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After Dev Day: 競合調査から見るOpenAIの強かな戦略

先日のOpenAI Dev Dayの発表は、アプリケーションの最前線を再定義するものでした。安価なAPIの提供や高度な機能の開放によってもたらされた開発の熱狂はさめやらず、独創的なAI Assistantや革新的なアプリケーションのデモが続々登場しています。
先日の投稿ではOpenAIの目指す未来について書きましたが、今回は以下のようなデータに基づいてより踏み込んだ考察をしてみました。

  •  ChatAI市場においてChatGPTに次ぐアクセス数を誇るcharacter.aiとのトラフィック比較を通してGPTsが発表された背景と未来を考察します。

  • さらに、OpenAIのAPIと競合が提供するAPIの価格を比較することでその強かな戦略に迫ります。


1. Character.Ai vs GPTsから見る戦略的発想

Character.Aiの脅威

日本ではそれほど話題になっていませんが,この衝撃的なグラフを目にしたことはあるでしょうか?

Image Credits: similarweb(Blog

このグラフは8月時点にweb市場分析ファームのsimilarwebが出したレポートに掲載されたものです.この分析によれば米国では、ChatAIサービスの character.ai がモバイルアプリ・モバイルweb市場で、ChatGPTの約60%以上のトラフィックを獲得しています。

character.aiは評価額が50億ドルを超える可能性もあると報じられているLLM時代において最も成功しているサービスの一つです。character.aiではユーザーが、キャラクターの性格や文書を設定することで、個性を持ったAIと対話することができます。特に、著名人やアニメキャラクターを模したAIが人気を集めています。

このサービスは11月現在も米国を中心に支持を得ており、10代から20代前半の若者に顕著に支持されています。

Image Credits: similarweb(Blog

さらに用途も異なっており、ChatGPTは業務や授業の課題などに使用されているケースが多く、「便利だから使っている」のに対して、character.aiは隙間時間のエンタメなど「楽しいから使っている」ユーザーが多いとされます。この点の裏付けとしてそれぞれのトラフィック分析を行ったところ、ChatGPTでは休日20%前後アクセスが減少するのに対して、character.aiは逆に休日にアクセスが増加します。

GPTsはcharacter.aiへの対抗策か

GPTs・GPTStore の機能をクイックに振り返ると次の通りです。

  • ChatGPTの自身のロールを設定できる

  • 参照させる文書データを与えることができる

  • Web Browsing、DALL・E 3 などを必要に応じて呼び出すようにできる

  • 上記によって作成したChatAIをGPT Storeでシェアすることができる

注目すべきは、GPTs はcharacter.aiの基本機能を内包しているということです。この機能を使えば、character.aiに存在しているような個性を持ったAIを作成することができ、実際GPTsによる様々なパーソナルAIが登場してきています(恋愛シミュレーション, ロールプレイゲーム, etc)。

GPTsの業務効率化におけるエージェントとしての側面が非常に強力であることは明らかです。しかし上述の分析によればOpenAIは業務効率化に加えて、この新興ながら巨大な、パーソナルAI市場を意識してGPTsをリリースしていると見ることも可能です。

2. 競合に比べて安価なOpenAI API

APIとは、開発者向けにプログラムからopenaiのモデルを呼び出せるようにするために提供されるものです。

結論から言えば、OpenAIはLLMとTTS(Text to Speech)について高性能なモデルのAPIを競合の安価なモデルと同等かそれ以下の価格で提供しており、OpenAIのAPIを活用したサービスの登場はさらに加速していくだろうと思われます。

したがって、この価格改定によってOpenAIの基盤モデルとしての地位はさらに盤石なものとなったと考えられます。

オープンソースLLMホスティングサービスとの比較

今回、OpenAIはGPT3.5のAPIである、gpt-3.5-turboの価格を50%以上減額しました。この減額はオープンソースLLMにとってクリティカルなものであると考えています。以下の表をご覧ください。

