見出し画像

49回目 Somerset Maugham を読む。まずは ”Cosmopolitans” の序文で英文のお勉強。でも本当は「モームをもっと知りたい」のです。

Rye さんの Note 記事「原書のすゝめ: #9 The Promise」に魅かれて、私もモームを読んでみたくなりました。前回読んだのは私の読書記録リストによると 2013 年の"Sanatorium" (Collected Short Stories Vol. 3) 以来ということになります。今回は、モームの作品がぞろぞろと無償でダウンロードできるようになっていることを発見することにもなりました。日本語ウィキペディアのサイト、サマセット・モームの記事に archive.org などの公開サイトが紹介されています。きっかけを与えて頂いたRye さんに大感謝です。

1. モームの文章を正確にとらえたい。

見慣れたはずの英単語がその文章の中で何を意味しているのか、IT、 THEY などの代名詞が何を指しているのか、まるでクイズか中高生時代の国語の試験問題のようでもあります。

[原文 1-1]The matter of course had to be chosen with discretion; it would have been futile to take a theme that demanded elaborate development; and I have a natural predilection for completeness, so that even in the little space at my disposal I wanted my story to have a beginning, a middle and an end. I do not for my own part much care for the shapeless story. To my mind it is not enough when the writer gives you the plain facts seen through his own eyes (which means of course that they are not plain facts, but facts distorted by his own idiosyncrasy); I think he should impose upon them a design.
[和訳 1-1](物語に取り上げる)事項は当然ながら注意深く選ぶことが必要です。複雑な構成・展開が必要になるようなテーマを選ぶと失敗します。一方私には完全性へのこだわりがあって、私の著作に許容されるスペース(雑誌内のページ数)は狭かったのに、それでも書き出し部、中間部、終結部でなるという構成を維持したかったのです。私自身、構成が不明確な物語は嫌いです。私の判断基準に照らして言えば、作家にとって現象・事実を自身の眼に見えた通りに書くだけでは十分でないのです。(なぜなら、誰かの眼を通して書かれた以上はもはや事実として存在したものではなくて、当然ながら書き手自身の好みによる歪曲が加わっているのです。)作家たる以上は何らかの意図・工夫(design)がその作品に加わっている必要があるのです。

Lines from line 11 to line 23 on page x,
"Preface" given to the short story collection,
'Cosmopolitans' by W. Somerset Maugham

[原文 1-2] Naturally these stories are anecdotes. If stories are interesting and well told they are none the worse for that. The story of Good Samaritan is an anecdote and a very good one. The anecdote is the basis of fiction. The restlessness of writers forces upon fiction from time to time forms that are foreign to it, but when it has been oppressed for a period by obscurity, propaganda or affectation, it reverts and returns inevitably to the anecdote.
[和訳 1-2] ここで話題にしている物語は、当然ながら何かに係わる逸話です。これら物語が興味を持てるものであり良く出来ているとすればそれについて問題にされること(非難される理由)はありません。あの良きサマリア人に纏わる物語も一つの逸話です。それも非常に良く出来た逸話です。逸話と呼ばれるものは創作物・小説の原形です。創作物・小説には、作家につきもののあの悩ましいものが、折に触れては繰り返すように、それとは異質の形式・性質を持たせようとする圧力が加わります。しかし創作物・小説に不人気、プロパガンダ、外見の取り繕いといったことが原因の圧力が一定の期間に渡って加わり続けることがあるのですが、その期間が終わるとやがては創作物・小説の側からの反発が起こり、必ずやそのうちに元の逸話に舞い戻ってくるものなのです。

Lines between line 1 on page x and line 6 on page xi,
"Preface" given to the short story collection,
'Cosmopolitans' by W. Somerset Maugham

しかし、その意味をきっちりと理解し尽くすとその主張の中身がなんとも面白くて読み進まざるを得なくなります。物事が混在する世間・社会、あるいは初めて訪れた街、そんなところに潜んでいる私には思いもよらなかった人々の関係・小道の存在を教えてくれるような語りです。さすがにモームの文章だと思わずにはおれないおもしろさです。この種のおもしろさは「世界文学」を定義しなおされた池澤夏樹氏の発想や Rushdie 並びに Bellow の作品にあっては、むしろ棚上げされている種類の要素であるかと私は認識しています。そんな認識を維持しながらも、頭の体操のようであるからして、私にも、モームを楽しむことはできるのです。


2. ジェームズ・ジョイス「ユリシーズ」への言及があります。

コロンビア大学の二人の教授が書き上げたばかりだと言う書籍「Modern Fiction」が送られてきたとして、その教授たちの小説批評の欠点を取り上げ叩きます。同時に小説が担う役割が「読者の Entertainment」だと論じます。話は進み次には、James Joyce の "Ulysses"、例の「意識のながれ 'stream of thought'」 を物書きが利用できる技術の一つで一時のはやりと整理・評価します。「意識の流れ」が重要なもの(小説技術?)として今でも話題('To the Lighthouse' を訳された鴻巣友季子氏の解説にあったと記憶します)にされることに消化不良を感じていた私にはよい助け舟を得た思いです。

[原文 2] The technical devices that an author uses to capture your interest are his own affair. Such a one as the 'stream of thought' is an amusing trick, but it is of no more real importance than the epistolary style which was in vogue during the eighteenth century. Like that, it is an ingenious expedient to give verisimilitude. To suppose that it can have a scientific value, as some critics have done, is ridiculous. The novelist gives you his private view of the universe. He offers you intelligent entertainment; and the first thing you should ask of an entertainment is that it should entertain.
[和訳 2] 読者の興味を獲得しようとして小説家が用いる小道具なるものは小説家自身で工面すべき範疇のものです。「意識の流れ」もそのような道具の一つであって読者を楽しませる小道具の一つなのですが、18 世紀に流行った手法であるところの手紙風の小説を書くという手法と同程度の重要度のものであってそれ以上のものではありません。これらどちらもは、創造の世界を何とかして実在の世界の如く感じさせる、その為の巧妙な工作・行為なのです。小説にも科学的な知識の普及という観点で価値があると主張する批評家がいるようですが、そんな議論は馬鹿げています。小説家というものは人々に世界を小説家自身の見方・見解にしたがって伝える人なのです。小説家は知的なエンタテインメント(娯楽用商品)を提供するのです。したがって、エンタテインメント(娯楽用商品)に読者が最優先で求めるべきものは「読者自身が楽しめる商品」なのです。

Lines between line 12 on page xii and line 2 on page xiii,
"Preface" given to the short story collection,
'Cosmopolitans' by W. Somerset Maugham


3. Study Notes の無償公開

Somerset Maugham の短編集「Cosmopolitans」の序文Preface 全6ページに対応する私の Study Notes です。辞書引き時間の節減に役立つと思います。