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フェルナンド・ぺソア短編集

ポルトガル・リスボン出身の、国を代表する作家フェルナンド・ぺソア(1888-1935)による7つの短編が集められた一冊。暗い感じだったり皮肉的だったりする内容が多い短編集だなと思いました。

独創的な晩餐会

静かに物語が進むのに怖い話。ホラー好きの方、複雑ではない短いホラー話を読みたい方はどうぞ。

ある日、世にも独創的な晩餐会が開かれることに。

開催者は、いつも人を笑わすような実に陽気な人。しかしながら彼自身の表情には何かしら影が見えるような人物。決して怒ったことはなく争いを避けるのが彼の常。晩餐会は、美食協会定例会として良く行われていたが今回は、全く違うものらしい。

さて、何が「独創的」でしょう。

感想としてはこういうホラー系の怖さを持つ物語書くんだ、って少しびっくりです。

原題:”Um jantar muito oruginal" (1907)

忘却の街道

不安を掻き立てられるような物語。闇の中、自分も他人も姿を見ることは出来ず、確認することの不可能な自分の存在。掴みようのない感覚が、読んでいて嫌な感じに胸が騒ぐ。

第一次世界大戦勃発の年に書かれたそう。当時の暗い影、闇、不穏な空気がこの作品にも影響を与えたのかもしれません。

原題:"A estrada do esquecimento" (1914)

たいしたポルトガル人

ペテン師の話。悪知恵働く者は、世渡り上手、そんな社会は今もそうかもしれないな、、と思ってしまいます。

原題:”Um grande português" (1926)

夫たち

ある女性が「判事さま」と社会がどんなであるか、男が女のことなんてわかっちゃいない、女の悪いところはこうこうで、生きていくためにこれは必要だった、と語り訴える短編。

彼女は女性というよりも世の中の「妻」を代表しての声を上げていたのだと私は思う。人地の自立した存在ではなく夫がいてこそ成り立つ存在として。題名が「夫」ではなく「夫たち」となっていることも、多くの女性の代表としての思いだということにつながっているのだろう。

原題:"Maridos" (1928?)

手紙

病気持ちの19歳の少女が、窓の外によく見かける男性アントニオへ向けて、渡すこともしないのに彼へ書いた一通の手紙。届かない、閉じ込められた想いがもどかしい、、!

原題:”A carta da corcunda para o seralheiro" (1930?)

その町で罪を犯した人を捕まえるために、そこの町のは皆結束する。罪人は獲物と表現される。一致団結するときというのは、仲間の中で芽生える愛や友情のためではなく、仲間というグループの外にある、敵やよそ者を前にした時なのでしょうか。

戦争はまさにそうですよね、一致団結するために、敵を憎む。その憎しみが仲間の結束をより深める。大きな話でいえば、ユダヤ人の迫害、身の回りの話から考えれば学校などでのいじめ、仲間外れ、など、、。

人間の卑しい面が描かれていると思います。

原題:”A caçada" (1935)

アナーキストの銀行家

この本の中で一番長い短編です。

資本主義社会を代表するような存在でもある銀行家。なぜ彼がアナーキストなのか、延々と語り続ける物語。聞けば聞くほどその姿が滑稽に感じられる。社会的習慣と社会的体制は人間が作り出した虚構であり、それこそが悪である。それを乗り越えるために至った結論がアナーキストになることだった。そこから展開する彼の持論。順を追って聞いていくうちに「あれ、結局は個人個人が利を追求し格差を生み出す体制と変わらないのでは」と思わされます。

原題:"O banqueiro anarquista" (1922)





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