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最近読んだ本の感想「未解決事件 グリコ・森永事件 捜査員300人の証言」

今から38年も前に起きた事件なので、若い人は知らないと思う。そして時効を迎えたあと、18年たってこの本が発行された。
食品会社をねらい、毒物を商品に混入するという大胆な犯行だった。当初、グリコ社長を誘拐し監禁していたが、社長みずから逃げ出したことで捜査はしやすくなったはずだった。新聞社等に送り付けられた脅迫状は人々の興味をひいた。劇場型といわれる所以で、「けいさつの あほども え」で始まる脅迫文は特定のタイプでうたれたものだったが、そこから犯人に結びつくものはでてこなかった。
警察は犯人グループに振り回された。当時、警察は自分の管轄の地域以外は担当外となっていたが、犯人グループは県をまたいで身代金受け渡し場所を指定してきた。この事件がきっかけで警察の広域事件対応がかわった。
また、犯人グループは、毒物混入はしたものの、「たべたら きけん」としめすことで、実際の被害者はでていない。こうしたことから、人々はこの事件を興味本位でながめていたようでもある。
警察にしてみれば、未解決の事件について当初NHKの取材にたいして口はおもかった。警察組織の問題もあったが、「キツネ目の男」に2度も遭遇していながら、なぜ職務質問をしなかったのか、できなかったのか。それは現場の捜査員の考えではなく警察トップが一網打尽を考えていたため、職務質問することを許さなかった。
この事件について特定の捜査員だけに情報が開示され、それ以外の県警には開示されなかったことで、不審車両の取り逃がしなどが起きてしまっている。
また、遺留品が多いにもかかわらず多くが大量生産品ばかりで犯人に結び付くことはなかった。唯一滋賀県警がおこなった微物調査により特殊な金属が含まれていることがわかり、犯人に近づいていたようだ。

結局、この事件を総括しなかった警察に対し、この本は下記のようなまとめをしている。ただこれは警察に限ったことではないともしている。

・責任をとらない組織
・反省や総括をしない組織
・当局に振り回され、時に振り回し、組織の失敗や教訓を冷静に検証せず風化させるメディア
・そしてそれを受け入れる国民


事件は現場で動いているのに、現場の判断で捜査ができないのは、なにかおかしい。

取材をとおして得られた情報から、巨大組織の闇がすこし見えた気がする。現場の多くの捜査員の苦悩がうかがいしれる。退職後もこの事件を引きづっている方々が多いようだ。当時なかった最新の音響技術を駆使すると、おくりつけられた音声テープの声の主はそれぞれ別の子供だったことが分かっている、当時はわからなかったことだ。また通信にしてもデジタル無線がまだ普及しておらず、捜査におおきな支障となっていた。
過去の調査が中心のため、希望がみいだせないけれど、今は改善されていることを期待したい。

滋賀県警察本部の本部長がこの事件のあと焼身自殺している。ご冥福をお祈りします。

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