノードームくらいだろうか。
 シンガポールを訪れる度に買っていたマグネットの話を今から三年前に書いた。ふと香港のマグネットはどのくらいあるのだろうと思い、マグネットたちの我が家の定位置である冷蔵庫のドアを見てみた。たった三つしかなかった。

本当にこの三つしかありませんでした。一番下のものはどうして手に取ったかは不明(苦笑)。


重ねてきた移動や街歩きを思い起こさせてくれる標識のもの。「香港國際機場」のものは、返還前の啓徳空港をイメージして買ったと思われる。  
 九龍のホテルを後にしてこの標識をタクシーから目にしたとき、「ああ、もう帰るのだな・・・」と何度思ったことか・・・。
 仕事で来たときの帰りには、成田に着いて職場に直行してからの仕事の段取りを頭に描きながらその標識を見ていた。
 休暇の帰りには「もう少しいたかったな」とか「次はいつ来ようか」などと思いながら同じ標識を見ていたはずだ。同じ標識を目にしても、訪れる目的が異なると、思うことはこうも違ってくるのだ。
 「尖沙咀」。きっと数多の地名のマグネットがあり、迷わず選んだのがこれだったのだろう。未だに発音が難しい地名だが・・・。カタカナでここに記載するのは控えておく。
 迷ったとしたなら「彌敦道」とどちらかだろう。「尖沙咀」に「彌敦道」。どちらも見ただけで、様々な思い出と景色が浮かび上がってくるので。
 空港に尖沙咀。返還前の啓徳空港と最近減ってきたといわれている通りを横断しそうなほど横長のネオンが眩しかった頃の九龍エリアが懐かしい。「彌敦道」も買っておくべきだったか・・・。しかし、すごいな、マグネット・・・。ここまで文になるとは・・・。


香港マニア各位、いかがですか?次回はご自身の思い出の地名のものを探してみてください。

 次回の再訪時には、街歩きの最中に「これは」というものに出逢ったら迷わず手に取ることにしようと思っている。買いものも人との出逢いと同じ一期一会だろうし。
 マグネットをただの観光地土産と侮るなかれ。トラベラーにとってはいつでもその思い出の土地へ想像で連れて行ってくれるものなのだ。そして見る度に様々な思い出を呼び起こしてくれる。
 家でのマグネットたちの定位置は冷蔵庫のドアだ。次回の香港再訪では、きっと相当な数のマグネットを買ってしまう気がする。「一期一会」だという気持ちが働く上に「次はいつ来られるか分からない」という気持ちがもっと強く働くだろうから。
 後悔しないように買うのはいいが、マグネットを保管するために冷蔵庫をもう一台買う羽目にならないようにしなくては・・・。
 その前にこの円安。トラベラーには厳しすぎる。本当に何とかならないものだろうか・・・。

追記:
香港で買い集めた乗り物のミニチュアの話と、シンガポールで買い集めたマグネットの話は以下からご笑覧ください。









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