ソロリプレイ小説「カラテカルト教団の恐怖」


この記事はニンジャスレイヤーTRPGの、公式ソロシナリオ「カラテカルト教団の恐怖」のリプレイ小説です。

背景描写や敵のセリフなど、元記事の地の文を一部使用しております。


挑戦ニンジャ
【ホワイトディアー】



カラテ    2  体力   2
ニューロン  5  精神力  6
ワザマエ   2  脚力   2/N
ジツ     1  万札   0

攻撃/射撃/機先/電脳  2/2/5/5
回避/精密/側転/発動  5/2/2/7
即応ダイス:5   緊急回避ダイス:0

◇防具やサイバネ
伝統的礼装

◇武器
素手&スリケン

◇スキルやジツ
☆ヘンゲヨーカイ・ジツLv.1(二足歩行の白い鹿)
☆◉ヘンゲ・マスタリー
◉貴族の流儀

◇その他データ上の特記事項
「オーガニック」を冠さないスシ、及びドラッグでは体力が回復しない。もしくは生命の危機でもそのアイテムを使用しない。

◇背景や外見
白いマッシュの髪に紫紺の高級スーツ。人を見下した目を持つ青年。オムラ傘下の中小企業の御曹司。自分以外を格下だと考えている。
ドライかウエットかを問わずサイバネを入れている者全体に良くない偏見を持ち、自身もインプラントを拒否している。
二足歩行の白いふわふわの鹿に姿を変える事で、正体を隠しながらニンジャ的欲求を叶える。

以下本編也


◆◆◆◆◆◆◆◆

   ウシミツアワー。ネオサイタマに聳え立つ摩天楼…から少し視線を落とした所。周りのメガコーポビル群と比較すれば劣ってこそいるが、それなりに立派な企業ビルがある。それはヒカリ・アソシエーションズ社。昨年暗黒メガコーポのオムラ・インダストリの一部として吸収された人材派遣会社だ。ビルの最上階で光る大きな窓には、逆光となった青年のシルエットが一つ。窓の外を見ながら社員の報告を受けている。


「エートですね…近頃メガコーポ役員の御子息やご令嬢、坊ちゃんのような年頃のカチグミの方々の行方が知れなくなっているようでして…」

「要点を言え!」


青年が景色から視線を外さず叱責する。読者諸氏が超常存在に仕えた経験があればもうお分かりであろう。その青年はニンジャであり、声にはニンジャ威圧感が多分に含まれていた。


「アイエッ!?」


社員失禁!足元を滴らせながら簡潔に要点を伝える。

「エ、エー、失踪家出した方々の中にはエモコ様も含まれております。マシロ様も小さな頃よく遊ばれたアタラシイ・ソリューションズ社のご令嬢、エモコ様です。エモコ様が社に戻られる事を、他ならぬ貴方のお父上が望んでいらっしゃいます。」


マシロと呼ばれた青年は、自分の父親が他人の娘の心配などするはすがないと察する。アタラシイ・ソリューションズ社に対して娘を助けたと恩を売りたいのだろう。マシロの父は自分の息子がニンジャだと知った上で顎で使っている。彼の父はニンジャをこき使う様な度胸のある人間ではない。オムラに合併してからエージェントニンジャで見慣れただけだ。彼はニンジャになった直後父を手慰みに殺そうとも考えたが、その後仕事を継ぐ必要が出てくるのも、オムラのニンジャに目を付けられて余計な仕事を割り振られるのも彼は嫌だった。終わらないモラトリアムを満喫する為に父親の遣いにはある程度応える必要がある。

「…了承したと父上に伝えておけ。足元の水溜まりは片付けておけよ。」

「ヨ、ヨロコンデー!」


失禁した社員は細く白い上半身を曝け出し、己がシャツとネクタイで床を掃除した。社員が去った後、マシロは明日に備えてぐっすりと眠った。特注の1/1ケモチャンぬいぐるみと共に…。


◆◆◆◆◆◆◆

マシロは夕方に目を覚まし、調査活動を始めた。かつて交換していたIRCチャットの連絡先から、エモコとその友人のチャットログに違法アクセスし、その足取りを追う。
他愛もない朝食の写真。気になる男子の話。男子を選ぶ基準の話題。腕っぷしの強さ。ケンカの強さ。カラテの強さ。正拳突きをしているルックスの良い男子の写真。写真は…チラシの一部。チラシにはミンチョ体で、ドクノキバ。小さくネオロポンギのアドレス。
マシロは紫紺のスーツに着替え、社員を呼び付け車を出させた。


◆◆◆◆◆◆


   ティーンエイジャーが黒塗りの車から降りてくる。ネオサイタマの他の場所なら浮く光景だが、ここカチグミ向け商業施設の乱立するエリアではチャメシ・インシデントだ。
チラシ住所の雑居ビルに辿り着いた。情報と推測が正しければこの中に怪しいカラテの集いがあり、そこにはエモコもいる。
マシロはカチグミらしく堂々と雑居ビルへ入る。入口にはサングラスをかけた警備員が居たが、青年の装いとその振る舞いでゲストだと判断し軽い持ち物検査で彼を通過させた。
エレベーターに乗り、そして降りる。フロアに足を踏み入れた瞬間、立ち上る熱気にくらりとする。耳を澄ませると、奥からはカラテシャウト。一人や二人ではない。数十人、いや三桁か。本人は知る由も無いが、彼の判断力はフロアに立ち込める香の煙によって鈍っていた。廊下の曲がり角には、鋼鉄の蛇神の頭部を模した大きなバストアップスタチューがあった。曲がり角の向こうに敵が居ないか、スタチューに登り顔だけサッと向こう側に出す。誰も居ない。しめやかに移動を再開しようとした直後!鋼鉄のコブラスタチューが電子音声で警告した!

