アイドルのライブに行ったら契約させられてた話

これはライブレポではありません

なにわ男子Live Tour2023「POPMALL」のライブレポを、自分の記憶の補強のために残しておきたいと思っているのですが、その前に今回は1つのシーンに絞って書きます。
最年長・藤原丈一郎くん(以下、丈くん)のMC中での発言について。

「僕たちはずっとずっとなにわ男子であり続けるので、皆さんもずっとずっとついてきてください」

私はこれを聞いて恐怖と罪と、丈君への畏怖(not恐怖)を感じて涙が出たのだが、この感情をもう少し咀嚼する必要があると思った。
強烈すぎる光景だったから。
Xでも書いたが、たぶん上手く咀嚼できてないし伝わってもいなかったんじゃないかと思う。
少し長い感情の整理話になるので、シンプルになにわ男子のライブレポを期待している方は画面そっ閉じでお願いします。

男性アイドル・女性アイドルの出発点

ランドセル素材・クラリーノを製造する、株式会社クラレが毎年発表している、新1年生の「将来就きたい職業」ランキング。
その中で、2012年から女子部門の2位にランクインし続けているのが「芸能人・モデル・歌手」だ。
さらに、「芸能人・モデル・歌手」の内訳をみると、アイドルがその7割を占めているらしい。
そう言われてみると、女性アイドルは「ずっとアイドルにあこがれてました」系の発言が非常に多いというか、大体そんなだよな(適当)。
(でもスマイレージのゆうかりん的な、本人のアイドル願望はそこまで強くなさそうなのに、センターに居ざるを得ない宿命にある子も最高だよなって思うよ。)

一方、男子部門では「芸能人・モデル・歌手」は10位以内にランクインしたことはない。
このランキングから読み取る限りでは、男性アイドルになりたい男の子、というのは多数派ではなさそうだ。
また、ジャニーズでは特にあるあるだが、「(美少年なので)家族が勝手に応募した」というパターンが多い。
という2点を掛け合わせると、男性アイドルの出発点って、「本人の意思とは関係なくアイドル道を歩むことになった」パターンがそう珍しくない、というか結構多いのではないかと。
ここがまず女性・男性アイドルの差としてある。

丈くんもまさにこのパターンで、母親が本人の知らぬうちにジャニーズに履歴書を送り、野球大会のオーディションに参加したのが始まりだ。
そもそもアイドルのオーディションですらないの、すごいな。

アイドルの“降り際”

アイドルには、いつか“降りる”日が来る。
ファンの担降りではなく、アイドル本人がアイドル性を脱却し看板を下ろす時だ。

女性アイドルの降り際は、ずいぶん多様化したと思う。
モーニング娘。が卒業・追加制度を浸透させ、AKBがそれを受け継いだことで、女性アイドルにおいては看板を下ろすことの衝撃が大分和らいだ。
アイドル卒業後のセカンドキャリアについては、そのテーマ単独で本が出版されたり、それこそたくさんのAKBG卒業生が実例を示した。

また、ライフステージが変化しながらもアイドルを降りない、という道も開拓された。
メンバー全員が既婚者となったNegicco、結婚・出産を経ても以前と変わらないアイドル性を石に齧りついても貫くでんぱ組.incのみりんちゃん、超メジャーアイドルでありながら既婚者となったももいろクローバーZ高城れにちゃんなど。

対して、男性アイドルの降り際の多様化は、女性アイドルのそれに比べて時差がある、まだ発展途上であると思う。
もちろん、アイドルグループに所属したまま結婚した男性アイドルは多数居る。
しかしそれがアイドル性を維持したままのものかというと、やっぱりそうは言いきれないと思う。
奥歯にものが挟まったような言い方で申し訳ないが、ここについて突っ込んだ言い方は難しい。でもそういうことで。

ストレートにアイドルグループを卒業・脱退した男性アイドルも多数いる。
その際の衝撃は、正直女性アイドルの卒業・脱退よりも規模が断然大きいと個人的に思う。
それは男性アイドル(というかもうジャニーズ)の支持層が圧倒的に大きいのもあるが、一番大きいのは男性アイドルには「定年」に近い概念がなかったからではないか。

こういう表現を嫌がる人もいると思うがあえて言う。
女性アイドルはどうしても、現役時代は処女性の幻想から逃れられない。
その代わりに、年齢を重ねることで処女性の幻想から解放してもらえる日が来る。
ファンも心の準備をする。
それも一つの降り際になる。

