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だいすきなおばあちゃん

祖母の状態が悪いと聞いて5年ぶりに戻ることになった。
祖母は俺を可愛がってくれた。「私の父様によくにてるねえ」と事あるごとに言われ、愛された記憶がある。
5年ぶりに会う祖母は病院のベッドで半仰臥。曖昧な笑顔でこちらを見る。最初は別人かと思った。
祖母は優しい笑顔を絶やさないが、中心にパイルバンカーで打ったような重みをもつ瞳。あの睨まれると嘘も悪事もできなかった。
それが弱弱しい声で
「おとさん、かえってきらしたんだね…」
涙を流しながら体を起こそうとしたんだ。俺を誰かと間違ってる。

「おとさん、ふみはいいこしてたよ。おとさん。。。じっとしてろっていうから、じっとしてたよ。おとさんの帰ってくるのまってたよ。」
涙を流して俺に抱き着くと耳元で小さな声で話した。
「おとさん、おとさん。もう遠くにいかないでな。おとさんにだれにもいうなって言われたことも誰にもいわなかったよ。」
曖昧なまま、信じられない力で俺を抱きしめる。老人の何処にこんな力が?
「xxxx」
抱きしめた俺の耳元で何かを言うと祖母は意識を失くしてそのまま帰らぬ人となった。
見舞客、看護婦、母。病室の空気が変わった。

そして、この日を最後に俺の安息日も消滅した。

最初に狂ったのは母だった。病院から帰宅してすぐの事だ。
「おばあちゃん、おまえとひいおじいちゃんを見間違えたんだね。昔から似てるって言ってたしね」
「まあ、ばあちゃんも歳だからね。そんなこともあるでしょ」
「で、おばあちゃんが最後になんといったんだね?」
「ん?なんだっけ?」
スマホから目線をあげると、そこには母であり、母でない存在が右手の包丁を体の正中線に綺麗に納め、て隙のない構えを見せる。
熱い茶をいれた茶碗が飛んできたが辛うじて避け、反射的に台所を脱ける。靴とカバン。最低限の身の回りの品だけは確保。
転がるように家を出れば、黒塗りのセダンが止まってる。嫌な予感しかしねえ。怒号が後ろから迫ってる!

【続く】

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