LLMホスティングサービスの価格比較

表中のanyscalefireworks.aiはLLAMA2などのオープンソースのLLMをホスティングしてAPIとして提供するサービスです。fireworks.aiではELYZA社による日本語LLMも提供されています。
これらは格安でLLMのAPIが使えるサービスとしてポジションをとってきましたが、今回のアップデートでOpenAIのGPT-3.5 APIがほぼ同じ価格で提供されるようになりました。

TTS(Text To Speech)の競合との比較

DevDay後以下のようなツイートが話題になっていました。OpenAIのTTSが競合に比べて10-20倍以上安いという投稿です。

TTSを提供しているプロバイダーの料金の比較表が以下です。

TTSの価格比較表

表中のElevenLabsとは2022年設立のスタートアップで、現在3回目の資金調達ラウンドを10億ドルの評価額で交渉中のユニコーン候補の企業です。この企業が提供しているTTS機能に比べてOpenAIのTTSは確かに10倍以上安価になっています。

ただし、ElevenLabsのサービスは録画音声から音声クローンを生成して音声を出力するサービスも込みで提供されているので単純な比較はできないことに注意が必要です。

単純なTTSの競合との比較としては、AWSが提供しているAmazon Pollyより僅かながら安価な価格でOpenAIのAPIが提供されています。

3. 結論と考察

OpenAIは、競合他社に比べて安価で高性能APIを提供することで、世界中の開発者たちが革新的なAI駆動ソフトウェアを次々に創出するきっかけを作りました。これは、AIアプリケーションの世界的な普及を促進すると同時に、同社の基盤モデルのプレゼンスを強化する戦略的な動きとも考えられます。

さらに、GPTs の新機能は、業務効率化機能の提供に留まらず、character.aiなどのパーソナルAIの高まる需要に応える形でリリースされたと見ることもできます。少なくともこれにより、ChatGPTがまだ十分に対応できていなかった若年層や娯楽目的の市場に進出し、その地位をより強固なものにすることが可能な体制になりました。

さらに踏み込んだ考察

OpenAIは設立以来、汎用人工知能(AGI)の開発を目指し、非営利組織としてGPTなどの基盤モデル開発に注力してきました。しかし、直近のDevDayでの発表は、次世代のGPT開発や基盤モデルの性能向上ではなく、その周辺環境や応用に焦点を当てたものでした。この方針転換の背後にある理由を考えてみます。

思い出されるのは、bot判定で知られるreCAPTCHAのような、人類の共同作業によるデータ収集の枠組みです。reCAPTCHAは、botか否かを識別するタスクを解かせる際に、人間の回答を収集し、そのデータをAIのトレーニングに有効活用しています。このプロセスにより、画像や文字認識アルゴリズムの精度が大きく向上しました。
このような共同作業が、OpenAIが目指すAGIの完成においても重要な要素である可能性があります。LLMにおいて人間からの高品質なフィードバックが重要であることは、OpenAI自身が開発したRLHF(人間の価値基準のフィードバック機構)の成功によって既に示された通りです。さらに、2022年に投稿された論文によれば、数年後には高品質な言語データが枯渇する可能性も指摘されています。したがって、少なくとも、大量の人間によるフィードバックを保持していることによる優位性は今後高まるだろうと予想されます。

このような背景こそが、かつてのように基盤モデルの性能向上のみに注力するのではなく、ユーザーとの接点を重視する機能を打ち出す戦略的決定を下した要因の一つと解釈することができるかもしれません。

運営サイト紹介

私たちは sayhi2.ai というサイトを作成しています。3000以上のAIツールを掲載しており、記事内で紹介した character.ai の他にもパーソナルAI領域で伸びている多くの競合を調査深掘りすることができます。この記事が面白いと思っていただけた方にはぜひsayhi2.aiも役立てていただけると思います。ぜひお試しください。

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