『メイヘムよ! 侵入者がいるぞ!』

周囲の壁が同時に反転!ジュー・ウェアを着たカラテカルティストたちが襲いかかってきた!彼らの拳がマシロの額に衝突するそのコンマ数秒前、マシロの両手両足は蹄に変わり、紫紺のスーツは裂け、内側からふわふわの白い体毛が飛び出し、額から木の成長の早送りの様にツノが生えた。

「イヤーッ!」
「「「グワーッ!」」」


額の立派なツノを振り回し、カラテカルティスト達を壁に叩き付ける!モータルは皆糸の切れたジョルリ人形めいて意識を失った。CRACK!コブラのスタチューを蹄の蹴りで破壊する。


(((メイヘム?ニンジャの名前か?だとしたらまずいな…)))

足早に移動してエモコを探す。ターン!ターン!いくつかのフスマを開けた後、フートンに眠る女性を発見した。エモコだ。会うのは10年以上ぶりではあったが、当時の面影が残っている。彼女を揺さぶって起こす。

「エモコ!エモコ!」

「……アイエエエ⁉︎ニンジャ⁉︎鹿⁉︎ナンデ⁉︎」


マシロは彼女を落ち着かせようと変身を解き人の姿に戻った。


「アイエエ…エ…マシロ=サン…?」

「ここを出るぞ。もう私が侵入した事がバレてるかもしれない。早く出ないと…」

「出ない!もっとここに居たいの!メイヘム=サンみたいなカラテを身に付けたいの!コーポに戻りたくなんかない!」

エモコの目からはなんらかのジツの影響下にある事が読み取れる。彼女の言動からメイヘムと呼ばれる者はカラテに長けていると思われる。その上人心を魅了するジツも持っている。その様なニンジャがここに来たら…。

「いいか。エモコ。エモコ。おい、こっちを見ろ。こっちを見ろッ!」

「アイエッ⁉︎」

「確かにコーポはクソだ。でも最初何でお前はここに来た?メイヘム=サンとやらと結婚しにか?違う。良い男を探しにだろ?ここにルックスの良い男は居たか?カラテばかりを求めて、自分の見た目を気にする奴が一人でも居たか?コーポの同い年の連中と、どっちが顔が良い?メイヘム=サンは良い男なのか?」

「……メイヘム=サンは…女の人」

「ならもうここに居る用は無いな。早く出るぞ!」

「う、うん」


説得によって帰る気になったエモコ。肩を担いでエレベーターへ向かおうとした、その時!KRAAAASH!ドージョーの窓ガラスが外側からのトビゲリで破られた!

「イヤーッ!」


直後、アフリカ投げナイフめいた毒スリケンがマシロに向かって飛来した!


「イヤーッ!」


マシロは肩を貸していたエモコを突き飛ばしブリッジ回避!


「ドーモ、メイヘムです。貴様のカラテ、見せてもらおうか……!」


ドージョーの主は死闘の予感に笑みを浮かべ、アユタヤン・コブラカラテを構えた! このニンジャこそが、カチグミの子息令嬢をジツで魅惑し、カラテカルト教団「ドクノキバ」に引き込んでいた張本人に違いない!
エモコをもう一度担ぎ直して逃走する程の隙がこのニンジャには無い。モータルを担いで逃げ切る程の力も今のマシロには無い。すると道は一つ。アイサツは返さねばならない…!

「ドーモ、ホワイトディアーです。お前の様なニンジャに構っている暇はない。」

マシロ、いやホワイトディアーは目を瞑り精神を集中!再び白い二本立ちの鹿に変わる!このヘンゲに要した時間でメイヘムは至近距離まで接近!情け容赦の無いアユタヤン・コブラカラテを叩き付ける!頭部を狙った回し蹴り!


「イヤーッ!」
「イヤーッ!」


ホワイトディアーしゃがみ回避!しかしそれを読んでいたメイヘムの後ろ回し蹴り!


「イヤーッ!」
「グワーッ!」


蛇の様にしなる足がホワイトディアーの頭部へヒット!立派なツノが麩菓子が如く破壊される!ホワイトディアーはよろけながらも次の攻撃姿勢を取る…と見せかけて四足歩行となりエモコへ全力ダッシュ!エモコを背中に乗せて雑居ビルの窓から飛び出した!

蹄の音を闇夜に響かせながら銀白の鹿が屋上を跳び渡る。そして二人は重金属酸性雨降りしきるネオサイタマの闇へと消えた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆


後日。

マシロの父親はエモコの父に恩を売れたことを大変喜んだ。アタラシイ・ソリューションズ社はヒカリ・アソシエーションズ社の傀儡になる、オムラ側に土産ができた、などと言っていたが、当のマシロにとってはどうでもいいことだった。

父に言われた事を完遂した。時々父の小間使いとなれば今後もビジネスなどという煩雑なものには巻き込まれず、好きな生活を送ることができる。それだけで今はマシロにとって充分だった。父親は小遣いだと言って20万という端金を渡してきた。この程度の金は言えばいつでも与えられるもので、喜ぶ程のものではない。しかし小遣いと共に与えられたもう一つのものは特別で…

「ケモビール」

「わかったわかった。ご飯だな?食いしん坊め」

「ケモビール」


与えられたのはケモビール社のマスコット、ケモ動物だった。マシロがケモチャンぬいぐるみと寝ている事を知ってか知らずか、父親はケモ動物を寄越してきた。金にも企業社員にも、エモコのその後にさえも興味を抱かない彼が、唯一心を開く相手が生まれた。このケモ動物が彼の道を共に行くオマモリ・タリスマンとなるのか、はたまた致命的な弱みとなるのか。それはブッダにもわからないことだった。

-おわり-


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?