一方男性アイドルには、処女性にあたるものがない。
(恋愛がファン離れに繋がるのは変わらないが。)
何歳になったらもうアイドルは厳しいよね、という明確な線引きがない。
ファン個人の価値観としては存在するかもしれないが、共通認識として大体何歳までというものがない。
つまり、本人の意思と関わりないところで始まることが多い一方、降りるタイミングも非常にあいまいなのが男性アイドル、という現状がある。
よって、本人の強い意志でもって「アイドル」の看板を引き剝がすという事例が多く、それが男性アイドルの卒業・脱退の衝撃を大きくしているのではないだろうか。

なお、グラデーション的にアイドルからアーティスト・タレント等に移行していったパターンは除外する。
アイドル性の維持の話なので。

「ずっとずっと」は希望なのか

すごく長かったけど、ここまでなんと前振りです。ごめん。

本題に入る。
これまでの「男性アイドルのアイドル性の維持めちゃムズ説」を踏まえると、丈くんの言う「ずっとずっとなにわ男子であり続ける」ことが、私にはどうしても未来への希望として素直に受け取ることができなかった。
それを実現することの困難さは、今これを読んでいる人たちは大体わかっていると思う。
まして、あの渦のすぐ近くにいた丈くんならなおさら、痛いほどわかっていると思う。

それでもなお、しかも昨今の男性アイドルの中で特にアイドル性の高い「なにわ男子」であり続けることを宣言する。
これを手放しに「丈くんスゴイ!」と称賛するのは私にはできなかった。
恐ろしいことを言ってしまっている、と思った。
でも、丈くんの眼はあまりにも強くて、確実にノリで言っちゃったとかでは断じてない、強烈な覚悟と切実さをもったものだった。
発言内容が描く未来の苦難に恐怖し、丈くんの覚悟に敬意を覚え、それでもどうかそんな困難な道を貫くことを自分に課さないでと、恐怖9割感動1割の畏怖を感じた。

そしてさらに、ファンにも「ずっとずっとついてくる」ことを願われてしまった。
これはもう、契約だ。(個人の感想です)
アイドルと未来の約束をしない論者の私が、あの日横浜アリーナに居たがゆえに、めちゃくちゃ重い契約をしてしまった。
アイドルとその看板をずっとずっと繋ぎ止めてしまうことは、オタクの罪であると思っている。
その罪を、ともに背負うことになってしまった。(個人の感想です)
とはいえ、100%望んでいないとは言えない。「ねぇ」で、ファンタジックアイドル・なにわ男子に誇りを持っていてくれることに喜びを感じた私がいるから。
だからこそ、罪を背負うことに100%の恐怖を感じた。これは畏怖ではない。恐怖だ。(個人の感想です)

丈くんに、「ずっと」ぐらいで留めておいていいよ、と伝えたい。
「ずっとずっと」じゃなくていいんだよ、と。
今見せてもらっている夢の世界だけで、私個人は十分に満足しているので。

でも多分、あの現実離れした、ファンタジックななにわ男子として立つということは、「ずっとずっと」という覚悟でなければ実現できないのかもしれない。
そのなにわ男子を消費している以上、私も仮に契約などしていなくても罪の加担者なのかもしれない。
そんな現実を突きつけられた気もして、衝撃的だった。


なんともまとまらない文章になったが、そもそもまとめることなんて不可能だ。
ファンタジックな存在の、見えない未来を、確信的に約束されて(させられて)しまった、という話なのだから。
この契約を経て私がどう彼らを推していくのか。未だに答えは出ていない。
こんなに考えさせるために発した言葉だったとしたら、丈くん効きすぎてるよ。
そんなつもりはなくただ純粋な決意表明だとしたら、もう彼はとっくにアイドルの炎の道を渡り、身を焦がす覚悟をしているんだと思う。
その覚悟に応え得るオタクになる自信、正直今はない。
ただ、素晴らしいものを見せてくれてありがとう、あなたの幸せを心から願っていますと、そういう気持ちではいます。

余談

アイドルと契約と言えば私立恵比寿中学のメジャーデビュー曲「仮契約のシンデレラ」。
当時は「アイドルの過剰な可愛さと契約という世知辛さのチグハグぶりが面白いな」ぐらいにしか思ってなかった。
今となってはめちゃくちゃ重いものを迫ってる歌だし、アイドルとオタクって仮契約ぐらいの軽さでちょうどいいんじゃないかな…って思う。

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